13.
夕刻、ルーイスが帰宅いたしました。
「姉さま、ただいま!」
「お帰りなさい、ルーイス」
わたくしは瞬きを3回いたしました。
それを見たルーイスもまた。
「姉さま、今日学園で新しいことを学んだんだ。聞いてくれる?」
「あら、何を学んだのでしょう」
「“ボードゲーム”の新しい手だよ」
「まあ。でしたら、実際にボードゲームをしながら教えてもらえるかしら?」
「勿論だよ!今からこの姉さまの部屋でしよう!」
わたくしたちは微笑んで椅子に座りました。
そして、ルーイス付きの侍女にちらりと視線を送りました。
ルーイスは小さく頷き、侍女に話しかけました。
「サリー、僕の部屋からゲームの指南書を持ってきてよ」
「指南書、ですか?えっと、どちらにあるのでしょう。私ではわからないかもしれませんのでヤスミン様にお願いしてもよろしいでしょうか……」
あら……。この子、こんなこと言う子でしたでしょうか。
「サリー。なんで姉さまの次女のヤスミンにそんなことをお願いするの?」
ルーイスは、いつもより半音下がった声で問いかけます。
「あ、それは、ヤスミン様はこちらのお屋敷のことに詳しいですし……。えっと、私はルーイス様の側にいないといけませんし」
困った子ね。三文芝居過ぎて、最早哀れです。
「サリー、おかしいよね。ここは姉さまの部屋だよ。お前がここにのさばるなんて、おかしいよね」
あら嫌ですわ。ルーイスが汚い言葉を吐き始めましたわ。
「ですが、私はルーイス様の……」
「サリー、取に行け。今すぐに」
完全に、低音の声になってしまいましたわね。命令も下しましたし、すぐにこの部屋から出て行ってくれたらいいのですけど。
「あ、あの。私……」
はあ……。この子、誰からの紹介で来たのでしたかしら。後で確認しませんと。
「姉さま、ミヒャエルをお貸しください」
「ええ、いいわよ。ミヒャエル、こっちに来て」
部屋の外に控えていたミヒャエルを呼びます。
「……はい。どうされましたか?」
「ミヒャエル、申し訳ないんだけど、サリーを侍女長のところに連れて行って。主の言うことが聞けないらしいから下働きをさせるようにって言っといてよ」
「ルーイス様、かしこまりました」
ミヒャエルは一礼をし、サリーの首根っこを掴んで出ていきました。
サリーがこの部屋を出るとき、やはり微かに甘ったるい香りがいたしましたわね……。
「姉さま、どうやら鼠がうろついています?この前、外から来た鼠を排除したと思うのですが……」
ルーイスは、わたくしとヤスミンの3人になったとたん、核心を話し始めました。
「そうなの。屋敷の半数が買収されていますわ」
「ええ~。半数も?母様、女主人として駄目だね」
ルーイスはヤスミンが入れたお茶のカップを持ち上げ、笑いながら話します。
「本日からはわたくしが家政を引き受けることにいたしました。あと、領地経営もルーイスと2人ですることになりましたからね」
わたくしもカップを持ち上げながら話します。
「本当に!やったね!これで、頼りない両親にイライラしなくて済む!」
あらあら、本音を話し過ぎですわよ。
「あの両親も悪い人たちではないのですから、もう少し優しくしてあげてね」
全く頼れませんけど、ね。
「それで?これからどうするの?黒幕は、わかっているんでしょう?」
「ええ、黒幕はわかっています。……ルーイス。侍女のサリーはどうします?手元に残しますか?」
「ああ……、サリーね。可愛いし、胸が大きいから側に置いていたけど、裏切る子はいらないよ」
「あら、ルーイスは顔と胸で選んだのですね……」
わたくしは、ため息をつきながら、持っていたカップをテーブルに置きました。
「姉さま!ごめんなさい!僕も男だから、つい……」
「……」
わたくしは、いつまでもルーイスを小さな子供だからと決めつけ、女性をそんな目で見ていると思いませんでした。
ですが、思春期ですものね。多少のことは目を瞑りましょう。
「ルーイス、屋敷の女性には手を出さないでね」
柔らかく笑いながら、釘を刺しておきます。
「姉さま……。僕、そんなことしませんよ……」
わたくしの言葉を聞いて、落ち込んだ顔をしておりますわ。可愛いですわね。
ふふふと笑ってしまい、さらに落ち込むルーイスでしたが、その後の話し合いで始めますと笑顔が消えてしまいました。
「姉さま。ここまでくると、戻れません、ね」
「そうですわね。……ルーイス付きも、考えませんと」
「でしたら、下男を付けてください。フィリクス様やニールも側使えの下男を置いていますし。僕も跡を継ぐのですからね」
「そうですわね。……護衛も兼ねた下男を探しましょう」
わたくしとルーイスは顔を見合わせ頷き、ヤスミンが手配した軽食を片手に下男下女のリストに印をつけていきました。
そうして、わたくしたちは翌日、
“お掃除”を実行することにいたしました。




