21 丑三つ時
とある地下室。大森林に程近い掘立て小屋から通じているそこは、施術室など目じゃない位の深さにあった。
規則的に取り付けられた鉄格子はその湿気により錆ついており、どこからか水の滴る音が響いている。
「よし、お前ら。今日は朗報を持ってきたぞ」
「「「.......................」」」
鉄格子越しに見えるのは、地に臥せっている三つの人影。しかし、そいつらには人とは違う特徴があった。
黒光りする角に、突き出た犬歯に、生きた白骨死体。
こいつらは、いつぞやに最前線の城壁を消し飛ばした、魔王国に属する三人の闇魔術師。三人で魔術儀式を行った結果とは言え、対軍に匹敵する大魔術を行使できるのだから、その頭にある魔術の知識も相当なものだろう。
「今日はお前たち三人を解放してやれるかもしれない提案をしに来たんだ」
その言葉に、牢の三人が色めきだつ。今日までさんざん”おはなし”を繰り返したのだから、無理もない話だ。
「が、勿論タダじゃあない。それ相応の代償を支払ってもらう」
「ふ... ざぁけるなぁ! このよぉな扱い、条約に反しているぅ!」
犬歯の生えた吸血鬼の男が、弱った声帯で怒声をあげる。
「っは! お前ら、馬鹿じゃねぇの? 殺すしか能のない魔物擬きの分際で、条約と来たか。傑作だな」
捕虜に関する条約の利点は、人道やらなにやらの詭弁を抜きにすると、結局は自国の捕虜が保護されること。それだけだ。しかし、魔人族は敵を捕虜になどしない。こいつらは、降伏した相手を容赦も情けもなく殺すだけだ。
帝国は捕虜を返還されないのに、魔王国側の捕虜だけは返還しろって? 馬鹿を言うな。
「お前らが消し飛ばした城壁さ、哨戒についていた19人は即死したし、結果として97人が魔物に食い殺された。んま、別に恨みはしないさ、それが戦争だからな。けど、お前らの命はその散った輩に釣り合うのか?」
所詮はこいつらもトカゲの尻尾切り、ろくな情報を持っていなかった。であれば、有効活用して捨ててしまったほうがマシだ。
「こちらからの要求は一つ、【魔導書】を作成しろ」
「「「ッ!!!」」」
「それでは死んだほうがマシだッ! 我々魔術師に、その研鑽を捨てろというのか!?」
「そうだ」
予想通り、三人とも拒否してきたな。だが、俺はその団結した三者の間に爆弾を落とす。
「俺は何も、三人全員とは言っていないぞ?」
「「「!?」」」
さすがは腐っても魔術師。察したか。
「必要なのは魔導書一つ。お前たちが決めるんだ」
途端に、先ほどまで阿吽の呼吸で叫んでいた三人は互いに値踏みする視線を向けあった。人間など所詮は獣。いくら頭が良くても、打算的で自己中心的な生き物の性から抜け出せない。それが魔物の性質を持つ魔人族なら猶更だ。
「猶予は5分。それまでに決めなければ、お前らは終わりだ」
「ッく... このぉ、悪魔めぇッ!」
「悪魔ねぇ... 俺はこれでも清く正しく生きてるぞ? 俺の行動を悪しざまに罵られる筋合いはないな。聖書にもあるだろ? 「報復は認められるべき権利であるが、決して損害以上の被害を与えてはならない」って。お前らの命が死んだ奴らよりも価値あるものならいざ知らず、俺からすればお前らの命なんてそこら辺の雑草にも劣るからな。あ.... 三人で自決するなら止めないぞ?」
そうして、俺はいったん牢の前から席を外した。背後からは怒声と罵声が鳴りやまず、静かになったのはそれから10分も経った頃。
結局、基地へと帰る俺の右手には、一冊の書が握られていた。
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評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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