20 魔術序論
五万字ィ⤴
波乱の一日が終わり、俺は翌日に野戦病院へ預けたネムを迎えに行っていた。
「なぁ、そのツラはちょっと」
「むぅ」
リスのように頬を膨らませたネムがベッドにおり、その横にはこの野戦病院を取りまとめる衛生長がつっ立っていた。
「こらこら、幼子を詰めてはいけませんよぉ?」
「年齢は変わらねぇぞ」
「あ~ そうでした!」
語尾に星マークでも付いていそうな、おっとりした口調で話す豊満な女性。まったく、やりにくい。
「セラピア衛生長! 急患です!」
「お呼ばれしてしまいましたね。では、また。 ...今行きますぅ~」
口調とは裏腹の俊敏な動きで場を後にした彼女。その常人離れした動きの通り、ヤツはこの戦場でもかなり有名な人だった。
セラピア侯爵家の本家筋長女。かの貴族家は【治癒魔術】を修める大家であり、その魔術は俺の【生命魔術】よりも回復や治癒に特化した魔術.... つまり、俺がコンプレックスを抱くのには十分というわけだ。
そう、俺は彼女に一方的な苦手意識を持っているのだが、彼女はそうでもないらしい。似通った魔術を使う者同士だからか、彼女は俺によく世話を焼いてくれた。一時期は魔術の手ほどきも受けており、俺の【生命魔術】を色々と発展させることができ、俺の切り札の一つを編み出す一助にもなってくれている。
そんなおっとり系お姉さん。が、彼女には「死の天使」という二つ名がつけられていた。
なんと彼女、俺の体術の師でもあるのだ。戦場で敵を殴り殺す姿は、とてもじゃないが医療従事者とは思えない。
一時期は俺も彼女に心を開いていたのだが、体術を教わり始めてからは再び距離を置くようになった。それほど彼女の訓練は殺人的... もとい、スパルタだった。
鋼鉄の棍棒で殴るほうが、素手で殴るよりも手加減になるとかほざくんだぞ? いや、まぁその通りだったんだが、あの頃の・・・ 自分の体よりも太い棍棒を片手に逃がすまいと追いかけてくる彼女は、まるで鬼か悪魔のように見えたものだ。
槍女は自分を俺の師匠だと自称していたが、師匠というならば彼女を挙げるべきだろう。
「兄さま、」
「はい? .....あの女か?」
「そう呼べって」
面倒なおせっかいを焼いてくれたものだ。
「俺のことは師匠と、伯爵様でもいい」
「了解しました、師匠!」
首の魔法陣も安定してきたようだし、魔力と体力も回復した様子。では、今日から本格的に指導を始めていこうか。
「よし、今日は魔術の初歩を教えていく。ついてこい」
「了解!」
ベットから飛び起きたネムと二人で、基地の外へと歩いていく。しばらく歩いてたどり着いたのは、小山の中腹にある空き地だった。俺はそこにある切り株へと腰掛け、もう一つの小さな切り株にネムを座らせる。
「よし、今日から魔術の何たるかをお前に教えていく。まずはコレを」
そう言って俺が手渡したのは、分厚い辞書のようなものだった。
「これは?」
「”魔術序論”.... 魔術の開祖、賢王が編纂した魔術の初歩がまとめられた入門書だ」
賢王が世を去ってから500年間も永久保存版の地位を保ち続けており、魔術師の聖書とも呼ばれる名著。どんなモグリの魔術師でも、これを読み込んでから魔術の道へと入るだろう。特に、賢王が扱った六大元素魔術の一派を学ぶネムには重要な内容がまとめられている。
「一章は飛ばして、二章の魔力基礎学からだ」
まずは一時間、指定した場所をネムに黙読させる。そうして小一時間が過ぎると、俺は本を閉じるようにネムへと指示を出した。
「では、今からその章に関する質問をする。魔力とは何か?」
「......魔力は、大気中のまそをこきゅうによって取り込み、自らの精神とかんのうさせることで操作可能としたもの?」
「........驚いたな」
答えられない前提で質問したんだが.... 記憶力が良いのか? ならば良し。説明に入ってもいいだろう。
「その通り、この世界の大気は魔素という小さな粒で満たされている。それを呼吸... 息を吸って吐いてすることで自らの体内に取り込み、精神と結びつけたエネルギーが魔力だ。この魔力呼吸.... いや、魔力を作ることは心臓が動くのと同じように、意識外で常時行われている」
その後も幾度か問答を繰り返し、ネムはほとんど全ての質問に答えられていた。
「ではこれで最後、魔術とは何か?」
「魔術とは、学問より導出される術理によって、魔力を現象に変換する事象の効率化を図る術..... です」
「そう、魔術の本質は学問だ。魔力と意志力で行われる世界への干渉を、理論によって補強し効率化する。簡単に言うと、勉強を頑張れってこと」
この世界の生命が例外なく生まれ持つ「世界に働きかける力」... つまりは魔力。それらは本来、魔術など使わなくとも宿主の願望のままに世界を変容させる代物だ。しかし、人一人に宿る魔力など、一世界に比べたらたかが知れている。例えるなら、台風に向かって息を吹きかけるような。あってないようなものだ。
しかし、魔術を使えば少しはマシになる。暑い時、素手で扇ぐよりも団扇で扇いだほうが風量は上がるし、扇風機を使えば労力はほぼ要らなくなるだろう。その団扇や扇風機に相当するのがこの世界の魔術だ。
・・・うん。我ながら上手い例えだと思う。扇風機も団扇も無いこの世界だと使えないのが残念だ。
そして、それら魔術を成り立たせる【術理】は、この世界独自に発展した学問より構築される。
俺の扱う【生命魔術】は人体構造の知識を元に魔術を開発するし、ネムが適性を持つ【闇魔術】はこの世界独自に発展した元素論や統一言語学によって魔術を開発する。
が、俺は味噌っかすくらいの六大元素適性しかないので元素論は未履修だし、統一言語学も基礎の基礎... 生命魔術を扱うための最低限しか身に着けていない。
でだ。やはり、こういうのは先人から学ぶのが一番だろう。
「よし、今日はここまで。明日からは火の刻から魔術の学修を行い、土の刻からは武術の鍛練に取り組んでもらう。春が来る前までには一端の使い手になってもらうからな」
【魔術序論】
第一章 魔術師の心得
第二章 魔力基礎学
第三章 魔術系統一覧
第四章 魔術式
第五章 四元素魔術概要
第六章 六元素魔術概要
第七章 魔術の原点と極点
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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