22 魔導書
「よし、昨日の復習から始めるぞ。では第一問、魔術の術理を表すために用いる【三大魔術式】を答えろ」
「幾何学式、詠唱式、触媒式... です」
「そう。それが代表的な魔術の発動手段となる」
前世の創作物でもテンプレだった、魔法陣や詠唱などなど... それらはこの世界でも一般的な魔術の発動手段であり、この世界では魔術式と呼ばれる。
とはいえ、この世界は魔術とともに発展してきただけあって、その発動手段にも古今東西様々な種類が存在している。しかし、500年続く魔術史において一度も廃れなかった三つの魔術式が今ネムの言った三つ。
魔法陣に用いられる、図形の組み合わせによって魔術の術理を表現する【幾何学式】。
統一言語、またの名を精霊語とも呼ばれる、魔術に最適化された言霊によって術理を紡ぐ【詠唱式】。
宝石や花など、古くから物質に込められた意味を魔術とする【触媒式】。
ほかにも、数秘術式や手印式など様々な種類があるが、そこは割愛しておこう。
「お前が適正を持つ【闇魔術】は、詠唱式によって行使するのが一般的だ。しかし、他二つを蔑ろにしていいわけじゃない。同格の魔術師同士の戦闘においては、相手の魔術を先に看破したほうが勝利するからな」
「はい!」
「じゃ、まずコレを」
そう言って俺がネムに手渡したのは、昨日渡した物と同じような分厚い本だった。
が、これは魔術序論のように無数に重版されているような本ではない。魔を導く書と書いて【魔導書】と呼ばれる、魔術師が己の魔術を後世へ残すために用いる「魔力を封じられた本」だ。
これを読むだけで、適性があればその書に綴られた魔術を脳に刻むことができる。
.....これだけを聞けば、めっちゃ便利やん! と、思うかもしれない。しかし、コイツにはもんのすごい欠点が複数ある。
例えば、これを作った魔術師は二度と魔術を使えなくなるとか。だからこそ、魔導書は己の魔術を後世に残すため... 言い換えれば、すでに死期が近い往年の魔術師のみが用いる手段だと言われるのだ。
そして二つ目、魔導書として起こせるのは六大元素に類する魔術のみなのだ。俺の修めた【生命魔術】など、その他の魔術系統は魔導書に起こせない。まぁ、それでも便利なことには変わりないか。
定期的に賢王の魔導書六冊を探すブームが訪れたりもするんだよな。なんでも、そこには賢王が至った魔術の神髄が宿っているのだとか。眉唾にも聞こえるが、意外と現実味のある話だ。ま、見つかったっていう報告は500年間で一度もないけど。
そうして恐る恐る魔導書を受け取ったネムは、慎重に魔導書の表表紙に手を掛けた。そして、開く。
.....双眸を目一杯に見開き、身じろぎ一つもしなくなったネム。その様子を一時間ほど見守っていると、ネムは思い出したように荒い呼吸を繰り返した。
「理解したか? 闇魔術の詠唱」
「わかり... ました」
「じゃあ、中級魔術を試してみようか。そうだな.... 【深淵の魔の手】とか」
目を閉じ、脳裏に刻まれた魔術を反芻するネム。その小さな体からは魔力が立ち上り、地面に広がっていた影が不自然に揺れる。
「【深淵の魔の手】ッ!」
歪な手の形をした影が地面を伝播し、俺の影と混ざり合う。体の自由は利かなくなり、息すらもまともに出来ないほどだ。
「.....イイな 【降魔印】」
地面を人差し指で指すように。そして、手印へと魔力を供給する。
【手印式】によって発動される魔術中でも俺が特に愛用している、魔術を払う魔術【降魔印】。手印法は手の印に込められた意味が魔術として効果を表すモノであり、その利点は他の追随を許さない発動の簡単さと速さだ。
が、欠点は拡張性や発展性が最底辺なことだな。それに、魔力の消費も結構激しい。
魔術を振り払った俺は、すぐに膝から崩れ落ちたネムをキャッチする。
「これが魔力酔いだ。体が耐えられない過剰な魔力によって、酔ったように気分が悪くなる」
解説を挟みつつ、ネムの体に魔力を薄く流してやる。そのまま眠りについたネムを担いで、俺は新兵訓練場へと向かった。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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