第38部 人狼と少女 日本へ帰還 完
1930年4月(昭和5年4月) 北海道・札幌市
*)日常
1928年10月20日。私たちは日本に帰国できた。あれから大よそ1年半が過ぎた。
私たちは、霧以外無事に帰って来た。残念だが、霧は双子を出産した時にお腹の古傷がさわり、2人を産んで直ぐに他界している。
「教授、・・・ 霧ちゃんのお墓は建てるのですか?」
2人の誕生日とお母さんの命日が同じだから、複雑だ。まだ2人が小さいからいいものの、少し大きくなって母の命日のお墓参りが、誕生日と同じでは少し可哀そうな気もする。
「夫がいるからね。私では建てないでおこうかと思ってる」
でも私は建てようと言う。
「兄さんは他界したから、どうしようか」
「やっぱり建てましょうよ、少なくともお父様として、12年は一緒に過ごされたではないですか」
もう暫く待つことにする。第一に、私の気持ちがもやもやしてしまう。
「なぁ、さくらちゃん。明日は君の卒業式なのだろう?」
私は大学に戻って、学業を頑張った。無事に単位を取得して卒業を勝ち取る。
さて、みんなのその後というと・・・・。
私こと桜子と阿部教授のご両親と奥様それに、霧の忘れ形見の双子、3歳の沙霧と澪霧の7人の大家族で教授宅に住んでいる。私は大学を卒業してから結婚するまで下宿することになっている。追い出されなくて恩の字だ。
霧の子供も小さいし、奥さまだけでは大変でお助けガールをしている。残念な事が発生した。ご家族が揃われたことで私はメイド稼業から、下宿人になり、お家賃なるものを支払う事になった。もちろん、実家からの援助です。
「教授に若いお嫁さんは似合わないな~」
いろいろあって、奥さまは、25歳だ。ご両親も50歳前位に見える。
友人の麻美は、学業を放棄してしまい、日本に帰還して直ぐに白馬のナイトさまと結ばれて同棲している。クロが縁で競馬の騎士へ進路を変更というか、決定してしまう。即決で。今は騎士の学業に励んでいる。クロと離れられないでいる様子。
石川くんは、このような事情が起こった為に、学長から特待生扱いにされて授業料が免除されて助かっている。この前までは休学扱いで学費は免除にもなっているが、まだ在学中だ。
「ねぇ、石川くん。大学はまだ卒業しないんだ」
「はい、多分来年には卒業いたします」
「なぜ?」
「三浦教授のシベリア紀行が、冬には完成する予定です。ですので、あと半年は教授のお手伝いをいたします」
石川くんは、アウトドア派だから、石窯の製造方法や、豚くんの燻製方法。おおよそマスター済みである。
もう一人紹介していません。三浦教授です。
教授は、シベリア紀行を執筆されてあります。この冬には完成、来春に初版の販売予定だそうです。今は講義の受け持ちは1回生だけで、原稿の締め切りを気にしているそうです。来年にはきっと、ベストセラーに輝いていらっしゃいます。
学長からは、クロを連れてきた報酬もあり、学長共々函館出張が大いに増えたそうです。麻美のデビューも近いから、ナイトさまと二人で走るのがもう直ぐ見られそう。クロの馬主は麻美で、クロは麻美以外はいうこを聞かないという。
霧の子ども、沙霧と澪霧には字の如く、キリキリ舞にされています。もう、うるさいのなんの。おじいちゃん・おばあちゃんは大変です。
誰のいうことも聞かない。麻美と私にだけは懐いている。麻美が3年、私が2年位だが、育ての親だからという意味ではなく、巫女だからだろう。
1930年(昭和5年)6月8日 北海道・札幌市
*)麻美の結婚式
「さくら~、ちょっと手伝って~」
「は~い、直ぐに行くから~」
手作りのブーケに手早くピンクのリボンを飾り付けた。さて、今度はなにかな。
「お待たせ~、なぁに? 麻美奥さま」
「奥さまは、まだ早い、からかわないでちょうだい」
「だって、悔しいもん」
「桜も、もうすぐでしょう? 式場は決めたの?」
「うん、そうね。この後に決めてくる。で、用件はなにかしら」
「背中のファスナーに、髪の毛が絡んでいるようで痛いの。どうかして」
「はい、はい」
今日は、麻美と白馬のナイトさまの結婚式。ナイトさまは、明さまだ。
仲人は三浦ご夫妻が務められる。安部教授が仲人を務めるという事だったが、麻美の父の弟という関係で、安部夫妻は末席に座ることとなった。
私は、霧が結婚したことも知らなかったし、お祝いもせず終い。霧は天国で姉の結婚を祝ってくれているかな。
「あらあら、2人して、何をしてるのかな~?」
沙霧と澪霧が麻美のドレスを引っ張っている。いたずらが出来るようにまで成長した。麻美とのお別れが分るのだろう。2人はいつも一緒だ。
2人を見て、麻美が少し涙ぐんだようだ。妹のキリをきっと思い出している。
私は麻美と霧の、過ぎし日の仲のいい様子を思い出す。双子みたいだったから特にそう思う。
本当に霧は死んだんだろうかとついつい考えてしまう。私は弔いも出来なかった。霧を看取った麻美は、どんなに泣いたことだろう。考えると涙が出て止まらない。
「桜、あまり悲しまないでちょうだい。霧の伝言ですよ。桜お姉さんが悲しまないようにお願いするね、と頼まれているから」
「そうね、今日は麻美の結婚式だもの、泣くのはダメね」
「でも、悔しがらせるな・・・とは言ってもいなかったかな?」
「ゥギャ~~~~!!!」
「麻美さん、綺麗になったね。霧もウェディングドレスを着たらきっと同じ姿になったろうね」
「教授、それは言いっこなしです、麻美がまた泣き出すから、止めてください」
私が年下にも拘らず、教授をたしなめた。
「サワ奥さま、教授の教育を再度お願いします。言葉が悪くて困ります」
麻美! ジューンブライト、きっと幸せになるね。
ハネムーンは、東京と近場だった。目的が東京競馬場であった。2人して同じ騎士業だから、仕方ないか。馬券を買うのではないから問題は無い。というか、翌日からもう仕事をしていたらしい。
ここで2人と再会する。そうあのニキータにだ。ニキータさんが、懐かしい赤の宝石の気配を感じて飛んで来た。
「やぁ~、麻美さん。元気に??・・?あ?、おめでとう、だね」
「ええ、ありがとう。こちらは旦那さまです」
「ねぇ、ニキータさん。智治さんは無事ですよね」
「もう大丈夫です。東京には、先月に着いてすぐに入院・手術でした」
「そうか、時間がずれていますのもね。私たちから見れば、別れたのが3年前くらいになるのですよ。もう、訳が分りません」
ニキータと杉田先輩は、昭和4年の日本に時間移動するはずだったが、少しずれて昭和5年の5月に時間移動をしている。
帝京大学医学部付属病院に入院中であるが、再会したためにホテルに外泊する。ニキータにかかれば、移動は瞬間だった。何も知らない明さんが一人、大騒ぎをしている。直ぐに札幌に電話が繋がる。
先輩が電話連絡をしぶったからだが、直ぐに連絡したら当然大変な事になる。もうすぐ退院するから見舞いはいらない、と固辞している。
ホテルで、ニキータにソードの力を教えてもらう。これは麻美は知らなかったのだ。ニキータは麻美と会った瞬間に気が付いたという。これは、双子の育児を通して麻美の巫女の力が、沙霧と澪霧に受け継がれて、麻美の巫女の力が感じられないという事だった。
「麻美さん。あなたは人間に戻れますよ。麻美さんからは巫女の力が無くなっていますもの」
「えぇ? どういう意味ですの?」
「たぶん、麻美さんは、沙霧と澪霧の二人の育児の時に、何か変化がありましたよね」
「そうですね、奇跡が起きましたもの。出産もしていないのに、母乳が出ました。だから二人を育てる事が出来たんです」
「それですね、その時に双子に麻美さんの巫女の力が受け継がれたのですよ」
「だと、しましたら? なんでしょう」
「はい、人狼と同じです。ソードで刺せば・・・・?」
「キャッハー!! 人間に戻れる!」
「そうですね?・・・あ、いや・・・・・? そうですか・・・」
翌朝、麻美と旦那の2人を病院に送る。
「止めろ、止めてくれ~。あんた、とめろ~」
「うるさい方の、旦那を押さえつけるね。思いっきりいきなよ。後は任せていいよ」
「あんたは鬼か! 麻美の切腹を止めろ~~~~~」
男の悲痛な悲鳴が響いた。麻美は文字通りの病院送りだ。
黒と赤の宝石でソードを作り、麻美は自分で刺して入院。人間に戻る。麻美は、自分もソードで刺せば人間に戻れるとは知らなかった。
もう直ぐ智治と一緒に退院だ。まだ治りも早いのだろう。先輩も同じく人間に戻ってていた為に、怪我の治癒が出来ない。
麻美夫婦とニキータ、杉田先輩が東京から戻って来た。当然、想定済みの騒ぎである。教授宅はもう大変だ。
「お帰りなさい、智治さん」
「うん、桜さん、ずいぶんと心配させてすみませんでした。おかげさまで無事に退院が出来ました」
「ニキータさん、ありがとう。本当にありがとう」
「お礼はいいから、俺にも旦那を頂戴!」
「それは無理。出来ない相談だわ」
「あらあら、教授はもう智治を離さないわね」
「安部教授。智治さんは病み上がりですから、その・」
「いいじゃないか、奥さん!」
「ですから、教授、・・・奥さん?・・まぁ、嬉しいわ!」
私はこの一言に黙らせられた。
私は智治から青のロザリオを受け取とり、ひとり離れて泣いた。
1930年(昭和5年)10月5日 北海道・札幌市
*)桜子と智治の結婚式
私と智治はめでたく結婚式を挙げることができた。霧が作ってくれて縁談だ。
私は真っ白なウェディングドレスで入場した。ドレスの裾は、沙霧と澪霧の二人に持たせる。また、この二人にもかわいいウェディングドレスを着せている。
式の少し前の控室。
「さくらちゃん、おめでとう」
「ありがとうございます、教授。サワ奥様もありがとうございます」
「また仲人を三浦くんに押し付けたよ。すまないね」
「お前には仲人が務まらないからだろう? ま、いいさ!」
「桜子さん、智治くん、ご結婚おめでとう」
「ありがとうございます。三浦教授」
「桜~、天使の二人が来たよ~」
麻美がミニウエディングの沙霧と澪霧を連れて入ってくる。
「沙霧ちゃん、澪霧ちゃん。とってもかわいいわよ。パパと結婚したい?」
「うん、パパのおよめさんになりたい」
「うん、なりたい」
「そうか、でもだめ。パパはママのものだからね」
「ママ、ずるい」「ずるい!」
「ママ。ママはパパと結婚するの?」
「そうよ、さくらお姉さまは、沙霧と澪霧のママになるのよ。嬉しいぃ?」
「うん、あさみおねえさんも、ママだよ」
「あらあら、澪ちゃん、うれしいことを言ってくれるのね。麻美ママもうれしいな!」
「麻美! どお? 私はきれいかな」
「うん、きれいだよ。でも、私には負けるね! 桜は少し太ったでしょう!」
「バシッ!」 「キャッ!」 「バタン!」
麻美をぶん殴ったら、急いで逃げていった。入れ替わりに、私の両親が着付けから戻ってきた。それからは、教授と両親の挨拶だのなんだのと、騒がしい。
実は、私のお腹には2か月になる双子が居るのだ。これは夫婦の秘密。どうも、麻美にはばれたみたいだ。
「新郎、新婦さま。ご用意が出来ました。入場門へ移動いたします」
「ご家族の方は、先にご着席をお願いします」
沙霧と澪霧の歩みに合わせて、私たちも歩く。
*)ホロお母様
半年が過ぎた。もう直ぐ桜の季節になる。
私と智治は、沙霧と澪霧を、それぞれの手をとり近くの商店に買い物に行く。澪霧は、霧と同じ頭にこぶがあり、こぶを隠す為に髪を丸めてお団子頭にしている。
「桜、重たいから少し休んで行く」
智治には先の方に立つ女の人が見えた。立ち止って、少し離れて見ている。
「うん、早く帰ってね」
私は重たそうな体をしていて3人とも歩みが遅い。女の人が声を掛けてきた。少し日焼けをしていて、初めて見る人だが、どこかで会ったかな?
「まぁ、可愛らしいお嬢さまですね」
「はい、こんにちは」
「ねぇ、お年は幾つかな?」
「よっつ!」
「お名前は言えるかな」
「沙霧と澪霧、といいます」
私が代わって答えた。
女の人は、別れた娘と同じ顔をしている。そっくりで驚いたから、声をかけたと言う。
双子は、少しもじもじしていたが、すぐにおばあちゃんはだれ? と言いながら女の人に近寄る。
麻美と私にしか懐いていないあの双子が、自分から手を取りに行った。
「ねぇ、おばあちゃん。どこから来たの?」
「私はね、とても寒い国から来たんだよ~」
「どこ?、ねぇ、どこ」
突然、妹の澪霧が、
「おばあちゃん、ダッコ!」
私は唖然とした。人には懐かない子が初対面の人に抱っこと、言った。
「貴方が妹さんね。よいしょ、あら重いわね~」
貴方が妹さん? 初対面で? 沙霧もダッコを要求した。
「おばあちゃん、さぎりもダッコ!」
女の人と私は、とりとめの無い会話を続けて別れた。
「おばあちゃん、バイバイ!」 「バイバイ!」
智治は、遠くまで3人が過ぎ去るのを身動きもせずに見ていた。女の人は身じろぎもせずに母娘を見送っている。
智治は歩き出した。そして、
「これ、お嬢さまの遺品ですよ」
智治はいきなり声を掛けた。智治は懐から小さな包みを女の人に渡した。霧の赤い髪の毛だった。女の人はその場にしゃがみ込み、泣き崩れてしまう。智治は何も言わず見つめる。
やがて女の人は顔を上げ智治を見つめた。智治は一言、
「荷物が重くて困っています。ひとつ持って頂けませんか?」
女の人が相好を崩し、
「はい!」
私は、家で無言で老人に会った瞬間に、「そうか!」と、大きい声で言った。
出産予定日の前日、
「お婆様!二人に負けたらいけません。明日には、また、双子が増えますのよ?」
「だって、桜さん~」
「だっても、へちまもありあせんわ。女の努めなのです。これは戦争よ!」
人狼と少女 完
母さんそんなにそんなに急がなくても!
何言ってるんだ。産まれるじゃないか。
お母さん!私はまだだい・・・・・。
ほら!そうだろ?
桜ちゃん、頑張って!元気な赤ちゃん産みましょうね。
先生を呼んで来て!
桜さん、落ち着いて!
んぎゃ、んぎゃ。
元気な女の子ですよ~、しかも2つ・・・。
宝玉のような肌の綺麗な女の子、2つ?




