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01章05話 断絶

アルバスの冷酷な鶴の一声に、闘技場内がざわめく。


指名された担当教官――イバテルは、舌打ちをしながら重い足取りで石畳の闘技場へと降り立った。


「……ふんっ、カマセウスの不覚には失望したが、調子に乗るなよ落第生が」


イバテルが懐から取り出したのは、漆黒の魔導書と、威圧感を放つ巨大な黒鋼の大剣だ。


その全身から放たれる圧倒的な威圧感は、先ほどのカマセウスとは比べものにならない。


観客の生徒たちが思わず気圧されて息を呑む。


「炎を掻(か)き消す術(すべ)をもってるようだが俺には無意味だ。引導を渡してやる」


イバテルの身体が重厚な金属光沢に包まれ、大剣に凄まじい密度の圧縮魔力が宿る。


実戦を潜り抜けてきた熟練の魔導剣士――それが教官イバテルの真価だった。


「死ねッ!」


――ドォオオオンッ!!


石畳を粉砕しながら、音速を超える速度でイバテルの大剣がシオンの首元へと肉薄する。


直撃すれば巨大な岩石すら一瞬で一両断される、まさに圧倒的な一撃。


――ガキンッッッ!!!!!


闘技場全体に響き渡る清廉(せいれん)な金属音。


「……なに!?」


イバテルの目が驚愕に見開かれる。


シオンは腕で大剣を受け止めていた。その腕には傷一つついていない。


「きょ、強化魔法も掛けずに……素手で私の剣を……!?」


「……教官」


冷徹な声とともに、シオンはイバテルを見つめる。


「あんたは言ったな。『無能の末席に割く時間も予算もない』と」


メキメキメキッ……ボカンッ!!


シオンが受け止めている大剣を手で掴むと、まるで乾燥した枝のように易々と粉々に砕け散った。


「その言葉、そっくりそのまま返してやる」


空いた左手で、イバテルの胸板へ向けて放たれた一拳。


イバテルは咄嗟(とっさ)に障壁を展開する。


英雄の魔力を宿した不可避の拳が、教官の重厚な障壁を内側から爆破するように粉砕した。


――ズドォォンッ!!


「ガハッ……!?」


教官イバテルの巨体が弾丸のように吹き飛び、闘技場の外壁へカマセウスと並んで深くめり込み、意識を失った。


静まり返る闘技場。


生徒も、教授陣も、誰一人として声を上げることができない。


アルバスは神妙な顔で顎髭(あごひげ)を擦(こす)る。


(……ふむ、なるほど)


静寂の中、上段の特別観覧席からアルバスの威厳に満ちた声が闘技場全体へ響き渡る。


「教官イバテル。敗北したお前を、これより『下席』へと降格処分とする」


「ひ、ひぃっ……!? ご、ご寛恕(かんじょ)を……! 魔塔首様、ご寛恕(かんじょ)くださぁいッ!」


めり込んでいた壁の亀裂から、血まみれのイバテルが這い出してきた。


先ほどの厳格な教官の威厳は微塵もなく、惨めにながれる血と汗を拭いながら、特別観覧席へ向けて必死に土下座をする。


アルバスは冷徹な眼差しで、虫ケラを見るように眼下のイバテルを見下ろした。


「見苦しいぞ。……ならば一度だけ挽回の機会をやろう。イバテル、その場で全魔力を練り上げ、最大出力の防護障壁を展開しろ」


「は、はいッ! ありがとうございますッ!」


イバテルは歓喜し、死に物狂いで手印を結ぶ。


幾重にも重なる重厚な魔力障壁が展開され、イバテルの全身を鉄壁の城塞のごとく包み込んだ。


アルバスは満足そうに頷くと、視線をシオンへと向けた。


「シオンよ。お前に最終試練を与える」


アルバスの声に、闘技場の空気すら凍りつく。


「その障壁ごと、一撃でイバテルの首を落としてみせろ。見事一撃で首を叩き落としたなら、お前の追放処分を撤回し、特別に『第十席次』の位を与えて私の直属として手元に置いてやろう」


周囲の教授陣や生徒たちから、生唾を呑む音が漏れる。


そして、圧倒的な強者のみを求める魔塔首の絶対的な提示。


だが――シオンは特別観覧席を見上げると、鼻で笑うように吐き捨てた。


「おい、勘違いするなよ、ジジイ」


アルバスはその言葉にピクリと眉をあげる。


シオンは懐から追放通達の書簡を取り出すと、アルバスの目の前に届くように高く掲げた。


「俺が欲しいのは追放の撤回じゃない。……こんな腐りきった魔塔、こちらから捨ててやるって言ってんだよ!」


そう言って、シオンは両手で書簡(しょかん)をビリビリに引き裂き、紙屑を風に散らした。


周囲からは悲鳴のような驚愕の声が漏れる。


「なっ……! 無礼者め、魔塔を敵に回す気か!?」


アルバスは座ったまま不気味にシオンを見据(みす)えるが、シオンはすでに一顧(いっこ)だにせず背を向けていた。


「追ってくんなよ。その時は望み通り首を胴体から叩き落として返り討ちにしてやる」


存在感と冷徹な殺意を残し、シオンは堂々と大門を潜り抜けていく。


取り残されたイバテルは、展開した障壁のなかでカタカタと震えていた。


アルバスは去っていくシオンの背中を見つめたまま、静かに告げる。


「追跡できるか、ミラ」


「勿論よ。死霊術の魔力で魂に繋がれてるから」

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