01章04話 踏み躙る者
──魔塔闘技場。
すり鉢状の観客席には、追放される無能の「最後の悪足掻き」を一目見ようと、多くの生徒や教授陣が集まっていた。
最上階の特別観覧席では、魔塔首アルバスと、フードを深々と被ったミラが並んで腰掛けていた。
ミラの脇には、虚ろな目でトレイを持ち、果汁の入ったグラスを捧げ持つ「シオンの元の遺体」が立っている。
ミラが顎でしゃくると、元のシオンの死体が、カクカクと不気味な動きでミラの扇子を仰ぎ始めた。
アルバスは冷ややかに、眼下のシオンを見つめる。
「さて下の被験者だが。あのゼブルの肉体、まともに使いこなせるかどうか。使えるレベルだったらワシらの騎士団に入れて使い潰そう」
「そうねぇ……まぁ、ダメでも私が使役して有効活用してあげるわ」
二人が冷酷な算段を交わす中、闘技場の中央では、審判を務める担当教官が前に出ていた。
* * *
「両者、前へ! ――これより、上席カマセウスと、末席シオンによる特別決闘を執り行う!」
教官の宣言に、観客席からドッと嘲笑が湧き上がる。
カマセウスは豪華な魔導杖を肩に担ぎ、舌を出しながら煽るように笑っていた。
「クハハハ! シオン、わざわざ大勢の前で殺されに来るとは最高に惨めだな! 安心しろ、一瞬で灰にしてやる!」
「…………」
対するシオンは、無言のままただ静かに立ち尽くしていた。
その圧倒的な静寂と、全身から漂う尋常ではない重圧に、カマセウスは一瞬だけ背筋に冷や汗をかいた。
「チッ……気取ってんじゃねぇぞゴミがぁっ!」
カマセウスが全魔力を解き放つ。
上席たる威信を懸けた上級攻撃魔法。炎の竜巻は優雅にうねるとシオンへと襲いかかった。
観客席から悲鳴が上がる。
「ひぃっ!? や、やりすぎだろ!」
「シオンの奴、骨も残らんぞ……!」
炎の暴風が荒れ狂い、闘技場の石畳を焦がしていく。
「ハアァァ」
炎の渦の中から、シオンが右手を一振りした。
瞬間、地鳴りのような衝撃波が吹き荒れ、闘技場を覆い尽くしていた炎の奔流が一瞬で綺麗サッパリ「消滅」した。
「……は?」
カマセウスの動きが止まる。
魔法を殺されたのではなく、圧力で「吹き飛ばされた」のだ。
「な……にが……」
恐怖で顔を引きつらせるカマセウスとの距離を、シオンは歩みすら見せずに詰めていた。
次の瞬間――気がついた時には、シオンの手がカマセウスの顔面を鷲掴みにしていた。
「な、がはっ……!? あ、やめ――」
「俺にしてきた嫌がらせの数々を思い出せ……」
──ドゴンッ!
腹部に強烈な一撃。
カマセウスは立ったまま轍を作り後方へ吹き飛ぶと、白目をむいて膝から崩れ落ち、ゲロを吐いて痙攣した。
シオンは距離を詰め殴りかかる。
「なんだ謝罪にプリンを返してくれるのか?」
「ゴブッ……ま……て……俺の……まけ……」
「ダメだ……お前の謝罪は汚くて受け取れない」
──バチィッッッ!!!!
その拳は顔面を撃ち抜くと、一直線に吹っ飛びカマセウスは闘技場の壁にめり込んだ
静まり返る闘技場。
観覧席のアルバスは不満そうに小首をかしげる。
「英雄の力なら首をとばせたハズ……加減したのか……それとも出来なかったのか……」
静寂の中、アルバスは自らの声のみを魔力で闘技場全体に拡声させる。
「これでは判断出来ん。次は教官、お前が直接立ち会え」
響いたその声に、シオンは顔を上げ、特別観覧席にアルバスやミラ達がいる事に気付く。
(あいつめ……!)
シオンは苛立ち、唇を噛む。
(俺の遺体を使役するなら服くらい着せろ!!丸出しじゃねぇか!)




