01章03話 決闘の要請
床に転がる『自分の死体』から服を脱がせ、自ら身に纏う。
冷たくなったかつての己の顔を一瞥し、実験室を後にしたシオンは、体内に脈打つ異様な力に息を呑んでいた。
五感が研ぎ澄まされ、かつては練り上げるのにも苦労した魔力が、息を吸うように全身を奔流となって駆け巡っていた。
(……間違いない。俺の体は、以前と比較にならないほど強くなっている)
恐ろしいほどの万能感、だが、胸の奥で渦巻く不快な熱は消えない。
シオンは迷うことなく、自分に追放を言い渡した担当教官の執務室へと向かった。
* * *
バンッ! と扉が開く。
「なんだ、シオンか。……大人しく去ったと思ったが、未練がましく何の用だ?」
執務室の机で書類を検分していたイバテル教官が、心底鬱陶しそうに視線を向けた。
その横には、シオンの荷物を勝手に確認に来ていたカマセウスが、プリンを食べながらニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて立っている。
「なんだ、泣きつきに来たのか? 冷蔵庫のお前のプリンは食ってやったぞ、荷物が減って感謝しろ」
シオンは込み上げる怒りを抑え抗議する。
「教官。魔塔規約・第十二条を適用します」
カマセウスの嘲笑を遮り、シオンは静かに、しかし室内を圧するほどの声で言い放った。
「『追放通達に不服がある場合、対象者は上席との一対一の模擬戦を行い、勝利することで処分を撤回できる』……そうですね?」
静まり返る室内に、一瞬の絶句のあと、カマセウスの爆笑が響き渡った。
「プッ……クハハハハ! おいおい、正気かシオン!? 体面を気にして逃げ出すと思ったら、自らボコされに来るなんてな!」
教官は呆れたように息を吐き、冷ややかな視線を投げかけた。
「……無能の最後の悪足掻きか。良いだろう、カマセウス、受けてやれ。魔塔の厳しさをその身に刻んでやるといい」
「分かりました。ただ一つ条件があります。模擬戦ではなく決闘形式を希望する。追放される身だ、殺してもいいでしょう?」
高笑いする二人に対し、シオンは一切の揺らぎを見せず、冷徹な瞳でカマセウスを見据えた。
イバテル教官はシオンに書類を差し出す。
「追放通達の書簡と決闘の許可証だ、受け取るか土下座するか選べ」
「形式はそれで構わない。逃げるなよ、上席」
書類を受け取ると、シオンは背を向け、怒りを燃やし執務室をあとにした。
(あの野郎……俺のプリン食いやがって……!)




