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01章02話 禁忌の儀式

最上階へ向かう暗く冷え切った回廊。


怪しく揺らめく魔導灯(まどうとう)の光の中へ、シオンは足を踏み入れていた。


「これから実験をはじめるけどいいかしら? 安心して、あなたの素体は『適合』してるから」


「構いません、俺はこんなところで止まれない……強くならないと約束を果たせないので」


ミラは不敵に笑い、棚から取り出した漆黒の薬液が入った小瓶を突きつけた。


「まずはこれを飲みなさい。秘められた力を開花させる薬よ」


「りんご味かいちご味ありますか?」


受けていたイジメからの条件反射か、シオンはミラの不機嫌を察知すると小瓶を受け取り一気に薬液を飲み干した。


――直後。


「ぐ、あ……ッ!? 息が……っ!?」


焼きちぎれるような激痛が喉から全身へと駆け巡る。


膝から崩れ落ち、血を吐き出すシオンを見下ろし、ミラは心底可哀想なものを見る目でくすくすと笑った。


「説明に語弊(ごへい)があったわ。それは魂を抜くために殺す毒よ」


「ガ……ぁ……っ」


視界が赤く染まり、シオンの意識はぷつりと途切れた。


「さて、魂を抜き出し、英雄の肉体へと移しましょうか。うまくいくかしら?」


ミラが怪しい呪文を詠唱すると、冷たくなったシオンの胸から青白い光玉――『魂』が抜き出され、部屋の中央に鎮座する『氷の棺』へと吸い込まれていく。


そこに横たわるのは、かつて人類を救った英雄ゼブルの遺体。


魂が注入された瞬間、ドクンッ! と地鳴りのような鼓動が室内に響き渡った。


「入ったわね……」


氷の棺の中から眩い光が溢れだす、その中で陽炎のように揺らめき、生々しく肉脈打ち始める。


年老い骨の浮き上がった体躯(たいく)は、骨格が組み替わり、顔立ちが変容していく。


「肉体が、被験者の姿に再構築されていると言うの……!?」


光が収まったとき、そこにあっていたのは、かつての英雄の老体ではない。


『シオンの姿』をした青年だった。


氷棺の中、目を開くと無気力に宙を見つめる。


「俺は……誰だ……?」


「これはダメそうね……、記憶を失った無気力な肉塊じゃない……」


ミラは残念そうにため息をつく。


「魂を処分して次のモルモットを調達して来ないと……」


青年の頭の中は真っ白だった。


その脳裏に激しい記憶の断片が交錯(こうさく)する。


──廃棄場に捨てられ、自分の世界のすべてが崩れるなか、暗闇から差し出されるその手……。


(うっ……なんだ今のは……体の記憶? それとも魂の方の記憶なのか……!)


育った場所も、家族の顔も、自分の名前すら思い出せない。記憶が欠落している。


(何も分からない……。だが、この胸を焼くような怒りは……?)


自分を踏みにじり、嘲笑っていた奴らの顔、強烈な不快感の傷痕(きずあと)が魂に刻み込まれていた。


新生したシオンは、冷徹な光を宿した瞳でゆっくりと手を見つめ、呻(うめ)くように呟(つぶや)いた。


「……思い出さなきゃいけないことがある。……踏み潰してやらなきゃいけない奴らがいる」


伝説の肉体と、理不尽への執念。


『禁忌の男』が、いま静かに産声を上げた。


「……あたしが分かるかしら?答えられないなら身体を空(から)にするお薬を飲みましょうか」


ミラが静かに声をかけ、上体を起こす、その右手には毒薬が握られていた。


「……ミラルダ……さん」


ミラはシオン見つめ数秒沈黙すると、差し出そうとした毒薬を納める。


「……いったんこのままで様子見ね」


シオンは背を丸め、両手で体を包む。


「俺……なんで全裸なんですか?変な事してませんよね」


ミラのこめかみにピキッと青筋が走った。


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