フィアナは、初めて“自分で作ったご飯”を食べていた。
夕方。
台所には、じゅう、と油の音が響いていた。
月城修は、フライパンを振りながら振り返る。
「フィアナ」
「はい!」
「料理、やってみるか?」
その瞬間。
フィアナの目が、ぱあっと輝いた。
「やります!」
勢いがすごい。
修は少し不安になった。
三十分後。
その不安は当たっていた。
「修さん」
「ん?」
「塩が消えました」
「消えてない絶対そこにある」
見ると。
砂糖を持っていた。
「それ砂糖」
「えっ」
さらに。
「修さん」
「今度はなんだ」
「卵、割れません」
フィアナは真剣な顔で卵を握っていた。
「力入れすぎ!」
ぱきゃっ。
「わああっ!?」
中身が床へ落ちる。
フィアナが固まる。
修も固まる。
沈黙。
「……すみません」
「いやまぁ、最初はみんなやる」
フィアナはしゅんとした。
銀色の髪まで元気がない。
修は少し困る。
そんなに落ち込まれると、逆に申し訳ない。
「ほら、次やってみ」
「……はい」
今度は慎重に。
こんこん。
ぱかっ。
「おお」
綺麗に割れた。
フィアナの顔が、一瞬で明るくなる。
「できました!!」
「うん、上手」
その“上手”が嬉しかったのか。
フィアナは、えへへ、と笑った。
まるで子どもみたいだった。
それから。
にんじんを切って。
玉ねぎを切って。
途中で玉ねぎに泣かされて。
「うぅ……目がぁ……」
「みんな通る道だ」
少しずつ。
少しずつ。
料理が出来上がっていく。
そして。
完成した。
「……できました」
テーブルの上には。
少し形の崩れたオムライス。
ケチャップも歪んでいる。
でも。
ちゃんと美味しそうだった。
フィアナは緊張した顔で座る。
「ど、どうでしょう……」
修はスプーンを持った。
ぱくっ。
フィアナが、じっと見ている。
犬みたいな目だった。
修は少し笑う。
「……うまい」
「ほんとですか!?」
「うん」
フィアナの顔が、ぱあっと明るくなる。
「やったぁ……!」
嬉しそうだった。
本当に。
心の底から。
修は、そんなフィアナを見ながら思う。
魔法で火をつけるより。
浮かせるより。
こうして一生懸命作った料理の方が。
ずっとすごい気がした。
フィアナは、そっと自分のオムライスを食べる。
「……あ」
「ん?」
「ちょっと焦げてます」
「だな」
「でも」
フィアナは照れながら笑った。
「なんだか、嬉しいです」
修は、少しだけ目を細めた。
外では、夕焼けが街を赤く染めている。
古いアパート。
小さな食卓。
その真ん中で。
フィアナは、初めて“自分で作ったご飯”を食べていた。




