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世界が、 静まり返っていた

世界が、

静まり返っていた。


深淵の唸りも。


崩れ落ちる街の音も。


全部、

遠く感じる。


修は、

フィアナを見る。


フィアナは、

涙を浮かべながら、

それでも修の手を握っていた。


「修さんは」


「わたくしが好きになった人です」


その言葉が。


修の胸へ、

真っ直ぐ届く。


ルミネリアは、

静かに目を細めた。


『……フィアナ』


フィアナは、

震えながらも前を見る。


「修さんは、優しい人です」


「困ってる人を放っておけなくて」


「怖いのに、逃げなくて」


「コロッケ食べて笑って」


「狭い部屋で、一緒に暮らして……」


涙が零れる。


でも。


フィアナは笑った。


「それが、修さんなんです」


修の胸が、

熱くなる。


自分が、

何者なのか。


異世界の人間なのか。


そんなこと、

頭の中でぐちゃぐちゃだった。


でも。


フィアナの手だけは、

ちゃんと温かかった。


修は、

ゆっくり息を吐く。


そして。


ルミネリアを見上げた。


「……確かに混乱してる」


「俺、自分が何なのかもわかんねぇ」


深淵が、

静かに脈動する。


修は、

フィアナの手を握り返した。


「でもさ」


「俺がどこ生まれでも」


「帰りたい場所は決まってる」


フィアナの瞳が揺れる。


修は、

少し笑った。


「六畳一間なんだよ」


その瞬間。


フィアナの涙が、

ぽろっと落ちた。


ルミネリアが、

小さく目を見開く。


修は、

光の剣を構える。


「だから」


「フィアナ泣かせる奴は止める」


深淵が、

轟音を上げた。


巨大な黒い腕が、

無数に伸びる。


夜空を埋め尽くすほどの、

絶望。


でも。


修はもう、

下を向かなかった。


フィアナが、

隣へ並ぶ。


涙を拭いながら、

魔法陣を展開する。


「修さん」


「ん?」


「帰ったら」


フィアナが、

少しだけ笑う。


「アイス食べたいです」


修が吹き出す。


「この状況で!?」


「だって生き残ったら、ご褒美必要です!」


「……それもそうか」


二人が笑う。


ほんの一瞬。


でも。


その笑顔は、

深淵の黒を押し返すみたいだった。


ルミネリアが、

静かに呟く。


『……どうして』


その声は。


初めて、

迷っているように聞こえた。


修は、

剣を握る。


フィアナは、

魔力を重ねる。


蒼い翼が、

再び広がった。


そして。


二人は同時に、

空へ飛び出す。


深淵へ向かって。


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