表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/68

「俺の六畳一間、めちゃくちゃ静かになるから」

空が、

落ちてくる。


そんな感覚だった。


“深淵”が、

ゆっくり世界へ降下している。


黒い空間。


無数の赤い瞳。


見ているだけで、

心が削られるような圧力。


街中の人々が、

絶望した顔で空を見上げていた。


修も、

息を呑む。


「……これ、止められるのかよ」


フィアナは、

唇を噛み締める。


「止めないと……」


でも。


声が震えていた。


ルミネリアは、

深淵の中心で静かに立っている。


その姿は、

どこか悲しそうだった。


修は、

フィアナへ聞く。


「姉ちゃんに何があったんだ」


フィアナの瞳が揺れる。


そして。


ゆっくり語り始めた。


「姉様は……優しい人でした」


夜空を見上げながら、

フィアナは続ける。


「誰より強くて」


「誰より民を守ろうとして」


「ずっと、一人で頑張ってたんです」


フィアナの拳が震える。


「でも数年前」


「王国の北部で、“深淵災害”が起きました」


修が黙って聞く。


「たくさんの人が死にました」


「姉様は、一人で封印しようとして……」


フィアナの声が、

掠れた。


「その時から、行方不明になったんです」


修の胸が重くなる。


つまり。


ルミネリアは。


深淵に飲まれた。


その時。


空から、

声が降ってきた。


『……違います』


ルミネリアだった。


深淵の中で、

静かにこちらを見ている。


『わたしは、救われたのです』


フィアナが、

目を見開く。


ルミネリアの瞳が、

ゆっくり赤く染まる。


『深淵は教えてくれました』


『世界は、苦しみで溢れていると』


『争いも』


『孤独も』


『悲しみも』


その声は、

優しいのに怖かった。


『だから全部、深淵へ還せばいい』


修の背筋が凍る。


フィアナが叫ぶ。


「違う!!」


ルミネリアの動きが止まる。


フィアナは、

涙を流しながら叫んだ。


「そんなの救いじゃない!!」


「姉様は、そんなこと言わない!!」


深淵が、

低く唸る。


ルミネリアは、

少しだけ悲しそうに笑った。


『……やはり』


『まだ、残っているのですね』


次の瞬間。


深淵の中から、

巨大な黒い腕が無数に伸びた。


修の顔色が変わる。


「来るぞ!!」


腕が、

街へ降り注ぐ。


ビルを掴み。


道路を砕き。


世界を侵食していく。


フィアナが、

魔法陣を展開する。


「防御術式――!」


青い光の壁。


でも。


黒い腕が、

それを押し潰していく。


フィアナの顔が苦痛に歪む。


「っ……!」


修が支える。


「フィアナ!」


フィアナの魔力が、

急激に削られていた。


限界が近い。


その時。


ルミネリアが、

静かに呟く。


『フィアナ』


『最後に聞きます』


深淵の中心で。


姉は、

妹へ手を伸ばした。


『こちらへ来なさい』


『あなたなら、まだ壊れずに済む』


『人間など捨てて』


『わたしと一緒に――』


フィアナの瞳が揺れる。


その瞬間。


修は、

フィアナの手を強く握った。


そして。


迷わず言った。


「行くな」


フィアナが、

息を止める。


修は、

震えながらも笑った。


「フィアナがいないと」


「俺の六畳一間、めちゃくちゃ静かになるから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ