二人にとって、 “帰りたい場所”になっていた。
部屋が静かになる。
冷蔵庫の音だけが、
やけに大きく聞こえた。
フィアナは、
息を止めたまま修を見る。
修も、
もう逃げなかった。
「……フィアナが帰るの」
「嫌なんだ」
その言葉は、
不器用だった。
格好良くもない。
大人っぽくもない。
でも。
だからこそ、
本音だった。
フィアナの瞳が、
少しずつ潤んでいく。
修は、
俯きながら続ける。
「最初は、変な奴来たなって思った」
「コンビニで泣くし」
「電子レンジ怖がるし」
「半額シールで感動するし」
フィアナが、
涙目のままむっとする。
「全部事実ですけど!」
「うん」
修は、
少し笑った。
「でも」
「気づいたら」
「その全部が、当たり前になってた」
フィアナの肩が、
小さく震える。
修は、
ゆっくり顔を上げた。
「一緒に飯食うのも」
「スーパー行くのも」
「くだらない話するのも」
「全部」
「楽しかった」
フィアナの涙が、
ぽろっと落ちる。
修は、
胸の奥が熱くなるのを感じながら言った。
「だから」
「帰ってほしくない」
「……っ」
「ここにいてほしい」
フィアナは、
もう堪えきれなかった。
ぼろぼろ涙を零しながら、
立ち上がる。
そして。
修へ、
ぎゅっと抱きついた。
「わたくしも……!」
震える声。
「修さんといたいです……!」
修は、
一瞬固まって。
それから、
ゆっくりフィアナの背中へ手を回した。
細い肩。
温かい体温。
ちゃんと、
ここにいる。
フィアナは、
泣きながら笑っていた。
「帰りたくないです……」
「うん」
「ずっと、ここにいたい……!」
修は、
静かに目を閉じる。
その願いが、
簡単じゃないことくらい、
わかっていた。
フィアナは王女。
向こうには、
家族も国もある。
でも今だけは。
理屈より先に。
この温もりを、
失いたくなかった。
窓の外。
雲の切れ間から、
朝日が差し込む。
六畳一間の小さな部屋。
でもそこは、
もう。
二人にとって、
“帰りたい場所”になっていた。




