ここにいて欲しい
翌朝。
雨は止んでいた。
窓から、
柔らかい朝の光が入ってくる。
でも。
部屋の空気は、
少しだけ重かった。
修は、
台所でコーヒーを淹れていた。
フィアナは、
静かにテーブルへ座っている。
昨日、
泣いたせいで。
少し目が赤かった。
「……寝れたか?」
修が聞く。
フィアナは、
小さく頷いた。
「修さんは?」
「まぁ、それなり」
嘘だった。
ほとんど眠れなかった。
明日の夜。
フィアナは帰る。
そう考えるだけで、
胸が苦しくなった。
でも。
修は、
なるべく普通に振る舞う。
フィアナも、
頑張って笑おうとしていた。
その時。
ぐぅぅぅ。
静かな部屋に音が響く。
フィアナのお腹だった。
沈黙。
フィアナが、
真っ赤になる。
「…………」
修は、
吹き出した。
「ははっ」
「わ、笑わないでください!」
「いや、ごめん」
久しぶりに、
自然に笑えた気がした。
フィアナも、
少しだけ笑う。
重かった空気が、
少しだけ軽くなる。
修は、
冷蔵庫を開けた。
「朝飯どうする?」
フィアナは、
少し考えてから言った。
「……オムライスが食べたいです」
「朝から重いな」
「最後かもしれないので」
修の手が止まる。
その言葉は、
思ったより重かった。
でも。
修は、
ゆっくり頷く。
「わかった」
*
数十分後。
テーブルの上には、
少し形の崩れたオムライスが並んでいた。
ケチャップ。
卵。
ちょっと焦げた部分。
いつもの、
六畳一間の朝ごはん。
フィアナは、
嬉しそうにスプーンを持つ。
「いただきます」
「いただきます」
一口食べて。
フィアナが、
ぱあっと顔を輝かせた。
「おいしい……!」
「大げさだなぁ」
「修さんのオムライス、大好きです」
修は、
少し照れる。
フィアナは、
オムライスを見つめながら、
小さく笑った。
「最初」
「卵を包むの、魔法かと思ってました」
「料理人に怒られるぞ」
「でも今は」
フィアナは、
スプーンを握りながら言う。
「わかります」
「?」
「これは」
「修さんが、いっぱい練習した味です」
修は、
少し驚く。
フィアナは、
優しく笑った。
「だから好きなんです」
胸が、
ぎゅっとなる。
修は、
もう誤魔化せなくなっていた。
フィアナが帰るのが嫌だ。
隣にいてほしい。
一緒にご飯を食べて。
くだらない話をして。
また雷で騒いで。
そんな毎日が、
終わってほしくなかった。
修は、
俯いたまま呟く。
「……なぁ」
フィアナが顔を上げる。
修は、
少し震える声で言った。
「もし」
「帰らなくてもいい方法があったら」
フィアナの瞳が揺れる。
修は、
ぎゅっと拳を握った。
そして。
ようやく、
本音を口にする。
「……俺は」
「フィアナに、ここにいてほしい」




