「花火の下、繋いだまま」
祭りの帰り道。
夜風が、少し涼しかった。
遠くで、
まだ祭りの音が聞こえている。
提灯の明かり。
笑い声。
花火の残り香。
フィアナは、
修の隣を静かに歩いていた。
その手は、
まだ繋がったままだった。
修は、
今さら離すタイミングを失っていた。
「……」
なんか気まずい。
でも。
離すのも変だった。
フィアナは、
そんな修をちらっと見る。
少しだけ、
嬉しそうだった。
「修さん」
「ん?」
「お祭り、楽しかったです」
「そりゃよかった」
「焼きそばも美味しかったです」
「うん」
「りんご飴は強敵でした」
「食いづらそうだったな」
フィアナは、
くすっと笑う。
そして。
少しだけ歩く速度を落とした。
「……お城のお祭りは」
「もっと豪華でした」
修は黙って聞く。
「大きなシャンデリア」
「魔法の花火」
「何百人もの音楽隊」
「すごかったです」
「へぇ」
「でも」
フィアナは、
そっと修の手を握り直した。
「今日の方が好きです」
修の心臓が、
どくん、と鳴る。
フィアナは、
夜空を見上げながら言った。
「お城では」
「誰も、わたくしを“フィアナ”として見てくれませんでした」
「……」
「姫としては見られてました」
「でも」
「今日は」
フィアナは、
少し照れながら笑う。
「修さんと一緒に笑えました」
修は、
言葉に詰まる。
こういう時、
なんて返せばいいのかわからない。
だから。
少しだけ、
ぶっきらぼうに言った。
「……俺も楽しかった」
フィアナが、
ぱっと顔を上げる。
修は照れ隠しみたいに続ける。
「金魚すくい、下手だったけど」
「むぅ……!」
「三秒で破ったし」
「紙が弱かったんです!」
「お前の勢いが強い」
フィアナは、
少し膨れながらも笑っていた。
その時。
どぉん――――。
夜空に、大きな音が響く。
二人が見上げる。
遅れて始まった花火だった。
赤。
青。
金色。
夏の空に、
光が広がる。
フィアナは、
目を丸くする。
「……綺麗」
修は、
花火じゃなく。
その横顔を見ていた。
提灯の灯り。
浴衣。
銀色の髪。
花火を映した青い瞳。
その全部が、
少し眩しかった。
フィアナが、
ふと気づいて振り返る。
「修さん?」
修は慌てて目を逸らす。
「……いや」
「?」
「花火、すごいな」
フィアナは、
少し不思議そうにして。
それから、
優しく笑った。
「はい」
夏の夜。
古いアパートへ帰る途中。
二人の距離は。
少しずつ。
でも確かに、
近づいていた。




