「夏祭りと、繋いだ手」
翌日。
修は、珍しく早起きしていた。
理由は簡単。
今日は、
商店街の祭りの日だった。
毎年やっている、
小さな夏祭り。
焼きそば。
金魚すくい。
射的。
子どもたちの笑い声。
大きな祭りじゃない。
でも。
この町の人たちは、
結構楽しみにしている。
修は、押し入れを開けながら言った。
「確か、昔の浴衣あったはず……」
すると。
後ろからフィアナの声。
「ゆかた?」
修が振り返る。
フィアナは、
首を傾げていた。
「なんですか、それ」
「夏用の服みたいなもん」
「夏限定装備ですか!?」
「ゲーム脳だなぁ」
フィアナは、
わくわくした顔になる。
「見たいです!」
*
数十分後。
フィアナは、
浴衣姿になっていた。
淡い水色。
小さな花柄。
銀色の髪によく似合っている。
修は、
言葉を失った。
「……」
フィアナが不安そうになる。
「に、似合いませんか?」
修は、
数秒遅れて我に返る。
「いや」
「その」
「……すごいな」
「?」
「姫感が増した」
フィアナが、
ぱあっと笑顔になる。
「ほんとですか!?」
「うん」
「あとなんか」
修は少し視線を逸らす。
「綺麗」
フィアナが固まった。
顔が、
みるみる赤くなる。
「…………」
「えっ大丈夫?」
「し、心臓が速いです……」
「重症だな」
修は苦笑する。
でも。
本当に綺麗だった。
フィアナは、
裾をぎゅっと握る。
嬉しかった。
修が、
こんなふうに褒めてくれるのが。
*
夕方。
祭りは賑わっていた。
提灯の光。
屋台の匂い。
子どもたちの声。
フィアナは、
完全に目を輝かせていた。
「おおお……!」
「そんな感動する?」
「お祭りです!!」
「まぁ祭りだな」
フィアナは、
きょろきょろ忙しい。
「あれは何ですか!?」
「焼きそば」
「あっちは!?」
「りんご飴」
「これは!?」
「射的」
完全に遠足の子どもだった。
すると。
フィアナの視線が、
金魚すくいで止まる。
小さな金魚たちが、
水槽の中を泳いでいる。
「……綺麗です」
修は、
その横顔を見る。
提灯の灯りに照らされたフィアナは、
少しだけ幻想的だった。
異世界から来た姫。
でも今は。
こうして、
焼きそばの匂いのする商店街で笑ってる。
それが、
なんだか不思議で。
すごく愛おしかった。
その時。
フィアナが、
そっと修の袖を掴む。
「修さん」
「ん?」
「……迷子になりそうです」
修は吹き出した。
「子どもか」
でも。
その手は、
振り払わなかった。
むしろ。
自然に握り直した。
フィアナが、
びくっとする。
修も、
少し照れていた。
「……離れると危ないからな」
フィアナは、
小さく頷く。
「……はい」
二人の手を。
夏の夜風が、
そっと撫でていった。




