「“ありがとう”が、あったかい」
数日後。
昼下がり。
修は、近所のスーパーで特売の卵を確保し、
少し満足した顔で帰っていた。
「卵十個で百八十円……勝った」
その隣で。
フィアナは、買い物袋を大事そうに抱えている。
「今日は豪華です!」
「卵で豪華判定なの、だいぶ生活慣れたな」
「あとプリンもあります」
「それは知ってる」
フィアナは嬉しそうだった。
その時。
商店街の奥から、
子どもの泣き声が聞こえた。
「うぇぇぇん!!」
二人が見ると。
小さな男の子が、
一人で泣いていた。
五歳くらいだろうか。
周りをきょろきょろ見て、
完全に迷子だった。
フィアナが、ぴたりと止まる。
「修さん」
「ん」
「泣いてます」
「見ればわかる」
フィアナは、不安そうに男の子を見る。
修は少し周囲を見回した。
親らしき人はいない。
「……迷子か」
すると。
フィアナが、そっと男の子の前にしゃがんだ。
「どうしました?」
男の子は涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
「ま、ままぁ……」
フィアナは、困った顔になる。
でも。
優しく笑った。
「大丈夫です」
「きっと見つかります」
その声は、
不思議なくらい柔らかかった。
男の子は、少しだけ泣き止む。
修は、その様子を静かに見ていた。
フィアナは続ける。
「お名前、言えますか?」
「……ゆうと」
「ゆうとくんですね」
フィアナは、嬉しそうに頷く。
まるで、
大事な会議でもしてるみたいに真剣だった。
修は苦笑する。
「じゃ、とりあえず店員さん呼ぶか」
その時。
男の子が、
フィアナの服をぎゅっと掴んだ。
「……やだ」
「ん?」
「ここにいる……」
フィアナが、目を丸くする。
男の子は、
完全にフィアナへ懐いていた。
修は思わず笑う。
「すげぇな、お前」
「えっ?」
「なんか安心感あるんじゃないか」
フィアナは、きょとんとする。
自分ではわからないらしい。
その時だった。
商店街の向こうから、
女性の声が響く。
「ゆうとーっ!!」
男の子が顔を上げる。
「ママ!!」
走ってきた母親は、
涙目で男の子を抱きしめた。
「よかったぁ……!」
何度も頭を下げる。
「すみません、本当に……!」
修は軽く手を振る。
「無事ならよかったです」
でも。
母親は、フィアナの方も見る。
「あなたも、ありがとうございます」
フィアナは、
少しびっくりした顔をした。
「……え?」
「この子、すごく安心してました」
フィアナは、言葉に詰まる。
母親は笑った。
「優しいお姉ちゃんだったんだね」
そう言って、
男の子の手を引いて去っていく。
静かになる商店街。
フィアナは、
しばらくその場に立ち尽くしていた。
修が隣で聞く。
「どうした?」
フィアナは、
少し照れながら言った。
「……“ありがとう”って」
「うん」
「なんだか、あったかいですね」
修は、少し笑う。
「だろ」
フィアナは、
胸の辺りをそっと押さえた。
城では。
“姫として感謝される”ことはあった。
でも。
今のは違う。
ただ。
一人の自分として、
ありがとうと言われた。
それが。
とても嬉しかった。




