プリン
朝。
月城修は、違和感で目を覚ました。
「……ん?」
なんだか、いい匂いがする。
目をこすると。
台所に、銀色の髪の少女が立っていた。
「……フィアナ?」
フィアナは振り返る。
ぱあっと笑顔になる。
「修さん!おはようございます!」
「お、おはよう……」
修は時計を見る。
朝六時。
早い。
そして。
台所からは、不穏な音がしていた。
ジュウウウウ……。
「……なにしてるの」
「朝ご飯です!」
「嫌な予感しかしない」
修は慌てて台所へ向かう。
そこには。
黒い物体があった。
「…………」
「焼けました!」
「炭だな」
フィアナはショックを受けた顔をした。
「お料理、難しいです……」
「いや初日で火を使うな危ないから!」
しかも。
フライパンの横には。
なぜか、生卵が殻ごと置かれていた。
「……これは?」
「入れ物ですよね?」
「違います」
「えっ」
フィアナは本気で驚いていた。
結局。
修が朝ご飯を作った。
味噌汁。
卵焼き。
焼き魚。
フィアナは目を輝かせる。
「朝から豪華です!」
「普通の朝飯だよ」
「異世界では、朝はスープだけでした」
「姫なのに?」
「あと苦い野菜」
「それはつらい」
フィアナは、幸せそうに卵焼きを食べた。
「……おいしい」
修は、その顔を見て少し笑う。
「そんなに?」
「はい」
フィアナは真剣な顔で言う。
「修さんのご飯、あったかいです」
その言葉に。
修は少しだけ照れた。
昼。
修はフィアナを近所のスーパーへ連れていった。
フィアナは入った瞬間、固まった。
「…………」
「どうした?」
「広いです……」
「スーパーだからな」
フィアナは、きょろきょろ見回す。
野菜コーナー。
お菓子コーナー。
冷凍食品。
全部が珍しい。
そして突然。
「修さん!!」
「うおっ!?」
フィアナが服を引っ張る。
「見てください!!」
指差した先。
山積みのプリン。
「……プリンだな」
「こんなにあります!!」
「売り場だからな」
フィアナは震えていた。
「夢……?」
「プリンで感動する姫、初めて見た」
数分後。
事件が起きた。
「修さん」
「ん?」
「これください」
フィアナが持っていたのは。
高級プリン六個入り。
「高っ!?」
「プリン貴族のオーラがあります」
「そんなオーラはない」
フィアナは、しゅんとする。
「……だめですか」
修は困る。
その顔をされると弱い。
「……一個だけな」
「!!」
フィアナの顔が一瞬で明るくなった。
「やったぁ!」
店の中なのに、小さくぴょんって跳ねた。
周りのおばちゃん達が、思わず笑っている。
修は少し恥ずかしくなった。
でも。
なんだか悪い気はしなかった。
帰り道。
夕焼け。
スーパーの袋を下げながら歩く。
フィアナは、大事そうにプリンを抱えていた。
「そんなに嬉しい?」
「はい!」
「城では、好きなものを選べませんでした」
風が吹く。
「毎日、決められていました」
「食べるものも」
「着るものも」
「話す相手も」
修は黙って聞く。
フィアナは、小さく笑った。
「でも今は」
「自分でプリンを選べます」
「スケール小さいな」
「大事なんです!」
フィアナはむっとする。
でも次の瞬間。
ふわっと笑った。
「修さん」
「ん?」
「わたくし、今の方が幸せかもしれません」
夕焼けの中。
その笑顔は、とても綺麗だった。
修は少し視線をそらす。
心臓が、少しだけうるさかった。
「……プリンでそこまで幸せになれるの、才能だな」
「ふふっ」
フィアナは嬉しそうに笑った。
スーパーの袋が揺れる。
その帰り道は。
修が思っていたより、ずっとあたたかかった。




