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第五話 愛おしさと寂し寂しと幾重にも重なり

夏の夕方の空港

ガラス張りの大きな窓から差し込む夕陽が赤く床に反射している。

人々のざわめきとアナウンスが交錯する中、光里はこの夏の想い出がたくさん詰まった大きなキャリーバッグを軽々と引く。振り返りながら手を振るその凛とした後ろ姿が誇らしく、美知子の胸は熱くゆれ高鳴った。


 

――行ってらっしゃい。

そう心で呟きながらも、光里の小さな背中が遠ざかっていくたび、美知子はただ、娘の姿を目で追い続けていた。


出発ゲートの奥へと消えていった娘の後ろ姿に愛おしさと寂しさが幾重にも重なり、言葉にもならない思いが美知子の心を満たしていくのだった。



小学校入学を機に、二人で東京へ上京してきたあの頃……

小さな光里は、慣れない学校の前で立ちすくみ、美知子の手を離そうとしなかった。

突然『おばあちゃんに会いたい』と泣き崩れ、困らせた日もあった。


どれも昨日のことのように鮮やかで、そのすべてが今の光里に繋がっているのだと思うと、胸がきゅっと締めつけられるのだった。


(ねぇ、あなた。光里、とうとう留学先へ戻って行っちゃった。いつの間にか、自分の世界へ歩き出しているのね…… 寂しいけれど、これで良いのよね……)



寂しさだけが残る帰りのホーム。

行き交う人々の喧騒が、どこか遠くの出来事のように感じる。

光里が旅立った後の静まり返った部屋へ帰る気持ちになれず、美知子は親友で二つ年上の由利子に連絡しようと携帯を開いた。


すると、ちょうどその由利子から着信が入っていたことに気づき、思わず慌ててかけ直す。


「由利ちゃん、電話気づかなくてごめんね」


すると、耳元で、拍子抜けするほど明るい声が飛び込んできた。

『光里ちゃん、今日戻るって言ってたでしょ。みっちゃん、絶対寂しがってると思って…… どう? これから飲みに行く?』


あまりのタイミングの良さに美智子は、携帯を耳に押し当てたまま、ぶっと表情を緩ませる。

「私も、由利ちゃんに連絡しようと思って携帯開いたら、ちょうど着信に気づいて。今、電話しようとしたところよ。

それで…… どこ行く?」


くすりと笑いがこぼれるような自然な会話が弾む。

(あぁ、やっぱり持つべきものは、解り合える親友の、由利ちゃんなんだよなぁ)


そう胸の中で呟きながら、待ち合わせ場所へと急ぐ美知子の足取りは、さっきまでよりずっと軽かった。


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