29 チュートリアル/探索型ダンジョン
セリーリアとともにコーザは酒場に向かう。
ちらちらとコーザたちを見て来る者もいたが、髪形をツインテールにしたためか、セリーリアに他人の視線を気にするそぶりは見られない。
(チュートリアルは受付嬢に直接話して受注だったな……)
掲示板には向かわず、セリーリアの手を引いて、コーザは女性のNPCに声をかけた。
「黄金のレガリアを受けたい」
「かしこまりました。依頼人に連絡をいたします。しばらくお待ちくだ――」
返事を待たずに、コーザが酒場から出ようとする。
慌ててセリーリアがコーザを呼んだ。
「コーザさん! いいんですか、待たなくて」
「ああ、平気だ。受注が完了した時点で、もうNPCは外で待機しているんだ」
チュートリアルであるため、グループごとにレイヤーも変わる。特定のプレイヤーに依頼人が独占される心配もない。
酒場の外では、金髪のNPCがコーザたちを待っていた。
名前はアルベルトⅠⅢ。身なりのいい、貴族のような男性型のNPCだ。
「遅かったじゃないか。君たちが、僕と一緒に黄金のレガリアを探してくれる者たちかな? さっそく行こうではないか!」
陽気な声とともに、コーザの視界にメッセージが表示される。
それはセリーリアにも同じものが表れているはずだった。
『現在のパーティーを脱退して、新しくアルベルトⅠⅢとチームを結成します』
拒否権はない。
パーティーとチームの差異は、親がいることにある。NPCとのグループは必ずNPCが親になるため、パーティーではなくチームという扱いになる。
それ以外の大部分がパーティーに準ずるのだが、親がいるために必ずチーム名も作られる。
『チーム“黄金のレガリア(1日目)”に参加します』
セリーリアのほうにうなずいて、コーザもチームに加入する。アルベルトⅠⅢに促されるままに馬車に乗れば、1分後には必ずチュートリアル用のダンジョンに到着するという手順だった。
「あたしたちは何をすればいいんでしょうか?」
一応、セリーリアもクエストの意味について、与えられた依頼をこなす必要があるという、抽象的な部分はわかっているようだ。
「ダンジョン内の探索だな」
受注済みのクエストに書かれたフレーバーテキストを読めば、クエストがなぜ発注されたのかという背景の部分も理解できるが、これは重要ではないだろう。アルベルトⅠⅢが黄金のレガリアという宝飾品を探しているだけである。プレイヤーはその手伝いをする形だ。
「が、頑張ります……」
鼻息を荒くしてセリーリアが張りきっているが、結末を知っているコーザとしては苦笑いを隠せない。
ちなみに、どうして宝飾品がダンジョンにあると気がついたのかといった、ストーリーの細部についての情報はない。元々が探索における一連の流れをプレイヤーに示すだけの目的なので、そういった些事についてはこだわっていないのだろう。
戦闘用のダンジョンはモンスターとバトることが主だが、探索用のそれでは少々勝手が違う。
「ふむ。どうやって入ればいいんだ?」
馬車をおりたアルベルトⅠⅢが、顎に手をあてて悩む。
プレイヤーに答えを導かせるための誘導だろう。
現在地は洞穴の中だ。
辺りは薄暗くて、ほとんど何も見ることができない。だが、眼前にある灰色の扉だけは、暗い中でもはっきりと視認できる。
護法の視界もプレイヤーと同じだが、光尾兎は比較的夜目が利きやすい。セリーリアの体にしがみついているのは、間違いなくわざとだろう。
「普通に開けるだけですよね……?」
扉に近寄ったセリーリアが力いっぱいドアを押す。
だが、扉はびくともしない。
押すのではなく、引くのではないかと試しているようだったが、こちらもうまくはいかなかった。
「主さま。わたくしにお任せください」
光尾兎が扉を破壊しにかかるが、無敵オブジェクト扱いなので護法でもどうすることもできない。
「コーザさん……」
セリーリアがコーザに泣きついて来る。
もちろん、黄金のレガリアをクリアしているコーザは、その答えも知っているのだが、コーザは首を横に振るだけでセリーリアに教えようとはしなかった。
パズルギミックは初見殺しに過ぎない。
基本的には一回限りのエンタメだ。
(ただ答えを教えるだけじゃもったいねえさ)
きっと、自分で導き出すほうが楽しいだろうという、コーザなりの配慮だった。
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