27 旧友/東の大門
東の大門は一般に、プレイヤーが3番目に訪れる大きな町である。
姝醜の都やはじまりの町も規模としては巨大なものだが、どちらも慌ただしくてそれどころではなかったため、セリーリアにとっては初めてのちゃんとした観光になるだろうか。
「うわぁ!」
歓声を上げるセリーリア。
それに釣られて幾人かのプレイヤーがセリーリアへと視線を向ける。
カーティルとプレイヤー名から、セリーリアが妖精の瞳の持ち主であることに気がついた者もいるようだったが、光尾兎が鋭い目線を周囲に走らせているせいか、ちょっかいをかけて来るような不届き者はいない。
(そろそろクエストも受注したいよな……)
ここまでの道中でもレベル上げをすることができたため、セリーリアのレベルは16まで上昇していた。
タイオンでは25レベルごとに経験値テーブルに大きな変動があるため、それまでは比較的レベルが上がりやすい。
セリーリアはきょろきょろと辺りを興味深そうに見回している。
もう急いでいるわけではないため、コーザはセリーリアの動きに合わせてゆっくりとついていく。
「飽きるまで見ていいさ」
「ありがとうございます!」
古い知り合いであるギークは町に引きこもっているので、出会えないという心配も無用だ。
本来であれば、鍛冶屋などに立ち寄って武器を新調するところなのだろうが、あいにくとコーザの持っているお古のほうが品質が高い。そういった意味での喜びは、残念ながらセリーリアには与えられない。
「行くか?」
「はい!」
一通り、セリーリアが露店を眺めたタイミングを見計らって、コーザはセリーリアとともに歩きだす。
裏道に入り、どんどんと人通りの少ないほうへと向かう。
周囲にNPCのショップが一切なくなったとき、コーザの目指す目的の店舗が見えて来た。
「……。ここですか?」
「そうだ」
目を白黒とさせているセリーリアの腕を引いて、勝手知ったる態度でコーザが扉を開ける。
「ギーク、邪魔するぜ」
店舗という名目で建っているが、実際には営業していない。
実態を表すのなら、研究所だろう。
中へと入れるプレイヤーも、自身の友垣とそのパーティーに限定するという徹底ぶりだ。
「……コーザか。そろそろ来る頃だと吾輩も思っていたぞ」
奥にいた人物が入り口のほうへと振り返る。
店内には所狭しと、アバターの見た目に関するアイテムが展示されていた。
髪、宝飾品、衣服……どれも売り物ではない。中にはハンドメイドによって作られた一点ものまで存在している。
「セリーリア、お前は自分の髪型について気にしていただろう? このギークはその手の専門家だ」
コーザが親指で奥のプレイヤーを示す。
「初めまして、セリーリア。吾輩はイズルベシア。そこの下品なコーザからは、専らギークという蔑称で呼ばれている。突然だが、セリーリア。吾輩のアバターはどう見えるかな?」
イズルベシアのアカウントはコーザと同じく黒髪で、髪も長い。
突然の質問に困惑したものの、セリーリアは素直な感想を漏らした。
「……? フィノットじゃ……」
うなずいたイズルベシアが、満足そうにアバターの見た目を変えていく。
「いいや、正解はこのとおりカーティルだ」
そこに現れたのは黒髪のサイドテール。
紛うことなきカーティルの証しだった。
「メルリオのふりをするのは少々厄介だがね。髪を足すことは、実はできるんだ。無論、こちらもそれなりに面倒だがね。まあ、立ち話もなんだ。その辺に腰かけてくれたまえよ」
促され、コーザとセリーリアもソファーに座る。
もうすっかりと、セリーリアはイズルベシアの姿に夢中だった。
別のアバターが、コーザたちに茶とおしぼりを持って来る。姿からしてプレイヤーではない。
NPCだ。
(……汎用の恋人NPCか)
内心でコーザは苦笑する。
「意外だな。お前はもっとマニアックなNPCを侍らせているものだとばかり思っていたぜ」
イズルベシアは肩を竦めて応じた。
にこやかに微笑んでコーザとセリーリアの前にお茶が出される。一方、恋人であるはずのイズルベシアには、なぜか乱暴に茶が出された。
はねたお茶がイズルベシアの手にかかって、とても熱そうにしていた。
(……なんだ?)
ぎょっとしているコーザを尻目に、もう1体のNPCもまた、コーザたちには丁寧に対応しながら、肝心のイズルベシアには粗暴な態度で応じていた。
不思議そうにしているセリーリアに向かって、イズルベシアが口を開く。
「恋人NPC2人から嫉妬されるのは簡単だ。両方の親密度をただ闇雲に上げるだけでいい。吾輩がやっているのは、それとは違う。この人と別れようと思っているけれど、もうちょっとくらいなら一緒にいてやってもいいかなという状態を維持することだ」
今度こそ、コーザは露骨に苦笑した。
「……。ギーク、前から不思議だったんだが、それはいったい何が面白いんだ?」
「やってみたいからやっているだけだな。好感度の微調整が意外に難しいんだ。NPCの場合、好感度は上げることよりも下げることのほうが難しいからな」
「そういや……はまりすぎてリアルの恋人と疎遠になったっていうやつがいたな……」
「快感パラメーターがないのは、タイオンの有情だな。単にコンセプトの問題かもしれないが……話を戻そう。恋人NPCが3人だと、破局一歩手前の維持は成功しないんだ。不思議じゃないか?」
「もっと前に戻してくれ。カーティルの髪形をどうにかしたいんだ。手を貸してくれないか?」
コーザの頼みに、イズルベシアがせっかちだとでも言いたげに首を小さく振っていた。
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