26 デスルーラ/新たなる町
光尾兎はセリーリアが起きるまで、本当にモンスターを倒しつづけたようだった。もそもそと這い出すようにして、セリーリアがシェルターテントの外に来る。
どんな第六感で感じ取ったのかは知らないが、その2分前には光尾兎も姿を現している。
「飯にするか……?」
焚火に新しい薪をくべながらコーザが尋ねれば、セリーリアは笑ってうなずいた。いつもと変わらない、豆腐味のスープを食べる。
(……いい加減、料理スキルでも磨くかね?)
これまでは味なんて気にして来なかったコーザだが、これからもセリーリアと一緒にいるつもりならば、調理したりあるいは食事をしたりする機会は多くなるだろう。面倒だからと敬遠していた料理スキルにも、いよいよ手を出す頃合いなのかもしれない。
セリーリアが上品にスープを食べている間に、コーザは次の町に向かう準備をはじめていた。
(その前に妖聖の庭園で宿屋に立ち寄って……と)
なるべく急ぐつもりではいるものの、宿泊イベントの期限は引き延ばしておきたい。
シュナイダーにもコンタクトを取っておく。
3コールを2回。
ギルドでしばしば使われる簡易サインだ。
「セリーリア。ちょっと急いで妖聖の庭園に戻りたい」
「あっ、はい。食べるのを急ぎます……」
「いや、そういうんじゃない。ゆっくりと食べてくれ。あとでGの消費を求められるから、先に渡しておくぞ。それを使ってくれ」
そう言いながら、コーザはセリーリアに所持金の数パーセントを譲渡した。
(大聖堂を建てておいて正解だったな。名義がうちなのも好都合だ)
マスター権限で、デスペナルティーの解放条件にGによる即時復帰を許可する。
金額は1レベルごとに10万Gだ。
レベル103のコーザには1030万Gの支払いが求められる。
(絶対にデスルーラを阻止しようっていう、強い意志を感じるぜ……)
携帯聖域は用済みなので廃棄。
それと並行して、セリーリアにカウンターブレードを装備させる。受けたダメージの割合に応じて、相手にも同じ割合のダメージを強制的に与える効果を持つ消費アイテムだ。
固定で500のダメージを与える罠具を設置し、パーティーを解除すれば仕掛けは完了。
(罠具はうちが設置した扱いのままなので、これでセリーリアにもダメージが入る。500ダメージなら、セリーリアの体力が一撃で吹き飛ぶから、うちも反撃でさようならだ……)
セリーリアが食べおわるのを待ってから、近くへ呼び、コーザは無理心中を決行していた。
ただちに、近くの大聖堂でリスポーンする。
もちろん、それは妖聖の庭園だ。
(ペアロックで痛覚は事前に遮断してあるので問題なし……)
2人ともなんの衝撃も受けていないだろう。気がついた瞬間には、妖聖の庭園の大聖堂に着いていたはずだ。
デスペナルティーの支払いを済ませ、コーザはすぐにセリーリアと合流する。
(日中の時間はなるべく有効活用したいからな……。無意味な移動で時間を浪費したくない)
夜が苦手だというのなら、セリーリアにはなるべく日中を自由にしてやりたかったのだ。
2人合わせて1100万Gの出費は痛手だが、そうそう何度もあるものじゃないだろうと、コーザは気にも留めない。
「強引な方法で悪いな」
「い、いえ……」
事前に伝えておいたため、セリーリアも自力でデスペナを回避できたようだ。そうして、非戦闘エリアにいる間に、パーティーを復活させる。
護法からの誤攻に備える腹づもりだった。
(セリーリアはぴんと来ていないだろうが、大聖堂で復活した以上、光尾兎には何が起こったかわかっているはずだからな……)
主人もろともデスルーラをしたコーザのことを、光尾兎が鬼の形相で見つめているが、さすがに非戦闘エリアでは忠実な下僕も何もできない。
無論、それは光尾兎の機嫌を直すものではないため、しばらくはこれまで以上に話もできなくなるだろう。
妖聖の庭園から外に出て、コーザはシュナイダーたちと再会した。
「急にリスポーンコールがあったから、驚いたぜ」
「悪いな。これから次の町に向かう。その前に、ちょいと休息所を使わせてほしくてな」
「ああ……そういうことか。構わないよ」
シュナイダーは笑ってうなずく。
「助かる。たぶん、使うことがねえと思うから、Gによる即時解放はまたオフにしちまったぜ」
「逆用されることも少ないだろうが、そのほうが安全だな」
休息所に向かって歩く。
その付近からコーザたちを噂する声が聞こえた。
「あのカーティルの光尾兎、赤い洋服ってことは純正品か?」
「既製品をカスタムチェンジで赤にしているんでしょ。高いのによくやるなぁ」
セリーリアが自分の髪を隠すように押さえる。話の中心は光尾兎のことだったが、嫌でも目立ってしまう自分の髪型をよく思っていないようだった。
(……なるべく、見た目をいじくることはしてほしくなかったんだが……しょうがねえ。会うつもりがなかったんだが、ギークのところに行くか)
セリーリアの手を引いて、コーザが休息所の中へと入る。
ここの定員は5名。
シュナイダーが事情を話して、個室の所有者2名が場所を開けてくれる。
休息所の名簿にプレイヤー名を書いた時点で、個室が分け与えられる形だ。
(コーザにセリーリア……っと)
任意の宿泊の場合には、イベントのスキップも可能だ。
一度、中に入って外に出るだけで、宿泊した扱いになる。
「ただ扉を開けてドアを閉めてから、また出て来るだけだ。簡単だろ?」
見よう見まねでコーザの真似をし、セリーリアも無事に宿泊をスキップした。
名簿の名前に横線を引いて、個室の所有権を放棄する。
休息所をあとにする前に、先に妖精の嬢王のプレイヤーをエントランスに呼ぶのが肝心だ。こうすることで、常に休息所の定員を超えるため、この場所が宿泊イベントの対象に選ばれなくなる。
畢竟、予期せぬ闖入者は現れないということだ。
「世話になった」
「忙しいな」
苦笑するシュナイダーと拳を交わして、セリーリアの手を握る。《脱獄の共犯者》で敏捷性を揃え、コーザたちは次の町を目指した。
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次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




