22 式神/光尾兎
セリーリアとスケール・ラビットの奮闘はつづいていた。
セリーリアの体力は残り146。
対するスケール・ラビットは体力を2割ほど減らしていた。
決して芳しい戦況ではない。
それはコーザが危惧していたとおりの展開だった。
(どうすっかね……)
セリーリアは優しい。
相手を傷つけるくらいなら、自分が傷つくことを選ぶプレイヤーだろう。
自己犠牲的な献身だ。
タイオンには無限にも等しいプレイ時間があるのだから、そのスタイルを貫き通すことも、あるいは不可能ではないのかもしれない。
(非効率だが、モンスターを倒さずにレベルを上げるという方法もあるっちゃあるが……)
異端の方法だ。
それはコーザと同じソロプレイヤーになる決意を必要とする。そしてコーザには、セリーリアにソロプレイヤーの道を歩ませるつもりがなかった。
(せっかくならグループと一緒に行動する楽しみも教えてやりたい)
単独行動者の道は、そりが合わないとわかったときにはじめればいい。最初から選ぶようなものではないはずだ。
「……。セリーリアの場合は、自分以外に守るものがあったほうが力を発揮するかもしれねえな」
スケール・ラビットの体力が半分を切った。
だが、これまでセリーリアのダメージはすべて部位ダメージだ。
クリティカルはおろか、まともな攻撃さえあたっていない。
それはセリーリアがモンスターへの攻撃をためらってしまうからにほかならなかった。
「セリーリア! そろそろ、回復アイテムを消費しろ!」
「は、はい!」
言われたとおり、セリーリアが中級回復薬を使用する。
瞬く間に、HPゲージが全快。
そのバーの色が緑に戻る。
「荒療治か……」
チームやパーティーで行動するなら、自分だけが犠牲になるという精神ではいけない。
仲間も守るために、相手を攻撃するという決意が必ずどこかで求められる。
今のセリーリアでは、それを自然に発揮することは期待できないだろう。
「……」
スケール・ラビットの突進。
再びセリーリアが尻もちをつく。
そこに時機を見出したコーザが、風の魔法でスケール・ラビットの位置を遠くへ追いやった。そのまま流れるように石化の状態異常を付与。
スケール・ラビットがセリーリアに近づくのを阻止する。
「セリーリア、ちょっといいか?」
突然、外から戦闘を中断されたセリーリアが、呆けたように目を丸くしていた。
だが、ほどなくして立ちあがると、とてとてとコーザのもとへ駆け寄って来る。
「なんでしょう?」
「お前に渡したいものがある」
コーザが手渡したのは、光の尾っぽという消費アイテムだった。
低級の使い魔を召喚することができる。
受け取った光の尾っぽを太陽にあてて眺めているセリーリアに、コーザは使用することを促した。たちまち、4本の尾っぽを持った小さなウサギが姿を現す。
「かわいい!」
現れた使い魔がセリーリアの周りをくるくると回る。
戦闘中であることも忘れたようで、しゃがみこんだセリーリアがウサギの頭を撫でていた。
そんなセリーリアを見るにつき、したり顔でコーザは語る。
「その白いウサギは、光尾兎っつってな。結構人気な式神だ」
セリーリアが小首を傾げながらうなずく。
使い魔は大きく3種類に区別される。
1つめは、高度な命令を実行できるタイプ。これは煉南鳥や狐嫽人があてはまる。
もうひとつは、あらかじめ決められた動作しかできないもの。今しがた召喚したウサギのなどがそうだ。
光尾兎は召喚したプレイヤーに随伴して行動する。自発的にモンスターを探知して攻撃するといったことはない。
最後は特定の職業に付随するものだが、こちらは当分関係がないだろう。
「はっきり言って、光尾兎は弱い。お前がそいつの親だ。光尾兎を守ってやれ」
疑似的なグループだ。
これで少しでも、戦うことへの抵抗感が弱まってくれたらと、コーザは期待した。
「コーザさん!」
セリーリアはしゃがんだままコーザの顔を見上げる。
「どうした?」
「でも、うさちゃんの色は白じゃなくて、黄金色ですよ?」
「そんな馬鹿な……」
ドヤ顔をやめ、コーザは目を見開いて地面を見下ろす。
そこには、セリーリアの言うように、白い光尾兎ではなく、毛並みが茶系の光尾兎がいた。何が起こったのかと、コーザは2度目をしばたたせたが、すぐに合点がいった。
「……ああっと。もしかして、セリーリア。アイテムボックス欄に、うさぎのお守りとか出ているか?」
セリーリアが確認して、コーザにうなずいた。
「時々……光尾兎って進化するんだよ。たぶん、それだな。うちもまだ見たことないけど……」
「えっ! お返しします……」
セリーリアが首を振って、ウサギの式神を抱きかかえる。
「いや、その状態ってもう譲渡禁止だから、セリーリアのもんだ。元々、あげるつもりだったから、そこは気にしなくていい」
(……ただ、光尾兎じゃなくて光尾兎・改のほうか……)
コーザは後頭部を掻きながらしばし悩む。
(ステータスが今のセリーリアより強いんだよな……)
保護対象として間違っているのではないかと、そういう考えがないわけではない。
だが、消費アイテムの光の尾っぽと違って、うさぎのお守りは使用アイテムだ。使えば、いつでも光尾兎・改を召喚できる。
(同じ個体が現れてくれるのは、愛着という意味では大きいかね……)
コーザは考えなおして、首を横に振る。
それから、思い出したようにセリーリアに声をかけた。
「そうだ。うさぎのお守りって使用だけじゃなく、消費のコマンドもあると思うんだが、そっちは押さな――」
「えっ?」
会話の途中でセリーリアが口を挟んだ。その意図はコーザにも容易に伝わった。すでに押してしまったのだ。
「……。セリーリアさん?」
「ご、ごめんなさい!」
うさぎのお守りは一度だけだが、式神ではなく高度な命令を実行できる使い魔に光尾兎を変更できる。
光と雲のエフェクトが走り、瞬く間に光尾兎の姿が変わった。
式神時の愛くるしい面影はなく、主人の命令を忠実に実行するというクールな印象を抱かせる人型の使い魔。
4つあった小さな尻尾はいずれも消え失せ、代わりに4本の剣が光尾兎の周囲をふよふよと漂っている。
紛うことなき、それは高ランクの使い魔――護法・光尾兎の姿だった。
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