23 護法/ビギナーズラック
コーザはしばらくの間、口を開けなかった。
「主さま、ようやくわたくしの力を披露できる機会をいただき、感謝しております」
恭しく頭を下げる光尾兎だが、セリーリアの関心はそこにない。
「……コーザさん。見た目は変えられますか? 前のほうがかわいかったかもしれないです」
セリーリアのマイペースな発言に、光尾兎が泣きそうな顔をする。そうして、この世のおわりを告げられたかのように、とぼとぼとセリーリアから離れていった。
「ああ、ごめん。嘘うそ! 今のほうがとってもかわいいよ」
ぱあっと顔を輝かせた光尾兎が即座に反転。
セリーリアの胸に飛びこんだ。
「あーん、主さま!」
「……よしよし」
手のかかる子供のように、セリーリアが光尾兎をあやす。
(そいつ……そんなんだけど、純粋な強さはうちよりも上だぞ……)
もう自分はセリーリアに必要ないのではないかと、コーザは遠い目をしながら思った。
(ビギナーズラックが激しすぎる……)
「とりあえず、さっきとおんなじだな。セリーリアは、親として光尾兎を守れ」
「はい!」
「何を仰いますやら、主さま! わたくしは守られるような存在にはございません。すでに、多くの時間を主さまに守っていただきました。今はこのご恩に報いるとき! 今こそ、わたくしが主さまの敵を切ってご覧に入れます!」
そう言って光尾兎がコーザに剣を向け、華麗な連撃を決める。
ほとばしる斬撃のエフェクト。
タイオンは味方の同士討ちに制限がないが、パーティー間では誤攻が無力化される。派手な演出があるだけで、コーザのHPゲージに変化はない。
「なるほど……これがパーティーですか」
そして、そのことは高度なNPCである護法もすぐに学習する。
「さっ、主さま。パーティーを脱退してくださいまし。10秒で片をつけましょうぞ!」
10秒は言い過ぎとはいえ、シンプルな火力勝負ならばコーザが負けることは疑いない。もちろん、実際の戦闘ではコーザもアイテムを使うため、無敗の称号を傷つけることはできないに違いない。
「ルーちゃん」
「はっ、ルーにございます!」
「コーザさんは敵じゃないよ。今、あたしが戦っているのは、あっち」
そう言ってセリーリアがスケール・ラビットを指さす。ようやく石化が解けたようで、こちらにちょっとずつ迫って来ているようだった。
「お任せあれ!」
言うやいなや、光尾兎は猛然と突撃。
当然のように一発で仕留めると、褒めてと言わんばかりに走って戻って来る。
「主さま、任務完了にございます!」
護法が倒したモンスターの経験値は、使い魔が消滅する際にまとめて契約者に返還される。
したがって、セリーリアのレベルは1のままだ。
このまま光尾兎が迫り来る敵を切り刻む限り、セリーリアは永遠にレベル上げができない。
「ルーちゃん、すごいねえ」
先ほどの癖なのか、セリーリアが光尾兎の頭を撫でた。
そうしてセリーリアが純粋に褒めるものだから、調子に乗った光尾兎は手当たり次第に付近の魔物を殺しに向かう。
光尾兎の最終進化系は、攻守速のすべてが高水準の理想的な使い魔だ。
おまけに特性で、ほぼ確実に契約者は秒間200のHPを回復する。一撃で落とされない限り、セリーリアがリスポーンすることは、しばらくの間は気にしなくてよいだろう。
「今のうちですね……」
セリーリアが魔物のお香を使用する。
現れたモンスターが何かを判断する前に、いったいどこから飛んで来たのやら、光尾兎が倒してしまう。
そうしたことが何度か続いたとき、コーザは光尾兎を怒鳴りつけていた。
「だから、てめえが倒したらセリーリアの練習になんねえだろって、何回言わせるんだ、この馬鹿ウサギ!」
「ふん。自分が主さまのお役に立てないからといって、わたくしを責めるのは筋違いというものですね」
やれやれと言いたげに、光尾兎が肩をすくめて首を振る。
危うく手が出るところだが、光尾兎も同じパーティーの扱いなので、誤攻に意味はない。
「ありがとう。でも、ルーちゃん。あたしも、自分でどうにかしないと……。待っていてくれる?」
「素晴らしい心がけです、主さま! 待ちましょうとも、この世のおわりまで、ルーはここで待っております!」
(……純正品の光尾兎って、こんなに愛が重いんだ……。既製品しか見たことがねえから、知らなかったぜ)
過程はどうであれ、セリーリアが前向きになってくれたのであれば、結果オーライだろうと、コーザは無理やり納得した。
何度目の正直かわからないが、今一度、セリーリアがスケール・ラビットと相対する。
(光尾兎のおかげでHPは回復しつづけるが、これを基本に戦術を考えるのは、さすがにまだ危ねえよな……)
ノーガード戦法でも相応のレベルまではやりくりできるとは思うが、それ頼りのプレイヤーにはしたくない。
苦戦するセリーリア。
秒間回復があるため、いずれはセリーリアが勝つはずだったが、戦闘のテンポという根本的な部分には、やはりまだ致命的な欠点が見られる。
(ほんじゃ、一肌脱ごうかね……)
コーザは幽債鬼に固有の能力を使うことを決めていた。
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