21 レベル1/スケール・ラビット
「悪いな、邪魔しただけで」
コーザがシュナイダーに謝る。
シュナイダーは首を横に振って、セリーリアたちの選択を肯定した。
「構わないよ。妖精の森に引きこもることが、僕らにとって唯一の正解だとは思っていないし、そうであっては困る」
「そう言ってくれると助かるぜ」
「ただ、宿泊施設の許可だけは下ろさないでもらえるか? 早々、関係者以外のプレイヤーが、妖聖の庭園に来られるとは思えないが……一般に開放した以上、情報はすぐに出回るだろう」
「もちろんだ。騒がせた詫びくらいはさせてくれ」
そう言って、コーザはシュナイダーに建築アイテムを渡す。陣地防衛のために使われる投石器2つだった。
「……いいのか?」
「うちはギルドに加入していないからな。使う機会なんかねえよ」
「いや、売れば相応の金額になるはずだろう?」
「拾ったアイテムは売らない主義でね」
冗談めかしてコーザが笑えば、ようやく納得したようにシュナイダーも首肯した。
「そういうことなら、ありがたく使わせてもらう。近いうちに申請を出すことになると思うので、そのつもりでいてくれ」
「ああ、了解だ。そういった諸々のことも含めて、今後は密に連絡を取りあえたほうが便利だな。うちは友垣枠が余っているから、うちからのコンタクトでも平気かい?」
「相互のほうがいいんじゃないか。僕も枠を開けるよ」
友垣は申請した側からしか、相手に連絡を取れない。お互いに発信をしたい場合には、両方からの申請が必要になる。
「悪いが、大聖堂だけは先にうちの名義で建てさせてくれ」
「大歓迎だ。僕らにとっても、妖聖の庭園でリスポーンできるのは大変ありがたい。……さっきの人身放擲でも思ったが、大聖堂の建築素材まで所有しているなんて、すごいな」
「昔ちょっとだけ、大聖堂があったらいいのにって場面に出くわしたんだよ。すまん、セリーリア。今送ったメッセージに許可を出してくれ」
言われるままに、セリーリアは手元を操作していく。
「また会おう、コーザ」
「たまにはセリーリアと寄らせてくれ」
シュナイダーがコーザのことを確かめるように見つめる。それに応えて、コーザはセリーリアの手をぎゅっと握った。
「もう逃げねえよ。うちが必ずセリーリアを、立派なプレイヤーにしてみせる」
セリーリアが安心したようにうなずく。
それを見て、シュナイダーも笑っていた。
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妖精の森を出る。
セリーリアが成長するまで他人の手に任せないと決めたからには、まず必要になるのはレベリングだろうか。
妖精の嬢王と協力するほうが安全だが、コーザはなるべく自発的にセリーリアに戦わせる方針を取るつもりだった。
(大聖堂を作ったので、ひとまずリスポーン周りでの心配はない……。携帯聖域が使えるようになったので、これも使っておくか)
セリーリアの装備はレベル1になってしまったので、相応に貧弱なものになってしまった。装備の重量制限というパラメーターが極端に低下してしまったからだ。
これではいくら高級な装備品を持っていても用なしだ。
(一応、武器だけは渡しているが……この辺のモンスターとバトれるほどじゃない)
自発的に低級のモンスターを呼び寄せるほうが正解だろうと、コーザはセリーリアにアイテムを渡す。
「セリーリア」
「はい」
「まずは、基本的なアクションから覚えようぜ」
「はい!」
邪魔なモンスターは自分が排除すればいい。
セリーリア本来のプレイスキルを見定める意味を込めて、コーザには積極的な手助けをする意思がなかった。
魔物のお香が発動。
アイテムの効果によって引き寄せられたは、スケール・ラビットという低級のモンスターだ。名前のとおり、体を鱗上の固い毛で覆っているため、防御力が高い。その反面、攻撃力は低いので、序盤の練習相手としてはうってつけだった。
(いいのを引いたな……)
「自分なりにでいいから、戦ってみな。アイテムボックスにある回復薬は自由に使っていい」
「はい!」
快活な返事をしたセリーリアが、細身の長剣を闇雲に振り回す。
モンスターとの距離が遠すぎてあたるわけがない
(……ま、まあ。アクションゲームどころか、ゲーム全般に触れて来なかったみたいだしな。このくらいは想定内……うん。想定内)
セリーリアのHPは武具による恩恵も合わせて236。妖精使いの初期ステータスが23であることを思えば、10倍だ。十分な体力がある。
スケール・ラビットが跳ねるように近づいて、セリーリアの足元にぶつかる。
表示されるダメージ数は2。
恐らくは、最低ダメージ保証の値だろう。
(この様子じゃ特殊攻撃以外で、セリーリアが落とされることはねえな)
おずおずといった具合に、セリーリアがモンスターに剣をあてる。
多少はスケール・ラビットも愛くるしい見た目をしているので、攻撃に躊躇してしまうのかもしれない。表示されたダメージは6だった。
スケール・ラビットのHPはおよそ90。
順当に行けば、セリーリアが勝つ。
(その優しさは間違いなく、セリーリアの強みなんだが……戦闘に関してだけ言うなら、ちょっとまずいかもしれねえな……)
考えたそばから、スケール・ラビットが足で地面を何度か払って突進の構えを見せた。
特殊攻撃だ。
少しの間を置き、モンスターがセリーリアに突進。40のダメージを与える。
「うわぁ!」
セリーリアが尻もちをつく。
大きな痛みはないはずだが、いきなりの行動に驚いたのだろう。
「無理に回避しようとしなくていい。今はまず、自分の攻撃をあてることだけに集中するんだ」
コーザも横から口を出す。
うなずいたセリーリアがしっかりと剣を構えた。
(……?)
背後から近づいて来る別の気配。
振り返れば、そこには赤黒い縞模様のコウモリがいる。
逆縞蝙蝠――このエリア本来のモンスターだった。
間違ってもセリーリアとは対決させられない。
存在を認めたコーザが、おもむろに剣を抜く。
「今、うちの弟子が頑張っているところなんだから、邪魔すんな」
両断。
流血エフェクトとともに、適切な攻撃だったことを意味するクリティカルの表示が出現した。与えたダメージは3825。
一撃である。
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