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「ジン!」
ツルカは瓦礫の壁へ駆け寄る。
「マリナ! ナユ! 聞こえる!?」
石材の隙間へ顔を近づけ、声を張り上げる。
「返事して! みんな、大丈夫!?」
返答は一向になかった。
壁は高く、不安定な石材が折り重なっている。下手に刺激を与えれば二次崩落を招くかもしれない。
「くそっ……! 聞こえたら何か返して! みんなーっ!」
ツルカは瓦礫の奥から届く音に耳を澄ませた。
微かな金属音と、複数の足音が聞こえる。ジンたちがいると思われる側で、すでに戦闘が始まっていた。
「みんなが襲われてる……? この壁、壊せないかな」
「推奨しません」
ミライは石材の積み重なりを視線で測定しながら、首を横へ向けた。
「不用意な破壊は広範囲の崩落を誘発します。瓦礫の向こうにいる三名を巻き込む危険性があります」
「なら、飛び越えるか……」
「警告。マスター、後方より敵影多数。現在地へ接近しています」
ミライが後方を指し示す。
崩落の音を聞きつけたバルゴゾーンの群れが、街路を埋め尽くしていた。先頭の個体が瓦礫を踏み越え、その背後からさらに多くの影が続いている。
「こっちも、迷ってる時間はないってことか……」
ツルカは瓦礫の壁へ向き直り、唇を強く結ぶ。
「……みんな、絶対に無事でいて」
短い祈りを胸へ納め、ツルカはミライへ顔を向けた。
「行くよ、ミライちゃん。僕たちがこっちの敵を引きつける。別の道を探して、王城へ向かいながらみんなと合流するんだ」
「承知。マスターの護衛を最優先に行動します」
「護衛だけじゃないよ」
ツルカは拳をミライの胸元に優しく突き出した。
「ミライちゃんも絶対に壊れないで。二人でみんなのところへ戻るんだ」
ミライの表情は変わらなかった。
しかし、その瞳が一度だけツルカの顔を捉え、静かに瞬く。
「命令として受理しました」
「うん。じゃあ、行こう!」
二人は迫り来るバルゴゾーンの群れへ向かって駆け出した。
そこからの道程は、まさに修羅の道だった。
狭い路地、崩れた屋根、放棄された地下水道。どこへ行ってもバルゴゾーンは蔓延っている。
「ミライちゃん、右をお願い!」
「了解。合計三体、排除します」
「僕は正面を止める!」
ツルカは拳を振るい、脚を唸らせ、群がるバルゴゾーンを破壊し続けた。
人間の少女を素体とした人形が、造形された無邪気な笑みを貼りつけたまま、魔導砲へ変形した腕を向ける。
「砲撃が来ます」
「分かってる!」
ツルカは地面へ手をつき、低い姿勢で光線の下を潜り抜ける。
接近した勢いを拳へ集約し、人間の少女型の胸部へ拳をめり込ませる。装甲が陥没し、その奥に隠されていたコアがひしゃげ、血液とオイルが混じった液体が溢れ出す。
少女の顔は、笑ったままだった。
「……ごめんね」
ツルカの手が一瞬だけ止まる。その隙だらけのツルカの横から、ドワーフの老人を素体としたバルゴゾーンが腹部を展開した。内部に収納されていた回転刃が顕になり、ツルカの首筋へ迫る。
「危険、排除」
ミライの指先に内蔵されたコンパクトな魔導砲が放たれ、その光線がバルゴゾーンの頭部を貫いた。バルゴゾーンは勢いを失い、その場に倒れる。
「戦闘中の躊躇は、致命的な損害につながります」
「……うん。ありがとう、ミライちゃん」
ツルカは倒れ伏す少女型のバルゴゾーンを見下ろした。
人形たちに罪はない。だが、動きを止めなければ、ツルカやミライだけでなく、避難民や友軍が殺される。
「こんなこと、したくないのにな……」
敵を破壊するたびに、人を殺しているような嫌悪が心へ蓄積していく。
「僕には、こうすることしかできない。ごめんね……!」
感情を奥底へ押し込み、次の敵へ向き直る。
ミライもまた、正確無比な攻撃でツルカを補助する。
「左脚部を破壊。今です」
「分かった……!」
「後方、砲撃準備を確認。正面の個体は私が処理しますので、そちらはお任せします」
「無理しないでね!」
ミライの指先から放たれる光線は敵の急所だけを貫き、過剰な攻撃を一切行わない。敵の武装、脚部、コアを順に破壊し、着実に機能を停止させていく。
(ミライちゃん……すごく強い。同じ人形のはずなのに……。そういえば、最新機なんだっけ……)
二人は幾つもの戦場を抜け、やがて時計塔によって分断された広場の反対側へ到達した。
「ここ……さっきの広場だ」
ツルカは呼吸を整えながら、周囲へ視線を巡らせた。
すでに、ジンたちの姿はない。
石畳には数体のバルゴゾーンが倒れており、大剣で破壊された痕跡が残されている。
「この壊し方、ジンかな……」
「大型刃物による破壊痕です。もし、マスターの仲間の方ならば、状況を推測するに、交戦後、王城方面へ移動したのかもしれません」
「そっか。無事に倒したんだ……」
ツルカはほっと息を吐き、胸をなで下ろした。
「よかった……。本当によかった」
「ですが、三名の生存を確定できる証拠はありません」
「ミライちゃん、そこは少しくらい安心させてよ」
「不確定情報を肯定することはできません」
「もう……でも、これだけ倒せたなら、きっと大丈夫だよ」
ツルカはバルゴゾーンの残骸を横目に、小さく頷いた。
「ジンたちは強いもん。絶対に王城へ向かってる」
「では、追跡しましょう」
「うん。いこう」
二人が走り出そうとした瞬間、ミライの顔が右側へ向いた。
「マスター、右翼より増援。数、二十」
「二十……?」
やがて複数の足音が聞こえてくると、別のバルゴゾーンが街路全体を埋めていく。
「もう……キリがないっ!」
ツルカは肩を上下させながらも、再び拳を構えた。
「ミライちゃん。あと少しだけ、付き合って」
「どこまででも随伴します」
「ありがとう。じゃあ、いくよっ!」
ツルカは脚へ力を集め、二十体の敵へ正面から踏み込んだ。




