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全ては『ミライ』のために  作者: アベル
ガリロルザ 編

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18

「ジン!」


 ツルカは瓦礫の壁へ駆け寄る。


「マリナ! ナユ! 聞こえる!?」


 石材の隙間へ顔を近づけ、声を張り上げる。


「返事して! みんな、大丈夫!?」


 返答は一向になかった。

 壁は高く、不安定な石材が折り重なっている。下手に刺激を与えれば二次崩落を招くかもしれない。


「くそっ……! 聞こえたら何か返して! みんなーっ!」


 ツルカは瓦礫の奥から届く音に耳を澄ませた。

 微かな金属音と、複数の足音が聞こえる。ジンたちがいると思われる側で、すでに戦闘が始まっていた。

「みんなが襲われてる……? この壁、壊せないかな」

「推奨しません」


 ミライは石材の積み重なりを視線で測定しながら、首を横へ向けた。


「不用意な破壊は広範囲の崩落を誘発します。瓦礫の向こうにいる三名を巻き込む危険性があります」

「なら、飛び越えるか……」

「警告。マスター、後方より敵影多数。現在地へ接近しています」


 ミライが後方を指し示す。

 崩落の音を聞きつけたバルゴゾーンの群れが、街路を埋め尽くしていた。先頭の個体が瓦礫を踏み越え、その背後からさらに多くの影が続いている。


「こっちも、迷ってる時間はないってことか……」


 ツルカは瓦礫の壁へ向き直り、唇を強く結ぶ。


「……みんな、絶対に無事でいて」


 短い祈りを胸へ納め、ツルカはミライへ顔を向けた。


「行くよ、ミライちゃん。僕たちがこっちの敵を引きつける。別の道を探して、王城へ向かいながらみんなと合流するんだ」

「承知。マスターの護衛を最優先に行動します」

「護衛だけじゃないよ」


 ツルカは拳をミライの胸元に優しく突き出した。


「ミライちゃんも絶対に壊れないで。二人でみんなのところへ戻るんだ」


 ミライの表情は変わらなかった。

 しかし、その瞳が一度だけツルカの顔を捉え、静かに瞬く。


「命令として受理しました」

「うん。じゃあ、行こう!」


 二人は迫り来るバルゴゾーンの群れへ向かって駆け出した。

 そこからの道程は、まさに修羅の道だった。

 狭い路地、崩れた屋根、放棄された地下水道。どこへ行ってもバルゴゾーンは蔓延っている。


「ミライちゃん、右をお願い!」

「了解。合計三体、排除します」

「僕は正面を止める!」


 ツルカは拳を振るい、脚を唸らせ、群がるバルゴゾーンを破壊し続けた。

 人間の少女を素体とした人形が、造形された無邪気な笑みを貼りつけたまま、魔導砲へ変形した腕を向ける。


「砲撃が来ます」

「分かってる!」


 ツルカは地面へ手をつき、低い姿勢で光線の下を潜り抜ける。

 接近した勢いを拳へ集約し、人間の少女型の胸部へ拳をめり込ませる。装甲が陥没し、その奥に隠されていたコアがひしゃげ、血液とオイルが混じった液体が溢れ出す。

 少女の顔は、笑ったままだった。


「……ごめんね」


 ツルカの手が一瞬だけ止まる。その隙だらけのツルカの横から、ドワーフの老人を素体としたバルゴゾーンが腹部を展開した。内部に収納されていた回転刃が顕になり、ツルカの首筋へ迫る。


「危険、排除」


 ミライの指先に内蔵されたコンパクトな魔導砲が放たれ、その光線がバルゴゾーンの頭部を貫いた。バルゴゾーンは勢いを失い、その場に倒れる。


「戦闘中の躊躇は、致命的な損害につながります」

「……うん。ありがとう、ミライちゃん」


 ツルカは倒れ伏す少女型のバルゴゾーンを見下ろした。

 人形たちに罪はない。だが、動きを止めなければ、ツルカやミライだけでなく、避難民や友軍が殺される。


「こんなこと、したくないのにな……」


 敵を破壊するたびに、人を殺しているような嫌悪が心へ蓄積していく。


「僕には、こうすることしかできない。ごめんね……!」


 感情を奥底へ押し込み、次の敵へ向き直る。

 ミライもまた、正確無比な攻撃でツルカを補助する。


「左脚部を破壊。今です」

「分かった……!」

「後方、砲撃準備を確認。正面の個体は私が処理しますので、そちらはお任せします」

「無理しないでね!」


 ミライの指先から放たれる光線は敵の急所だけを貫き、過剰な攻撃を一切行わない。敵の武装、脚部、コアを順に破壊し、着実に機能を停止させていく。


(ミライちゃん……すごく強い。同じ人形のはずなのに……。そういえば、最新機なんだっけ……)


 二人は幾つもの戦場を抜け、やがて時計塔によって分断された広場の反対側へ到達した。


「ここ……さっきの広場だ」


 ツルカは呼吸を整えながら、周囲へ視線を巡らせた。

 すでに、ジンたちの姿はない。

 石畳には数体のバルゴゾーンが倒れており、大剣で破壊された痕跡が残されている。


「この壊し方、ジンかな……」

「大型刃物による破壊痕です。もし、マスターの仲間の方ならば、状況を推測するに、交戦後、王城方面へ移動したのかもしれません」

「そっか。無事に倒したんだ……」


 ツルカはほっと息を吐き、胸をなで下ろした。


「よかった……。本当によかった」

「ですが、三名の生存を確定できる証拠はありません」

「ミライちゃん、そこは少しくらい安心させてよ」

「不確定情報を肯定することはできません」

「もう……でも、これだけ倒せたなら、きっと大丈夫だよ」


 ツルカはバルゴゾーンの残骸を横目に、小さく頷いた。


「ジンたちは強いもん。絶対に王城へ向かってる」

「では、追跡しましょう」

「うん。いこう」


 二人が走り出そうとした瞬間、ミライの顔が右側へ向いた。


「マスター、右翼より増援。数、二十」

「二十……?」


 やがて複数の足音が聞こえてくると、別のバルゴゾーンが街路全体を埋めていく。 


「もう……キリがないっ!」


 ツルカは肩を上下させながらも、再び拳を構えた。


「ミライちゃん。あと少しだけ、付き合って」

「どこまででも随伴します」

「ありがとう。じゃあ、いくよっ!」


 ツルカは脚へ力を集め、二十体の敵へ正面から踏み込んだ。

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