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嵐のような喧騒が去り、広場に再び平穏が戻った──と、思った直後のことだった。
「──────いったぁいっ!」
ツルカが頭を押さえて蹲った。ジンの渾身のゲンコツが脳天に直撃し、見事なまでのタンコブが浮き出る。
「ったく、お前って奴は……! 心臓がいくつあっても足りねえよ!」
ジンの額には脂汗が浮かんでおり、先ほどの隠蔽工作がいかに決死の覚悟であったかを物語っていた。黒い煤にまみれ、見事なアフロ頭が怒りでプルプルと震えている。
「ごめんなさい。でも、感覚でいけると思ったんだけどなぁ~……」
「町中であんなわけのわからん大爆発を起こす馬鹿がどこにいる!」
「ここにいまーす……」
「自覚があるならよろしいこった!」
ジンは乱暴に、ツルカのチリチリになった髪をぐりぐりと撫で回した。やがてジンは深くため息をつくと、真剣な眼差しでツルカを見下ろした。
「……だが、おかしな話だ。あれだけの大爆発を至近距離で食らって、なんで俺たち火傷一つ負ってねえんだ?」
「確かに……服と髪が焦げただけで、痛いところはないわね」
マリナが自分の腕や顔をさすりながら不思議そうに首を傾げる。
「それは……ツルカちゃんが無意識のうちに、爆発のエネルギーを相殺する障壁を張ってたんだと思う。あの瞬間、魔力が私たちを包み込んで……」
「つまり、自分から暴発させておきながら、自分たちだけは完璧に守り切ったってことか? そんな器用なことできるもんなのか」
「えぇ、そんなつもりなかったけど……うっ!?」
「……?」
不穏な空気が流れるが、ツルカの脳内ではとんでもない罵声が響いていた。
《──────ったくねぇ! 街中で魔力を暴発させるとか、何考えてるんですか、このクソガキ!? 私が障壁魔法を彼らに施さなければ、今頃塵になってますよ、はぁん!? 結局、頭の中はいつだってアホのまんまですか、はぁ!? いつまでたっても──────》
(ダメだ……。これはあと数十分続くタイプの説教だぁ……)
ツルカは涙目になりながら、アイナの叱責をあろうことか聞き流した。
「ま、まあいい。とりあえず助かったってことで」
ジンはツルカの顔の煤を手で拭いながら、呆れたようにため息をついた。
「寿命が縮んだ……。でも、あれだけの魔力の暴走をねじ伏せたってことだもんね。……ツルカちゃん、本当に底が見えない」
「ふふん、凄いでしょ!」
《─────聞いてんのかぁぁッ!?》
「ひぃぃ!?」
「ど、どうした?」
ジンがツルカの様態を確認していると、少し離れた場所からブツブツと呪文のようなものが聞こえてきた。
「──────焦熱の王よ、顕現せよ……うぅ、だめ、イメージが固まらない……。──────煉獄の炎にて……くそぅ、難しい……」
ナユは顔を真っ黒にしたまま地面に拙い魔法陣を描き、杖を握りしめて必死に詠唱を繰り返していた。
「ナユ、何してるの?」
「私も試しにやってるの! ツルカちゃんに負けてられない。私だって、いつか絶対『業火の祭壇』のちゃんとしたやつを使いこなしてみせるんだから! でも、全然詠めない!」
ナユはきっぱりとそう言って、おかしそうに笑った。
「僕も協力しようかな!」
「お前はそれを目指すな。また衛兵が飛んでくるぞ」
ジンが呆れ顔でツッコミを入れる傍ら、ナユは杖を振り回す。出るのは線香花火のような頼りない火花。それでも諦めず、ひたむきに詠唱を続ける姿は滑稽でありながら、どこか胸を打つものがあった。
そんな仲間たちの姿を見て、ツルカの中で一つの思いつきが閃いた。
「ねえ、みんな!」
ツルカは大きく手を叩いて注目を集める。
「せっかくだからさ、もっと本格的に身体動かさない? 僕とみんなで、模擬戦しようよ!」
「模擬戦? 三対一ってこと……?」
ジンが眉を上げ、どこか不気味な笑みをこぼした。
「ほう、悪くねえな。対人戦ってわけだな。お前の実力を肌で知っておくのも、今後の連携に役立つだろうし」
「でしょ? 素振りしてるより、実戦形式の方が楽しいはずだし!」
「お前な……。まあいい。やるなら場所を変えるぞ。ここでやったら、今度こそ衛兵にしょっぴかれちまう」
「ええ、ほんとにやるの!? またツルカちゃんが魔法暴発させたら、私たち今度こそ死なない?」
「大丈夫大丈夫、次はちゃんと手加減するから!」
「手加減の問題じゃない気がするんだけど!」
そんなマリナとナユの反論を無視して、ジンは顎で広場の奥を指し示した。
「この訓練所の最奥に、『闘技場』って呼ばれてる模擬戦専用のエリアがある。そこなら多少派手にやっても文句は言われねえはずだ」
「闘技場! いいね、燃えてきた!」
水場で軽く顔の煤を落とし、どうにか髪の爆発を落ち着かせた四人は、広場を抜けて、木立の中の小道を進んでいった。
到着した場所は、想像以上に立派な施設だった。
すり鉢状に掘り下げられた円形の舞台。周囲を石造りの観客席が取り囲み、中央の戦闘エリアは魔法による強化が施されているのか、損壊されにくくなっている。闘技場全体にも古い防護結界が張られているようで、余程の衝撃ではない限り、そう簡単には外へ漏れないようだ。
かつては公式な武闘大会なども行われていたのだろうか。所々風化してはいるが、その威容は未だ健在だった。
「うわぁー! すごーい! 広いっ!」
ツルカは舞台に飛び降りると、子どものようにはしゃいで走り回った。
「獣人の国ってのはかなり武道が盛んで、御前試合のために、こういう舞台は珍しくないんだってよ」
「へぇ、獣の人って戦い好きってこと?」
「間違いではないが……。自分の力を誇示したいってやつが多いんだな」
「にしても、運がいいね。誰も使ってねえみたい」
ジンたちも続いて、観客席から降りてくる。
「ここなら、思いっきり暴れられるね」
マリナが舞台の広さを確認しながら、試すように弦を弾いた。
「ツルカちゃん、暴発だけは勘弁だよ!」
「分かってるよ!」
「ふふん、ツルカちゃんに一発でも魔法を当ててみせる」
弱気だったナユも、珍しくやる気満々になっていた。
四人はフィールドの中央で対峙する。
ツルカ対、ジン・マリナ・ナユの三人。
圧倒的な戦力差があるように見えるが、ツルカにとってはこれが初めての対人戦闘だ。魔物相手とは勝手が違うだろう。
(流石にグレイみたいなことにはならないよね……)
といっても、少しツルカは心配らしい。
「ルールはどうする」
「簡単だよ! 僕を参らせたらみんなの勝ち。僕が君たち全員を行動不能にしたら、僕の勝ち!」
「行動不能って……」
「それに……」
ツルカが不敵に笑った刹那、すぐさまツルカは真剣な面持ちになる。
「……本気で来ていいよ。殺しちゃうかもってくらい!」
「……え?」
三人が絶句し、表情が曇る。
「殺すって……お前、正気か?」
「うん! だって、手加減されたら練習にならないし。それに──うん! とりあえず大丈夫!」
その心情は──────
(……まあ、何かあっても、アイナが何とかしてくれるもんね!)
《他力本願も大概にしろよこの野郎》
(ふへへ)
《そのまま負けちまえ》
脳内でのアイナのツッコミを華麗にスルーし、ツルカは構えを取る。
腰を落とし、両手をだらりと下げた自然体。だが、その全身からは、隙のない覇気が立ち昇り始めている。
「さあ、いつでもどうぞ!」
ツルカの挑発的な言葉に、ジンの表情が戦士のそれに切り替わった。
「……上等だ。舐めてると痛い目見るぞ、新人! 行くぞ、二人ともッ!」
ジンの号令と共に、模擬戦の火蓋が切って落とされた。
先手を取ったのはマリナだった。マリナは後方へと跳躍し、距離を取りながら三本の矢を同時につがえる。ツルカが付与した『魔法弓』の効果が起動し、矢じりに不可視の風の魔力が収束していく。
「風をイメージ……イメージ……はッ!」
放たれた矢は覚束ない風を纏って加速し、生き物のように不規則な軌道を描きながらツルカへと襲いかかる。一射目は右肩、二射目は左足、三射目は眉間と、多角な攻撃を仕掛ける。
「おっと!」
ツルカは首を傾け、眉間への一撃を躱す。残る二本に対しても、慌てる素振りすら見せずに避けていく。
(へへーん、どうだアイナ! 今の首の角度、芸術的だったでしょ?)
《……ただの余計な動作です。あとちょっとずれていたら、自慢のアホ毛が根本から切断されていましたよ》
(ひえっ!? 髪は命だよ!)
そんな隙だらけのツルカに、ナユの魔法が炸裂する。
「【大地よ、拘束せよ】! 『アース・バインド』!」
ツルカの足元の石畳が泥沼のように液状化し、足首を絡め取ろうと褐色の触手を伸ばす。
「うわわっ! 汚れるっ!」
ツルカは泥の触手を嫌がり、魔力で足場を作って空中へと跳躍した。
(危ない危ない! これ以上汚れてたまるかー!)
《戦闘中にくっそどうでもいいこと言わないでください。ほら、右、来ますよ》
アイナの冷徹な警告と同時に、死角からジンの刃が迫る。
「貰ったァッ!」
生まれ変わった大剣を振りかぶり、ジンが跳躍してツルカに肉薄する。空中での回避は不可能。重力に従って無様に落ちてくるツルカに、白銀の刃が迫る。
「きえぇぇ─────ッ!?」
ツルカは空中で奇声を上げながら、身体を無理やり捻った。剣先が鼻先数センチを通過する。風圧で前髪が煽られるほどの近接距離。
「避けられたッ……!?」
(ふぅー! 今の回避、スタイリッシュだったよね!? 『華麗なる蝶の舞』って名付けよう!)
《『無様な芋虫の身悶え』の間違いでは? 体幹がブレています。修正しなさい》
(辛辣ッ!)
ジンは着地と同時に剣を返し、追撃の横薙ぎを放つ。その連撃は流れるように滑らかで、迷いがない。
「速い……っ!」
ツルカはバク転で距離を取り、体勢を立て直した。
三人の連携は、予想以上に見事だった。
遠距離からの牽制、足止めの魔法、そして決定打となる近接攻撃。それぞれの役割をこなし、ツルカに息つく暇を与えない。
「へえ、やるじゃん。ちょっとビックリした!」
《何様ですか》
「まだまだ行くぞ!」
ジンが再び突っ込んでくる。今度は力任せの斬撃ではなく、フェイントを織り交ぜた変則的な剣撃だった。切っ先が蛇のようにうねり、ツルカの急所を狙ってくる。
(くぅー! 中々にハードだね)
《相手の剣筋をよく見なさい。重心移動に癖があります。……左足を踏み込んだ時、右脇が空きます》
(りょーかい。じゃあそこをチョップで……)
《手刀で仲間の骨を折る気ですか? どうせ手加減できないんですから軽く、デコピン程度にしなさい》
(注文が細かいよ!)
ツルカはジンの斬撃を紙一重で躱しながら、隙を見て指を弾こうとする。だがその瞬間、マリナの援護射撃がツルカの指先をかすめた。
「ちっ!」
ツルカが手を引っ込めると同時に、ナユの火球が追い討ちをかける。
「【燃え盛れ、源素! 数多の紅蓮の礫となりて、我が敵を穿て】! 『ファイア・バレット』!」
ナユの周りに出現した複数の小さな火球が、ツルカの退路を塞ぐように着弾し、爆風を巻き起こす。
「わ、わわっ! ちょ、熱いってば! せっかく水で洗ったのに、また焦げちゃうよ!」
ツルカは爆風の中を駆け抜けながら、またしても頬についた煤を拭う。
(もう、みんな本気すぎるよ! 死んじゃったらどうするの!)
《そうやって煽ったのはマスターでしょうが。自業自得です》
(そうだけどさぁ! 言葉の綾じゃん? もっとこう、手加減とか……愛とか……!)
《戦場に愛を求めるなと、何度言えば学習するのですかこの脳内お花畑は》
アイナの罵倒を受け流しつつ、ツルカは戦場を駆け回る。
一見すると防戦一方に見えるが、まだまだその動きには余裕があった。ツルカはまだ、攻撃らしい攻撃をしていない。ただ仲間の全力の攻撃を受け、いなし、その連携を楽しんでいるようだった。
その激しい攻防に、闘技場の外から何事かと冒険者などが集まり、観客席から釘付けになっていた。
最初は物珍しさから足を止めた者たちだったが、やがてその熱く燃えがる戦闘に目を奪われ、一人、また一人と観客が増えていく。
「おい、見ろよあの動き……。あの煤だらけのやつら、何者だ?」
「三対一であれだけ捌ける……のか? あいつって最近『青嵐の翼』に入った新人じゃないのか、たしか……」
「『暴食のツルカ』だ! しかも、あのバンパーを素手で倒したって言われてる!」
「そうだぜ。オレ、その一部始終みたんだ。ありゃ、やべえぞ」
「すっげえなそりゃ!」
「だったら、あの青嵐の翼もなかなかやるじゃねえか。そんなつよいヤツと、まともにやり合ってる。あの連携、まるで隙がねえ」
どよめきと歓声が広がっていく。訓練所に来ていた他の冒険者たちも噂を聞きつけ、闘技場へと集まり始めていた。
───戦闘開始から数十分。
全力で攻め続けていたジンたちの呼吸が、乱れ始めていた。
絶え間ない攻撃を繰り出しているにも関わらず、ツルカには未だ決定打を与えられていない。対するツルカは、汗一つかかず、涼しい顔でジンたちの攻撃を捌き続けていた。
「はぁ、はぁ……。あいつ、バケモンかよ……」
ジンが剣を杖にして肩で息をする。
「矢が……もう残り少ないよ……」
マリナも疲労の色を隠せない。指先の皮が擦り切れ、ひりひりとする。
「魔力切れ……しちゃう……」
ナユも魔力の過剰消費による頭痛が隠せずにいた。
対するツルカは、軽く準備運動をするように屈伸をしていた。
「んー、そろそろ反撃してもいいかなぁ?」
その言葉に、三人の背筋に悪寒が走った。
「来るぞ……! 総員、構えろ!」
「う、うん!」
ジンの号令で、三人が密集隊形をとる。ツルカはニコリと笑うと、右手を高らかに掲げた。
(アイナ! プランBで行くよ! 派手派手大作戦!)
《……さっきのような無茶苦茶な魔力出力は許可しません。威力設定は『最弱』。殺傷能力ゼロ。ただの光のボールです。いいですね》
(えー、ちょっとくらい痺れるやつとか混ぜない?)
《混ぜません。黙ってろ》
(は、はい)
ツルカの表情が萎れるが、流石に仲間に怪我をさせるわけにはいかない。
「いくよー! 命名します。その名も『ツルカちゃん特製・光の弾幕ごっこ』!」
ふざけた技名と共に、ツルカの背後の空間が歪み、無数の光球が出現した。攻撃魔法というよりは、純粋な魔力の塊だった。
だが、その数は尋常ではない。百、二百……いや、それ以上。視界を埋め尽くすほどの光の群れが、星空のように展開される。
「なっ……!?」
「嘘でしょぉぉぉ!」
デタラメな量に、ナユは思わず声を張り上げた。
「やっぱり普通じゃないぃぃぃ!? なに、あの魔力コントロール!?」
「いっくぞぉ!」
ツルカの掛け声と同時に、光球が一斉に射出される。それは雨霰のごとく三人に降り注いだ。
一つ一つの威力は、直撃しても痣ができる程度に抑えられている。かといって、あれほどの量を避けきれるかといえば、不可能だろう。
「ぐわっ!」
「きゃあっ!」
「ひぃぃぃ!」
三人は光の雨に打たれ、叫び散らしながら逃げ惑う。
「あははは! もっと踊ってー!」
ツルカは指揮棒を振るように指を動かすと、光球はツルカの意思に従い、生き物のように軌道を変え、三人を追い詰めては転ばせる。
《なんというか……蹂躙劇ですね……》
観客席から、どよめきと歓声が爆発する。
「なに、あの魔法! あんなの見たことないわ!」
「すげえ!」
「青嵐の翼も頑張れー! 負けんなー!」
いつしか、観衆たちは熱狂し、両者に惜しみない声援を送り始めていた。
「くそっ……! 遊ばれてたまるかよ!」
ジンが光の雨を強引に突破し、ツルカへと突進する。
「一発くらい……入れてやるッ!」
リーダーとしての意地、そして戦士としての闘志が、最後にジンを突き動した。残された全力を込められた大剣が、ツルカの頭上から振り下ろされる。ツルカは光球の操作を止め、ジンの剣を見据えた。
「いい熱気だね、ジン!」
ツルカは避けず、右手に光の力を収束させると、素手でジンの剣を受け止めた。ジンの渾身の一撃が、少女の華奢な掌一枚で完全に停止させられた。
「なッ……!?」
「でも、隙だらけ!」
ツルカは剣を掴んだまま、空いた左手でジンの脇腹を軽く小突くような動作をした。
「『おやすみパンチ』ぃぃ!」
《ネーミングセンスが絶望的すぎる》
突くような見た目からは想像もつかない衝撃波が発生し、ジンは巨槌で殴られたかのように後方へと弾き飛ばされた。
「─────がはっ!」
ジンが地面を転がり、マリナとナユの足元で停止する。三人はもはや立ち上がる力も残されていなかった。
「……まいった。……俺たちの、負けだぁ!」
ジンが天井を仰ぎながら、荒い息と共に降参を宣言した。しかし、その表情は清々しいほどの笑みで溢れていた。
降参を表明した瞬間、闘技場を包んでいた緊張感が解け、代わりに割れんばかりの拍手と歓声が爆発した。
「──────うおおおおおっ! すげえもん見たぞ!」
「ツルカってやつは本当に何者だ!?」
「三人もよく粘った! いい試合だったぞぉぉぉぉ!」
観客席の冒険者たちが、興奮冷めやらぬ様子で称賛を送る。ツルカはきょとんと周囲を見渡し、そして照れくさそうに頭を掻いた。
「えへへ……。なんか、盛り上がっちゃったね」
ツルカは倒れ伏す三人に駆け寄り、手を差し伸べた。
「大丈夫? やりすぎちゃったかな………」
「……大丈夫だ。手加減してくれたんだな」
「いやぁ……まあ、ね」
「それほど、お前は強いってことか……」
ジンが苦笑しながらツルカの手を取り、よろよろと立ち上がる。
「でも……楽しかった。こんなに熱くなったの、久しぶりかも」
マリナが汗を拭いながら、清々しい表情で微笑む。
「私も……! 魔法、もっと練習しなきゃって思った! 爆発は勘弁だけど!」
ナユも目を輝かせて、負けん気を見せた。
「ツルカ。俺たちは、お前とまず肩を並べることを目指さなきゃいけねえ。リーダーとして不甲斐ねえが、やっぱり強い」
「そうだね……。絶対、越えられない壁だよ」
「ぼ、僕なんか目標にしても……」
「いや、ダメだ。お前が過去にどんなヤツだったのかはともかく、ギルドに入ったばかりの新人に、いつまでも縋るような真似はしたくねえ」
「ツルカちゃんばかりに……頼れないよ」
「み、みんな……」
ツルカは少し申し訳なさそうに、視線を落とした。
「別に、ツルカの力を借りたくないわけじゃねえよ。俺たちだけでも、強いって思われるようになりたいだけだ。つまり!」
「い、いててて!」
ジンはツルカの頬を両手で引っ張り、満面の笑みを浮かべた。
「ツルカ。俺がリーダーだってのに、お前だけがギルド内で注目されるのは、まっぴらごめんだってことだ! 俺がリーダーなんだから、お れ が! 有名にならなきゃ意味がねえ」
「ふふっ、ジンったら」
ナユが嘆息混じりの笑みをこぼす。
「それもそう。ツルカちゃんばかり、有名になられちゃ困るね」
「だから、俺たち、もっと強くなるからな。いつか、お前に一泡吹かせてやる」
「……うん! 待ってるよ、リーダー……!」
夕日が差し込む闘技場の中、四人は互いの健闘を称え合った。
だが、歓声を上げる群衆の背後。石造りの柱の影に紛れ込むように佇む、一人の人影。周囲が興奮に顔を紅潮させ、声を張り上げる中、その人物だけは蝋細工で固めたかのように無表情のまま、ただ冷徹な眼差しで舞台のツルカを凝視し、記録していた。
やがて、その人物は誰に気取られることもなく踵を返し、夕闇が迫る影へと音もなく溶け込んでいった。まるで、最初からそこには誰も存在しなかったかのように。




