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全ては『ミライ』のために  作者: アベル
ギルド 編

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34/85

6

「では、冒険者となることを宣言いたしました、あなた様の情報をこちらに記入してください。冒険者カードの生成のために適性検査などもございますので────」


 受付嬢の丁寧な説明をあろうことか聞き流し、ツルカは言われるがままに紙へ情報を書き込んでいく。

 どうやら字の書き方はまだ覚えているらしい。


「ふむふむ……」


 受付嬢がツルカの情報に目を通していく。そこに書かれていたのは。


【出身地:不明】

【年齢:たぶん十四か十五】

【職業:魔法使い……だった気がする】

【保護者:アイナ? わからん】

【所持金:ゼロ】


 しばらく受付嬢は、梅干しをそのままかじったような、何とも言えない表情をしていたが、一人で頷きながら納得した素振りを見せる。


「はい! 確認致しました。次なのですが─────」


 受付嬢はいきなりしゃがみ込み、足元からあるものを抱えてカウンターにどんと置く。水晶玉がはめ込まれた台座のような、なにやら不思議な道具だった。


「冒険者カードの制作のために適性検査を行います。こちら、魔力により稼働する魔法道具なのですが、真ん中の水晶に手をかざしてもらうと、自分の能力が可視化されて、それに応じたランクで冒険者カードが生成されます。才能が無い限りほとんどCランク冒険者から始まるのですが、たま~にBランクといった高ランクから冒険者を始められる人もいます!」


 初めて冒険者をする全員が、最低ランクのCから始まるわけではない。潜在能力の高い者が冒険者になると、高ランク帯から始めることが可能だ。

 所詮、稟賦に恵まれているかでほぼ決まるが、ギルド側としても才能ある新人は、最初から優遇したいという実利的な思惑があるのだろう。


「魔法道具……か……。僕の記憶にある魔法道具とは似ても似つかないなぁ……」


 ツルカの脳裏に、地下洞窟で対峙したあの無骨な巨兵の姿がよぎった。

 今思えば、あれは何だったのか。


「えっと、とりあえずこの装置が僕の潜在能力とかを測定してくれるんだよね? それで登録の手続きってのはおしまい?」

「はい。とってもスムーズでしょう?」


 思ったより手続きが簡素で、ツルカは内心ほっとした、その時だった。


「おい、どけよガキ」


 割り込むようにして、強面でいかにも屈強そうな男が受付カウンターに陣取った。


「申し訳ございません、冒険者の方。今はこちらの方の対応中ですので、恐れ入りますが他の受付か、順番をお待ちいただけますでしょうか」


 優しく微笑みながらも、受付嬢は男と冷静に対応する。


「あァ? どうせそいつも、冒険者ごっこがしたいだけのバカだろ。こんなチビッコが生きていけるかよ。小遣いが足りねえからって命張る場所に来るんじゃねえ。Bランク冒険者の俺様が忠告してやる。とっとと家に帰ってミルクでも飲んでな」

「ちょっと、失礼ですよ!」


 苦言を呈されるような男の発言に、ツルカは表情を曇らせていた。揶揄され気が滅入ってしまった──わけではなく、ただ男のズボンのチャックが開いていて目の行き場に困っていた。


(この人……露出狂なのかな?)


 あまりにも堂々とした股間の解放っぷりに、ツルカはどこに視線をやればいいか分からず、男の言葉など何一つ頭に入ってこなかった。

 ひとまず手続きを早く済ませようと、ツルカは男を完全に無視して魔道具へ手をかざす。

 結局のところ男も、どんな結果が出るのかと興味半分に腕を組んで見ている。


《────お待ち下さい、マスター! 今すぐ手を!》


 突然、ツルカの脳内に焦り散らしたアイナの声が大きく響き渡った。


「───なっ、ええ⁉」


 ツルカが装置に手をかざした瞬間、装置は異様な雑音を生じながら短絡する。


『ピギギギッ……警告。測定限界ヲ超過。爆発的ナ魔力反応。解析不能。解析フノ……ガガッ……』


 水晶が激しく明滅し、バチッと短い放電音と共に、台座から黒煙が立ち上った。


「あ、あれ……壊れちゃった……?」

《だから待ってほしいっていったのに……》


 ツルカが人差し指で頬をかきながらとぼけていると、アイナの呆れ果てた声が響く。


《……マスターの能力を装置が感知し、耐え切れなくなって故障……。もう、何を考えているのですか。マスター、自分のお力をお忘れではないですよね?》

(え、ええ? あ、そ、そっか! 僕は、普通にやっちゃ……)


 自分の能力に関してはツルカもしっかりと把握しているつもりだ。装置が損壊してしまう事から、ツルカはそれほどの能力を持つ事が示唆されるが、これを周りが鵜呑みにするほど軽いことではない。

 ツルカがようやく事の重大さに気づいたその時、受付嬢が震えながら口を開く。

 なんせ測定装置を破壊させるほどの力は────


「え……Sランク以上の力をお持ちなんですか……⁉」


 その言葉に、ギルド中が水を打ったように静まり返る。

 Sランクとは、国家を傾けるほどの魔物と単独で渡り合うほどの存在。そんな規格外以上の力が、目の前の華奢な少女に宿っているなど、誰もが信じられずに固唾を飲んだ。


「ち、違います、違います。きっとこれ、古かったから故障したの。見てくださいよ、僕、どう見てもただの非力な少女ですよ。こんな僕に装置を壊すほどの力があるわけないじゃないですか~ら、だから、もう一回……もう一回だけ、新しい装置を用意して測定させてっ! お願いぃぃぃぃッ!」


 咄嗟にツルカは表情を変えて、受付嬢に弁解する。

 ツルカの言い分は正直、誰もが納得のいくものだ。こんなにも花を眺めて優雅に暮らしていそうな少女が、そんな力を秘めているなど、にわかに信じられない。

 ツルカの真摯な眼差しに受付嬢もきっとそうだと言わんばかりに、新たに測定装置を抱えてこちらへ運んできた。


「で、ではもう一度測定致しましょう。あ、これ、最近取り寄せた新品なんで……次は本当に故障とか……ないんで、はい」

「わ、分かったよう……」


 肩肘張るようなピリッとした空気の中、ツルカは再度、装置へとゆっくり手を伸ばす。


《マスターの力を測定機なんかに通したら、ぶっ壊れるに決まってるじゃないですか。アイナがこの魔法道具の術式に介入し、測定結果を『Cランク相当』に偽装します。マスターは何も考えず、もう一度ゆっくりと手をかざしてください》

(う、うん……ごめんね)


 装置は先ほどと違って異常を来すことなく稼働し、微量の光をツルカの平手に放ちながら無事に測定を終えた。

 直に装置から半透明のパネルが小さく浮かび上がり、測定結果の委細を提示する。それを確認した受付嬢は、心底ほっとしたように胸をなでおろした。


「ふぅ……どうやら本当に故障だったみたいですね。能力の数値的に、ランクはC。妥当な結果ですっ! あは~っ」

「弱いほうが安心するってか⁉」


 最底辺の測定結果に狂喜する受付嬢に、ツルカは青筋を立てながらカウンターを叩きつけた。


《とりあえず測定結果を偽造できました。今回は簡易測定器だから介入できましたが、本格的な王都級の審査装置では、同じことはできないかもしれません》

(あ、ありがとう……)

《あとは、Cランク冒険者としてカードが作られると思うので、普通にクエストを受けるだけです》

(う、うん)


 すると、装置の下部から一枚のカードが排出された。先ほどツルカが記入した個人情報を元に名前などが打ち込まれている。


「ではカードをお受け取りください。そちらがあなたの冒険者カードとなります!」

「へ、へえ。こんな一枚のカードが────うわっ⁉」


 ツルカがカードを手に取って色々と確認していると、いきなりカードからパネルが浮かび上がった。魔力によって稼働する、空中操作画面である。


「な、なんだこれ……」

「カードについて簡単にご説明しますね。それは身分証であると同時に、クエストの受託や管理ができる、いわば『魔法道具』です! ご覧のようにカードの裏側にある印に指を数秒かざしてもらうと、そのようなパネルがカードから浮かび上がります」

「なるほど……。確かに色々と項目がある……。『受託済みクエスト』、『達成済みクエスト』、『ギルド』、『戦友』……ふむ」

「クエストを受ける時の、簡単な説明をしますね。看板に張り出されている張り紙に、このような符号があると思います。例で言えば……こちらですね」


 受付嬢は独特で特徴的な符号が記された、一枚の張り紙をツルカに見せつける。


「クエストを受ける際は、掲示板から張り紙を持ってきてください。ここで我々の認証カードで、張り紙とお客様のカードをかざせば受託完了です。そうすると、今出ているパネルにクエストの詳細が自動で送られますよ」

「えっと……ひとまずクエストを受ける時は張り紙を持ってくればいいんですね?」

「はい。私たちが認証すれば、クエストは受注できます。戦友との協力など、複数人でクエストを受ける場合はしっかり全員の冒険者カードも必要になりますので、そこはご注意ください」 


 あまりにも高性能な冒険者カードに、ツルカは感心しきりだった。

 そういえば、アイナが洞窟の地図を作成してくれたときも、このようなものがあったのを思い出した。


「おら、説明はもう終わったろガキ」

「……うん?」


 背後から、男の太い声が聞こえた。先ほどからツルカを待っている男である。

 あれだけ偉そうにしていた割に、ツルカの手続きが終わるまで順番を待っていたらしい。


「ああ、すいません! お待たせしましたね……」


 早速、ツルカはクエストコーナーにでも行ってどんな依頼があるか一目しようと思ったが、ふと男が持っている一枚の紙に目を留めた。


「あ? なんだガキ。言った通り、こっちは急いでるんだ。終わったんなら、さっさとどきやがれ。おい、聞いてんのか」


 どうやら男が手に持っている紙は、クエストコーナーにあった張り紙のようだ。


(難易度B。『イワトカゲ』の討伐依頼。報酬は─────)


 奮起にかられたツルカは男が持っている紙をビシッと指さすと、受付嬢に向かって宣言した。


「これ! 僕もやるっ、やらせろっ!」

「「……は?」」


 ツルカの発言に、二人は言葉を失った。

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