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「よっし、アイナ。ご飯だっ。まずはご飯屋を探して、そこから仕事見つけて、まずは普通の生活を満喫するよっ!」
《はいはい。もう勝手にしてくださいな。とりあえず町を周って、お腹を満たせる場所を探しましょう》
初めて玩具を買ってもらった無邪気な幼児のように、早速ツルカは町を散策する。
馬車や多くの住民が往来する広小路には、出店が無数に並んでおり、一体何から目をつけていけばいいか迷ってしまう。
「くぅー! グランドシオルにはおいしそうなものがたくさんだね! そんでもって、みーんな仲良さそうにお話してる!」
《……マスター。友達、いませんもんね》
「ま、住めば都かー。早く馴染んでいかないと。あと、黙れ!」
悠長に町中を歩いていると、砂糖が焦げる甘い香りに鼻腔をくすぐられ、ツルカは吸い寄せられるように一つの出店の前で足を止めた。
色とりどりの砂糖菓子が並ぶ、スイーツ専門店のようだ。
花より団子に見えて……やはり年頃の少女らしく甘いものは好きなようで、ツルカは唇に人差し指を当てながら、物欲しそうに菓子を眺めていた。
「うへぇ……う、うまそうだなぁ」
はしたない視線を菓子に向けていたツルカに、露骨に困惑した表情で、犬耳が立派にそり立つ女性が近寄る。
「あ、あの~」
「うひひぃ……」
「あの~、可愛らしい……そこのお嬢さん?」
「……はっ⁉ は、はい!」
ツルカは声を裏返し、背筋をピンと伸ばす。
どうやら、菓子店を経営している店主のようだ。
「お菓子、お好きなんですか?」
「もちろんっ! あ……ゴホン。ええ、とてもお好きですよ。こちらのおかし……? が、見入ってしまうほどに美味しそうでつい」
突然のことでツルカは妙に改まってしまうが、店主はそんな様子も気にも留めずクッキーを三枚小袋に入れると、晴れやかな笑顔でツルカに差し出した。
「こ、これは?」
「もしよければ、食べていってください。遠慮しなくてよいので。気に入ったら、今度買いに来てくださいね」
「───ホントですか⁉」
ツルカはクッキーを受け取り、深く頭を下げた。
「まっさか、おかしくれるなんて! 地上の人って親切だなぁ……んぐっ、美味しい~!」
たった三枚のクッキーを幸せそうに頬張り、ツルカはとろけそうな顔で頬を押さえた。
地下での日々を思えば、この優しさも味も別世界のものだ。
「そがっつりご飯を食べられる場所は……。ええと、なにか、なにか目立つ建物は……お?」
辺りを見渡していたところ、ツルカの視界に一際目立つ建物が目に入る。建物には大きな看板が掲げられており、粗雑に繋げて書いたかのような子どもの字が彫られているが、それでもれっきとしたグランドシオルの文字だ。
《どうやら、大きな酒場のようですね。ご飯もここで食べられるんじゃないですか?》
「ならここにしよう!」
早速、ツルカは酒場に足を踏み入れてみる。
「す、すいませんー」
「まあ、可愛らしいお嬢さん。どうされましたか」
ツルカを出迎えたのは、明るい笑顔を浮かべた若い人間の女性だった。
「たらふくご飯を食べたいんですっ!」
「あ、お客様でしたか。はい、いらっしゃいませ! どうぞ、こちらのお席へ」
店員の女性はツルカの勢いに臆することなく笑顔で席に案内し、一枚の紙を手渡した。
どうやら、これが料理の一覧表らしい。
「お決まりでしたら、またお申し付け下さいね」
そう言って女性は持ち場へと戻っていく。
「いやぁ、アイナ。もう、僕ここで生きていきたいんだけど、どう?」
《バカ言うのも大概にしとけよ》
「え、いきなりこわ」
《大体、ここが世界の全てじゃありませんよ。もっと凄い国や町もあるんですから。旅に出て見聞を広めるほうが、よほどマスターのためになりますけど》
「そ、それはそうだけど……。ひとまず、何か頼もうかな……? ええと……これとか……これと……か……うん?」
ツルカは頬を引きつらせて、不満そうに頭をかく。
「ねえ、アイナさん? この、美味しそうな絵の横に書いてある『銅貨』とか『銀貨』っていうのは……何かの点数?」
《……ふっ。……いえ、失礼》
この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類に分類され、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚の価値となる。
《それはね、小娘。ご飯を食べる際に必要な対価ですよ》
「あの、アイナさん?」
ツルカはしらばっくれるかのように首をかしげる。つま先を何度も地面にぶつけて、落ち着きが全くない。
「ちょ、なにを……言っているんですか」
《何って、お金ですよ、お金。そりゃご飯食べるためにはお金はいるでしょう。まあ、こうなることを分かっていて黙っていたんですけどねっ。ふふっ……ふふふっ》
その時、ツルカは確約されていたはずの幸せな時間に蓋を閉じられたような気がした。
「……お、おおお、金なんて持ってないよおぉぉぉぉぉ────ッ!」
ツルカは腹の底から絞り出すような絶叫を昼下がりの酒場に響かせた。




