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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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コメディの温もり

 コメディによってある程度、重苦しい心持を軽減すると、彼らは本題に取り掛かることとした。わざわざ危険を冒してまで福音機関に来た目的を果たす時がついに来たのである。と言っても、直接的にこの場所に関わるのは秋等だけであり、薊と伊野は必要性の他に居るのであるが。しかし、何はともあれようやく秋等は自らのすべき仕事に取り掛かれるし、興味本位でついてきたと誤魔化した彼もまた自分の目的を叶えられるのである。

 紅潮していた顔もすっかり収まり。普段通りの余裕を取り戻した伊野は、場を仕切り直すように拍手を一回して見せた。この音に従って、下らない言い争いをしていた二人は湧き出る言葉を収め、伊野の方を見た。二人の表情はすっかり解れており、伊野は心を撫でおろした。


「それじゃあ、秋等君。君の望む場所に行こうか」


「ええ、分かったわ。いつまでも不毛な争いをしていても仕方が無いしね」


「分かってるのなら、ことさら早く行こう。最悪、あいつらとばったり出くわすことになっちゃうかもしれないし。もしそうなったら、面倒くさいことがよりこじれちゃう」


 最悪の事態を想起した結果、伊野の口から漏れ出た言葉は二人の想像力に働きかけた。しかしながら、伊野の言葉を深く信じている薊は、伊野の言うような事態に自分たちが陥ることは無いと確信していた。何せ、自分たちは不戦条約を結んでいるのだから。そして、この条約は大いなる敵対者であり、自分たちが絶対に妥当しなければならない新庄の高潔なプライドが担保しており、そのプライドも伊野が担保している。この事実に彼は全幅の信頼を寄せているのである。したがって、彼は現状において伊野よりも楽観的な姿勢であった。

 ただし、薊とは異なり、秋等は敵対者と出会ったら酷く面倒なことになるだろうと考えていた。これは自分の目のこともあるし、仲間である彼らにもまだ話していない事情が関わってくるからである。もっとも、この面倒くさい事態を引き起こすこととなる人物は新庄ただ一人であり、その他の聖使徒と出くわしても深刻な問題をもたらすことは無いとも秋等は考えていた。

 未来を憂う者二人と、楽観的な一人とで今の自分たちが被る被害の想定が異なっているが、これはかねてより伊野が危惧している認知の誤差が生み出す問題の対象外となっていた。これは単に伊野も、彼と同様に新庄を信頼しているためである。しかし、この前提から行けば伊野は彼と同様に楽観的な立場とも言えるだろう。だが、伊野は悲観的な立場を秋等と同様に取っている。このような伊野の取る立場の根拠は、秋等と逆の理由にあった。つまり、伊野は新庄であれば問題は生じないが、新庄以外の敵対者と出くわした場合、暴力的な事件が生じるか心理的な駆け引きが生じると考えていたのである。したがって、伊野は悲観的な立場を取っているのだ。


「まっ、その時はその時ですよ。それに俺たちの安全は、悔しいことですけどあのクソ野郎に保障されてるんですから、そう慄くことは無いですよ。野郎の手下も同じで、俺たちに手を出さねえと思いますし」


 しかし、伊野が悲観する理由を知らない薊は、伊野の心配していることを極めて楽観的に捉えている文言を軽い口ぶりで紡いだ。これに伊野は呆れたように溜息を漏らした。そして、彼は伊野の応対にぎょっとした。

「楽観的に考えすぎだぜ。それに薊、朝言ったこと忘れてないだろう? あいつらだって一枚岩じゃないんだよ。雅人だって、杏璃ちゃんだってそれぞれ別の思考を持ってるはずだ。だから、あいつの約束はあいつにだけ適合されてるって思った方が良いぜ。何事も過信は良くないよ。それに、もしも新庄以外を見つけたならその瞬間、そいつは殺した方が良い。そうすれば僕らの壮大な計画は、計画で終わるんだから」


 楽観的な視点を持つ薊に、伊野は強い口調で警鐘を鳴らした。聞き分けの良い彼は、伊野の言葉にハッとさせられたが、この影響が彼の楽観的な視線を根本から叩き直すことは無かった。それは朝の出来事を知らないためである。もっとも、この点に関しては伊野の過失である。

 しかし、根本的に楽観的な態度が解消されなくとも、改善することは出来た。短絡的で安易な改善でしかないが、薊は他の敵対者たちが新庄の言葉によって約束された不戦を破ってくるであろうと、一応の懸念を胸に抱き、殺しを許されている自分たちの立場を再認識した。


「そうですね……」


 いつになく重い伊野の言葉に委縮し、自分の甘さを再認識した薊は薄っすらとした声色で言葉を紡いだ。


「納得してくれたなら良いよ。ああ、でも、一つだけ注意しておくよ」


「なんです?」


 明るく頼れるいつもの伊野の口調に戻ったと思ったら、次の瞬間には再び重苦しい言葉を紡いだ伊野に薊は恐る恐る問いかけた。


「新庄にだけは手を出しちゃ駄目だ。君の魔法が覚醒したと言っても、あいつに勝つことは不可能だ。なんたって、あの黄金の賢人ですら首を取れなかった相手なんだからさ」


ご覧いただきありがとうございます。

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