上昇
極めて短いです。
ごめんなさい。
伊野は悪態をつきはしたが、その一方で偏った金によって生まれた権力によって自分がここに居られることを知っていたため、大儀そうに誰よりも先にエレベータに乗り込んだ。そして、伊野の背中を追って薊も秋等もあまりにも大きいエレベータに乗り込んだ。
真っ白な空間の境界線を最後に乗り込んだ薊が超えると、エレベータは真っ黒な空間に包まれた。どうやら、この白い鉄塔内の装飾は二極化しており、ちょうどいい生活様式というのは存在していないらしい。もっとも、いわゆるオフィス的な空間で居住する人間などいないため、極端な白黒の世界でも良いのだろう。しかしながら、もしもここで自分が働く立場となったら、精神に異常をきたしそうだと薊は感じ取った。彼にとって、いや人間にとってあまりにも極端な風景は情動を狂わせ、物事に対する関心が薄まるのだから。
「乗ったかい? それじゃあ、福音機関までよろしく頼むよ。エレベータ君」
空間の変容に対する薊の動揺を捉えなかった伊野は、どこに光源があるのか分からない天井に向けて独り言を放った。傍から見れば、何もない空に語りかける痛々しい女子高生に見えなくもないが、現実が言葉に従えばそのような印象は百八十度好転するモノである。
伊野の言葉を受けた黒い空間は、何かと何かが極めて低い低効率で擦れる音を鳴らしながら上昇していった。ただし、上昇といってもあの重力による不快感は覚えなかった。極めて快適で、自ら上昇を知覚しなければ、自分たちが上に向かっているということを自認できない。そして、何よりも驚くべきことは上昇を始めてから、モノの十数秒で目的地である福音機関にたどり着き、再び黒い空間との境界線が現れたことである。
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