表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

925/1367

秘密の場所

申し訳ございません。

12月中は更新が私用により滞ります。

 足を踏み入れることにためらいを覚えるほど真っ白な空間であったが、三人は何のためらいもなく足を踏み入れた。伊野にしてみれば常々来ているところであるし、薊と秋等にしてみれば地下施設と何ら変わらない施設であったため、特別な視点を空間に対して持つことは無かったのである。したがって、三人は開かれた扉より、堂々と福音機関の入る白い塔に入り、その扉が閉まるまで鉄塔の入口に待機していた。

 重々しい音と共に扉はぴしゃりと締まり、一切の外気は三人の居る空間に触れることは許されなかった。この三人に許される空気は、空調によって快適な温度と湿度に替えられた人工的な空気だけである。この一時を考えれば、あまりにも人工的な密閉された空間は心地良いモノであった。しかし、長い時と人間の動物的側面を考えれば、これは極めて悪影響をもたらすモノである。何せ、三人に触れることの出来る唯一の自然はすっかり遮断されてしまったのだから。そして、この影響を感受性の高い薊はすぐさま受けて、ただでさえ重い心持はさらに重みを増してしまった。もっとも、どうでも良いと割り切れないことも無い情動であるのだが。

 言語化する意味もない息苦しさに苛まれる薊は、挙動不審にきょろきょろと周囲を見回した。そこはかつて彼らが潜入した第十三研究所のような円筒状の構造をしており、周囲の壁には今さっき自分たちが入ってきた扉を小さくさせたような構造が十数個刻まれていた。また、天井は極めて高く、どこまでも続いているように思えた。しかし、彼の認知した天を穿つような高い天井というは、あまりにも白い景色が見せる錯覚でしかない。つまるところ真っ白な世界においては、物と物との境界線を認知することが極めて難しいのだ。したがって、物体と物体との認知が白色によって阻害される空間に置いて彼のような錯覚に陥ることは仕方がないことである。

 錯覚に騙されて、延々と続くように見える天井をジッと眺める薊の姿は、未だに二人が抱えている鉛のような感情を軽減させた。先ほどまでは触れたら壊れてしまいそうなガラス繊維の如き儚さを纏っていたのにもかかわらず、今の彼は極めてあどけない表情を浮かべている。宙を舞う蝶やトンボを目で追いかける少年のような純朴な面立ちは、二人の心を癒したのである。

 いつまでも見つめていたいと思える子供らしい薊であったが、彼から幻影から覚め、再び大人の世界に戻ってくることは自然の法則であった。そして、この自然の法則を発動させるのは、いつも個人を傍観する他人である。彼の状況に当てはめれば伊野と秋等であり、二人に見つめられていることに対して抱く恥が彼を現実に引き戻すトリガーとなったのである。

 現実に再起した薊は、顔を上気させると二人から顔を逸らした。耳も微かに赤くなっていることから、顔を逸らした程度で自らの感情が隠せるわけではないにもかかわらず、無理やり自らの感情を隠そうとする彼の行動は相変わらず愛らしい一面があった。しかし、この一面は終わりの始まりである。ことを弁えている彼は恥じらいを胸の奥にしまい込んで、乱高下する感情を抑えた平生の表情を二人に向けた。そこにはあどけなさは無く、自らの感情を押し殺す大人の姿があった。

 落ち着いた薊の雰囲気に、二人は物悲しい気分を覚える。しかし、当事者である彼が感情を押し殺しているのだから、自分たちも我が儘を言っていられる立場にはいない。したがって、二人もまた全身に緊張を張った。互いに一致した緊張感を持ったことを確認した伊野は、寂しげな笑みを浮かべると、踵を返して二人に背を向けた。


「それじゃあ、行こうかな。僕らの福音機関にさ」


「こんな真っ白な場所に居たら頭がおかしくなっちゃうわ。だから、早いこと福音機関に行きましょう。少なくともここよりはマシなんだろうし」


「ああ、こんな悪趣味な空間よりもよっぽど心地が良いよ。まっ、あそこも滅茶苦茶事務的な空気が漂ってるから居心地が良いとは言えないんだけどね」


 軽口を交わし合いながら、伊野の背中を秋等は追いかけた。

 二人に置いて行かれそうになった薊は、足早に二人の背中を追いかけ、彼らが入ってきた入り口から見て東側の扉の前に向かった。とはいえ、等間隔に機械的につけられた深い溝を扉というには、はばかられたし、実際彼の目にはそれが扉とは思えなかった。しかし、先達である伊野が溝の前に立っていることからそこが福音機関の入り口であることは察せられた。


「バビロンよりシオン」


 そして、伊野は妙な合言葉を告げると、先ほどの扉のように、溝は左右に徐々に広がって行き、数十人が入ることが出来るであろう小さな黒い部屋が現れた。


「さあ、ここが福音機関の入口だよ。この阿保みたいにデカいエレベータ、無駄に仰々しい施設だよ。こんな場所に金をかけるんだったら、僕らの給付金を増やせばいいのに。やっぱり、役人って言うのは見栄を張って生きてるんだろうね」


 しかし、入り口たるエレベータを前して、伊野は悪態をついた。



ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ