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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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侮られて

 本来は学校がある時間なのにもかかわらず、来訪してきた聖使徒とその連れ二人に対し、白い大きな板の中心に一本の線が入っただけの扉の前に立つ二人の屈強な保安官は睨みを利かせてきた。しかしながら、いくつもの修羅場をくぐってきた三人に、直接的な行動に出ない男の脅しは一切効かなかった。むしろ、三人は明確な敵意を自分たちに向けてきていることに感謝すら覚えていた。何せ、あまりにも如実に表れる敵意は謀略を妨げるのだから。

 したがって、暗い心持である三人はその自分よがりの思考に陥っているとは思えないほど、堂々とした態度で二人の保安官に相対することが出来た。ことに先頭に立ち、自分の顔を隠し通してきた伊野はこの瞬間だけ、その背中を精神的に大きくし、毅然とした姿勢で扉を臨んだ。


「通してくれるかな?」


 態度をそのまま声音に生かすように、伊野は一切の冗談を含まず凛とした声を紡いだ。しかし、この伊野の堂々たる声を二人の保安官は鼻で笑った。およそ、二人の保安官の目にはか弱い女子高校生が虚勢を張っているようにしか見えなかったのであろう。このため、屈強な男は浅黒い肌によく似合う、いわば劇中で最も早く殺される人間の侮りの笑みを浮かべたのである。

 ただし、この保安官たちは幸運であった。それは三人の少年少女は、人殺しという手段を極めて残虐な行為と自認しており、他人の生存権を否定する最悪の行為であると自認しているためである。もっとも、世界のために必要な殺人は肯定するという歪な認識も持ち合わせているのだが。このため笑われた伊野は、暴力的な手段を行使せず、そして魔術を使うのも個人的に癪に障るので、二人の保安官をジッと見つめた。

 侮られたのにも変わらず感情的にならず、そして睨みつけられたのにもかかわらず物怖じせずに毅然とした態度を取り続ける伊野に、二人の保安官はピシっと緊張を覚えた。また、この緊張と同時に保安官たちは伊野が聖使徒の一人であることを認識したらしく、それまで見せていた態度を改め、背筋をビシッと伸ばし、権力の前に従う人間の様相を呈し始めた。保安官たち著しい態度の変化に、伊野は微笑を漏らした。


「それで通してくれるかな?」


「コードをお願いします」


「ああ、そんなめんどくさいシステムあったね。これ一々する必要あるのかい? 正直、意味ないと思うんだけど。まっ、システム上仕方ないことだから従うけどさ」


 自分よりも頭二つも高い相手に対して臆せず言葉を交わし合う伊野の背中を見つめる二人は、尊敬の念を抱くと同時に、自分の目の前に居る先輩がこの都市の看板であることを改めて認知した。自分たちでは取り得ない堂々とした態度、二人はそこに自らが権力と責任を持ち合わせる存在だと認知したのである。そして、権力が宿るIDパスを伊野は、恭しい態度を取る保安官に手渡した。この光景に二人は公的な権力は、全ての立場を変えてしまうという世知辛い現実を投影した。例え年下だとしても、へりくだって従属しなければならない現実は二人の目に醜く映った。

 ただし、二人はこの権力のために今の自分たちがあることを理解していた。同時に伊野がかざしている権力は、伊野の個人的な努力によって担保された清廉潔白な権力であることも理解していた。このため、二人は目の前にある権力を醜く思おうとも、その醜さは持たざる者の羨望によって歪められた認識でしかないことを理解した。所詮は得られなかった者たちの嫉妬でしかないのである。


「合言葉を」


「ヴァーチェ」


「ありがとうございます。では、こちらに進んでください」


 権力による合意が得られたことにより、固く閉ざされた白い一枚板は重々しく左右に開かれた。どんよりとした雲に覆われた湿気に満ちた外とは異なり、均一な湿度に保たれ、一切の汚れが付着していない真っ白な壁と床に覆われた空間がそこにはあった。その風景はさながらSF映画の宇宙船のような雰囲気が漂っていた。

 だがしかし、三人はこのような光景を見続けてきた。散々潜り続けてきたこの都市の地下研究所は、有機的な要素をすべて廃棄したように作られており、その光景に対して三人は嫌悪感を示していた。また、伊野に関しては様々な実験を受けてきた経歴があるため、ことさらこの風景に嫌悪感を覚えたのである。


「ところで、後ろの二人はお連れですか?」


 嫌悪に眉をしかめる伊野に対して、扉の左側に立っていた保安官は礼儀正しい口調と声音で二人の所在を尋ねた。


「ああ、うん、そうだよ。僕の友達で、僕が福音機関に招待した特別な人たちだよ。ぜひぜひ、丁重に扱ってくれたまえ。それと僕の公権がこいつらの存在を保証するから、君たちは干渉しないでくれたまえ」


 伊野はにこりと怖い笑みを保安官に向けた。これに慄いた保安官は、口を一文字に閉じると後方に控える薊たちに一礼した。


ご覧いただきありがとうございます。

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