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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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その結果、悪影響

 哀愁漂う声音で紡がれた伊野の言葉を、二人は追究する気にはなれなかった。というよりも、追求せずとも、伊野がどうして憂いを帯びた声音で、非常に接し辛いことを語るのか、この問いに対しる解答を二人の脳は咄嗟に弾き出した。無意識下において、二人の脳は過去の記憶と結びついて、伊野の言葉が意味することを悟ったのである。このため、そのあまりにも同情を誘う伊野の現状のために、二人は言葉を紡ぐことなく、まるで伊野の言葉が聞こえていなかったかのようにわざとらしい振る舞いをするのである。例え、自らの行為が魔術によって無効化されることを知っていたとしても、二人は自らの考えに忠実に従うのである。

 二人が同情から言葉を発さないことを、二人がその意味を悟った瞬間に悟っていた伊野は、微妙な空気になってしまったことに右頬を人差し指をぽりぽりと掻いた。いわゆる罪悪感というべき産まれなくてもよい感情が、伊野の胸中に溢れだした。もちろん、伊野は自らの胸に生じた青い感情が不要なモノであることを知っていた。こんな感情は自分が自分のことを悪戯に擁護するするための材料でしかなく、本当に二人のことを想うならば生ずることのない極めて独占的なモノであることを伊野は自覚していたのである。

 しかし、伊野は自らの感情を自覚していようとも、自らの弱さをついつい吐露してしまうのである。それは一種の甘えから来るモノであろう。普段は頼られてばかりいる自分に、社会的特権を理由に無条件で感情的な柱とされいる自分に伊野は疲れたのである。そして、その疲弊してしまった心を何とか癒すために、伊野は二人に剥き出しの感情を露わにした。という風に、伊野は自らの言動を分析した

 自分自身を分析した結果に、伊野は特別な負の感情を抱くことは無かった。むしろ、伊野は自らが薊に伝えたような言動が出来て、若干清々しい心持となった。弱さをさらした結果が、冷たい二人による無視であったとしても、伊野の停滞した心持は、微かながらに流動性を取り戻した。もっとも、流動性を取り戻したところで、伊野が二人に対して与えた悪影響が消え去ることは無い。その上、この禍根を残してしまった感情の吐露という行為が、最も素直になって欲しい彼にとってのトラウマとなり得る結果を作ってしまった。感情的に動きすぎてしまった末路と考えれば、順当なモノであり、伊野は自らの感情的な行動を省みた。

 しかし、やってしまったことは仕方がない。このため、取り返しのつかないことをやってしまったという事実に何とか対処するために伊野は動かなければならなかった。つまるところ、弱さを吐露することは、それまで対象を頼りにしていた者たちの心を脆くさせる効果を持ち合わせていないということを、証明しなければならないのである。もっとも、伊野は現状においてこれを言葉によって証明することは不可能であると悟っていた。何せ、すでに二人は感情の吐露によって生じる悪影響を被っており、これまで何ほど暗い表情を浮かべているのだから。この覆すことの出来ない証拠により、伊野は言葉だけでこの問題を解決することは不可能だと判断したのである。

 ただ、言葉による解決を放棄した時点で伊野に残された解決方法というのは、行動による解決しかなかった。それも繊細な心を持つ二人の感情に配慮しながらの行動である。

 極めて難しい対応を迫られる伊野は、これからどうやって動けば良いのか手を余していた。ガラス細工と同等の硬度しか持たない二人の心を配慮しながら移せる行動というのが、いったいどんなことなのかを伊野は悩んだのである。しかしながら、悩まず、再び感情に任せて行動をしてしまえば、ロクでもない結果が自分に待ち受けていることを知っていた。このため、解決の手段が分からない方法に、必死に懊悩しながら適当な手段を取ろうとしたのである。

 ただし、時は摂理によって過ぎて行くし、天啓は双方向性を持つことを忘れてはならない。つまり、伊野一人が自らの意思に則った判断だけで、この状況が動くとは限らないのである。被害者とも受け取れる二人の方から、事態が動くことだってあるのだ。


「まっ、安心してくだせえ。俺たちはロクでもない野郎ですけど、あのクソ野郎と違って貴女を裏切ることだけはしませんよ。少なくとも俺は、貴方の隣で貴方のことを守れる範囲で守りますし、貴方の期待を裏切らないつもりですよ。俺がクソ弱くても、守り通しますよ」


 無理な笑みを浮かべながら、薊は伊野に向けて語りかける。


「ええ、アタシもアナタの傍にいるわよ。出来る限りですけど。けど、傍にいない時もアタシはアタシたちのために最もよい行動を取るわ。それだけは覚えていて欲しいわ」


 続けて秋等も、似合わない笑みを浮かべる。

 二人の表情は伊野に息苦しさを覚えさせる。しかし、息苦しくてもここで同意しなければ事態は停滞してしまう。したがって、伊野は醜く歪もうとする表情を何とか整えて二人の言葉に合意した。


ご覧いただきありがとうございます。

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