表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

919/1367

名誉のために

 自らの発言に悔いるように、薊は顔をしかめ、奥歯を噛みしめる。同時に目を二人から逸らし、忌々しい巨大なビル群に目を向ける。コンクリートとガラスで出来た無数のビルは、彼の心をやはり圧迫すると同時に、耐え難い憎さを胸に生み出す。これは現実逃避においては最適であったが、後のことを考えれば悪手であることは間違いなかった。そして、自らの発言に恥じらうこと自体が間違いであるのだ。

 二人は薊の放った一橋を擁護する声に、目を見開いて驚いていた。だがしかし、彼の言葉に対して怒りの情だとか失望だとかは抱いていなかった。むしろ、仇敵とも呼べる存在について擁護する気になったのかを二人は知りたがった。そのため、彼の恥じらいは二人の興味の外に存在していた。二人にとって彼の感情は、自らの知的好奇心を満たすための弊害でしかなかった。したがって、二人は彼の感情を排して、もちろん伊野は意図的に排して、彼のグイっと近づくのであった。

 どういう訳かいきなり眼前まで近づいてきた二人に、薊は恥じらいよりも危機感を覚えた。特にこれは秋等に覚えた。だが、彼の思考回路はすぐさま秋等が、自分の思い描いている愚行をするはずがないという結論を弾き出したため、緊張した心は急激に弛緩した。そして、このあまりにも勾配のある感情変化は自らが先ほどまで感じていた恥じらいを忘れさせる効果を偶然持ち合わせていた。したがって、彼は自らに悪影響を与える印象を抱えているビル群から目を逸らし、有機的な二人に視線を合わせた。もはや、自らが意識的に見ない限り目に入ってこない景色などどうでも良く、ただ自分の周りに無意識的に集っている者たちに向ければよいと、彼は考えたのである。

 伊野は自らが言葉を発する前に、薊が自らを省みたことを察して、安堵の笑みを浮かべた。同様にして秋等も微かに頬を緩めた。だがしかし、これと一橋の擁護とはまた別の案件である。そのために二人は彼に急接近したのだし、これが分からない限り、二人は心に靄を抱えてしまうのだ。したがって、二人は一歩退いた彼に、さらに詰めより、無言の圧によって彼から情報を引き出そうとした。

 しかし、薊は二人がどうして自分に詰め寄っているのか察することが出来なかった。いや、出来なかったと言っても、それは二人が意図したことを悟れなかったというだけであり、実際には内向的な感情から自分を解き放つために詰め寄ったという解釈違いのことを悟っていたのだ。動機から離れた結果論を誤って悟ってしまった彼は、二人が自分に駆けてくる無言の圧力の理由が一切分からなかった。そして、分からないまま自らの憶測でのみ行動することが、どれほどの失敗を生み出すのか、彼は知っていたため、彼は素直に首を傾げて見せた。

 二人は一瞬、ぽかんとした腑抜けた表情を浮かべてしまった。しかし、すぐさま薊がことを理解できていないことを察して、腑に落ちた表情を浮かべた。二人のせわしない表情変化に、彼は純粋に忙しさを覚えた。そして、二人がこの後にどういった言葉を紡いでくるのかを予想し、その言葉に対する回答を頭の中で準備することとした。


「そりゃ、感じ取れっていう方が難しいよね。ごめんごめん、言葉にしなきゃ伝わらないことの方が多いしね」


「反省ね」


 詰め寄った薊から一歩引いて、二人はうんうんと自らの言動を省みた。二人とも腕を組み、うんうんと頷きながら、心の浅いところで反省をしている様子は、回答を考えている彼の目には、自分のことを馬鹿にしているよう見えた。だが、そんな本心も分からないところで相手に喧嘩を売ったところで、不毛な争いにしかならないため、何も言わずに二人の言葉を想像して、回答を考え始めた。

 しかし、薊の思考時間は考え始めたその瞬間に終わりを迎えた。


「それでさ、薊。どうして君は一橋クンのことを擁護なんかしたんだい? あいつは間違いなく犯罪をしたさ。データベースにも記録されてる。その記録が嘘だってことにはならないだろう? それにあいつは君の親友を撃ち殺そうとしたしたじゃないか。どうして、そんなロクデナシの筆頭格を君は守ろうとしているんだい?」


 伊野は口早に幾重にも重なった質問を薊に投げかけた。


「俺はあいつを守ろうとなんざ、微塵も思ってませんよ」


「けど、それってダーリンのさっきの言葉に反するわ」


 そして、先ほどの言葉に反する発言をする薊に、秋等は矛盾を問いかけた。


「矛盾してることは自分でも分かってるさ」


「じゃあ、どうして薊はあんなことを言ったんだい?」


 伊野は首を傾げ、鋭い目で睨みつけるように薊に問いかける。


「野郎の名誉のためですよ。野郎は確かにクソッタレだ。喜多をぶち殺そうとして、八千代を誘拐しやがって。けど、野郎は喜多を殺さなかったし、八千代に何の危害も与えなかった」


「ダーリン、それは結果論じゃないの?」


「結果論だとしてもだ、そこにはあいつの意思が加わってたはずだ。そいつを頭ごなしに否定しちゃいけねえよ。それに野郎は、月山の野郎にそそのかされたから、暴力的な言動を取ってたんだよ。だから、野郎の名誉を守ってやろうと思ったんだよ」


ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ