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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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918/1367

奴の情報

昨日、投稿できずに申し訳ございません。

 生産性のない二人の会話を、伊野はさも興味なさそうなふりをしながら耳を傾けていた。同時にその生産性のない会話が、薊の精神衛生を良い方向に運んで行っていることを確認した。それは身の無い会話であったとしても、彼が自分自身に意思を向けることを妨げているためである。人間は落ち込んだ時、段々と内向的になって行く。そして、内向的になった性格は自己嫌悪を生じさせ、人間を卑屈にさせて行く。卑屈になった人間は、あらゆる判断に臆病になってしまう。この考え得る最悪の状況になることを現状において、秋等は実践してくれている。このことに伊野は安堵を覚え、クスリと笑っているのであった。

 ただし、安堵していると言っても完璧な安心に至っている訳ではない。これは二人の会話がどちらかと言えば、というよりも完璧にネガティブな方向に傾いているためである。およそ、二人間の話題は薊自身が自らの性格に関して考察をするモノである。そして、彼は自分の性格に先ほど地下室で話した通り、あまりよい印象を覚えていない。つまり、自らのことを良い人間だとは思っていないのである。したがって、自己に意識を向ける割合を低下させる作用が会話の中に含まれているにしろ、根本的には彼の精神を卑屈な方に導く作用を失っていないのである。そのため、伊野はどうにかして話題を転換し、自分たちの趨勢を握る少年を、堀野薊という人間をポジティブな方向に運ぶ使命を持ち得たのである。そして、伊野は自らの使命を果たすため、急に立ち止まり、身を軽やかに翻した。


「ところで、君たちは福音機関を知ってるっけ? 具体的なことは何にも教えていなかった気がするんだけどさ」


 伊野は二人に向けて人差し指をビシッと指して、ニコリと笑って見せた。これによって二人の間に満ちていたシリアスな雰囲気は若干和らぎ、微かな笑みが浮かんだ。二人自身、空気を読むことがそこはかとなく上手いため、伊野の意図を汲み取って話題に合わせるように首を横に振った。


「いいえ、ただ名前を知ってるだけです。他のことは点で何も分かりませんよ」


「アタシもダーリンと同じよ。聖使徒の中央機関があるってことしか知らないし、それ以上のことを別に知りたいとは思わなかったわ。今の今までわね」


「そうかい、それならせっかくだから教えてあげよう」


 伊野は腰に手を当てて、わざとらしく腰に手を当て、背を反らすと鼻を鳴らした。その誇大的な応対に二人は、暖かな笑みを浮かべる。


「あそこは知っての通り、僕たち聖使徒の本拠地がある。それは同時に僕らが蓄積したデータがあるってことだね」


「データですか? そいつは一体、何のデータ何ですかい?」


「治安維持に対するデータだよ。腐っても僕らは治安を維持するための警察権力を授かってるからね。というか、それが僕らのいわゆる特権的階級を保証してくれているモノなんだけどさ。だから、そうした階級を保証するためのデータがあそこには蓄積されているんだよ。ほら、僕と薊があった日、僕は一橋クンのことを覚えていただろ? あれはあそこに蓄積されたデータがあったから覚えていたんだよ。まあ、実際には僕とあいつとの間にちょっとした因縁があったから、データが無くても覚えていたんだけどさ。それでも、あいつの素性を正確に理解できていたのはデータのおかげだね。諸々の犯罪歴はそこにしか書かれてないしね」


 因縁の相手の名前を懐かしむように、そしてどこか寂しそうに伊野は紡いだ。その哀愁漂う言葉は、薊と秋等の胸中にも寂し気な風をもたらした。彼の胸中に吹き込む風は、彼がそれまで抱えていた不安の一端をかき消した。いや、かき消したというよりも上塗りしたという方が正しいであろう。

 また、薊は仇敵に情を覚えることとなった。これは既に死んでしまったろくでもない人間から聞いた情報を知る彼だからこそ、抱きうる感情であった。ただし、この感情には彼のプライドという余計なブレーキがかかってしまうこととなった。本来は情など一切かけたくないほど憎たらしい人間に、どうして自分が情を掛けなければならないのかと、彼は思ったのである。しかし、彼はこの感情を阻害するブレーキについて再考した。もっとも、彼の再考はすぐに終えた。なぜならば、仇敵は既に死んでしまっているのだから。


「あいつは、一橋の野郎の犯罪行為は、偽悪ですよ。本当の犯罪なんかじゃありません。いや、実際に行った犯罪もあるんでしょうけど、あいつが下らないことをやっちまったのはサタンにそそのかされちまったからなんですよ。こんな言葉が自分の口から漏れるなんざ、思いもしませんでしたけど、抜本的にあいつが悪いわけじゃないんです。本当に悪いのは第三位の野郎です。あいつさえ、あいつさえいなければ、野郎は真っ当な生き方をしていたはずです」


ご覧いただきありがとうございます。

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