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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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真ん中に立っていたい

 後頭部をぼりぼりと掻きながら、決断しきれない自分に恥ずかしさを覚えているように喜多は言葉を紡いだ。基本的にリラックスしており、楽観的な視点を持つ喜多にしては珍しい反応である。そして、その様はあまりにも喜多に似合っていなかった。太陽と称される喜多の勇敢な雰囲気に、恥じらいは要らないのである。

 醜いモノをいつまでも見ていたいという人間があまりいないように、秋等もまた喜多のしみったれた表情をいつまでも見ていたいとは思わなかった。むしろ、喜多には普段通りの何を考えているのかよく分からない能天気な笑みを浮かべていて欲しかった。そのため、秋等は小さく首を横に振り、けろりと笑って見せた。秋等は喜多の言葉を否定したのである。

 秋等の否定に喜多は懐疑的な視線をぶつける。喜多からしてみれば自己嫌悪に対して、いらぬ同情をされたと思ったのである。もっとも、自らの弱さをどこか感傷的な雰囲気で伝えている時点で、現在の喜多の信条は矛盾しているのであるが。しかし、喜多のとった矛盾を孕む言動は喜多からしてみれば正統性のあるモノであった。このため、喜多が秋等に対して明確な不快感を見せたことは致し方ないことだとも言える。

 向けられる独善的な不快感に、秋等は浮かべる微笑をより深いモノとした。静かに絶え間なく微笑みながら、喜多が自分自身に向けている嫌悪感を解こうとしたのである。これは秋等なりの決断という行為に対する解釈がもたらした表情である。

 ただし、喜多は空気を読もうと思えば読めるが、意識的に読もうと思わないため秋等の笑みの原因がいったい何なのか分からなかった。そのため、喜多が秋等の表情に抱く感情と言えば、自らの弱さをからかっているという極々一方的な感情しか抱けなかった。冷静になって自らの認識を顧みることさえできれば、一方的な感情も多方向性を持つことが出来たであろうが、自分からしても珍しい自己嫌悪に陥っていた喜多の頭は混乱していてこれを直すことが出来なかった。

 混乱する頭と行きようの無い苛立ちに、喜多はむしゃくしゃとして体を強張らせた。手を握りしめ、首筋を浮かべ、きりりと秋等を睨み詰めた。もう、喜多は感情を制御する方法が分からなかった。


「別に白黒で決めつけることは無いわよ。中庸としてアタシたちの中に居るってことで、また見つかることもあるかもしれないわ。それに、まあ、大体の組織がそうだったんだけど、あんまりにも一つの目的に妄信的に突き進む集団はいずれどこかでつまずくわ。結局、それは自分たちを客観的に見れないために起こることよ。だから、組織の中でそれなりに力のある人が客観的に物事を見れるようしておいた方が言いわけよ。だから、あんまり気を詰めずに自分の立ち位置を考えて居てなさいな」


 感情が錯綜する喜多の肩にポンっと手を置いて、秋等な柔い声音で言葉を紡ぐ。心の奥底にそっと吹き込む風のような秋等の言葉に、喜多は妙な気持ち悪さを感じた。大事なところをまさぐられるような、てらてらとした蛇がとぐろを巻いているようなしなやかな気持ち悪さを感じたのである。

 ただ、この心地の悪い気持ち悪さを覚えながらも秋等の言葉は喜多の心持を軽くした。複雑に絡み合った自分自身への感情が少しだけ解れた様に思えた。もしかしたら、喜多の錯覚なのかもしれないが、例え錯覚だとしても喜多からすれば強張っていた心を軽くする妙薬となり得た。だからこそ、強い衝撃を加えればすぐさま折れそうであった喜多の調子は一気に解れた。


「ありがとな。それと、こんな馬鹿々々しいことに巻き込んでちまって悪いな。おかげさまでスッキリしたよ。辛気臭いことばっかり考えるのも止めだ。俺は自分に出来ることをやるさ」


「それが良いわ。それと何か悩み事があったら、誰でも良いから相談しなさいね。アナタもダーリンも、瑞雲もすぐに一人で抱え込むんだから」


「お前にだけは言われたくなかったぜ、狩谷」


 普段通りのカラッとした笑みを浮かべ、映画の登場人物のように顔をキリッと演出する喜多の言葉に、秋等は呆気にとられた。


「あら、こう見えてもアタシは意外と人に相談するタイプよ」


 何せ、自己評価と真逆のことを喜多に指摘されたのだから。

 秋等の返答を聞いた喜多は整えた表情を崩し、腰に手を当てて、さも呆れてモノが言えないかのように大きなため息を吐き出した。そして、怪訝な表情で秋等を見つめる。


「マジで言ってんのか?」


「今までアタシがアナタたちに隠し事をしたことがあるかしら?」


「隠し事しかしてねえよ。まあ、そいつは悩みっていうよりかはお前にプライベートな情報なのかもしれないけどさ。とかく、お前が言えた義理じゃないぜ、狩谷。だから、お前も悩みがあったら俺にでも相談してくれよ。そうやって、互いを支え合っていこうぜ」


 屈託のない笑みとグーサインを突き出し、喜多の提案に秋等は溜息を漏らす。


「なんだよ、俺じゃ不満かよ?」


「いいえ、なんだか馬鹿らしくなっちゃってね。まあ、よろしく頼むわよ」


「おうさ!」


ご覧いただきありがとうございます。

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