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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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907/1366

制限されて

私事が立て込み、執筆が手に着かない状況が続いてしまいました。

申し訳ございません。

 唐突に訪れた薊への強烈な言動は、そのまま時間と空気の流れに従ってそのまま流れて行った。これは彼らが播磨の言動の合意していることの証明であり、どっちつかずの立場に立ち続ける彼への非難の意思を証明することでもあった。つまるところ、彼らの内、現状の彼を過去の彼と同一視している者は誰もおらず、今掴み上げられる彼はただの少年としか映っていなかったのである。したがって、誰もが蛮行とも言える播磨の行動を肯定した。もっとも、そこにはかつての凛々しく頼れる彼に戻って欲しいという客観的で酷く人任せな願望も詰まっているのだが。

 周囲からの非難と真っ向から向けられる播磨から説教臭さに、薊は眉間を寄せる。そして、播磨の冷たいヴァイオレットの瞳に極限まで反抗できるように、出来るだけ目を細めて睨みつける。しかし、彼の睨みは結局数秒しか持たず、この後に彼は重い溜息を吐く。彼の溜息には、十代らしい身勝手な気だるさが含まれていた。

 薊の吐き出した溜息をもろに受けた播磨は、目を見開いて彼を見つめる。失望による驚愕がその表情には含まれており、それは敵前逃亡する兵隊に対する感じの悪い印象に似ていた。誰もが敵を前にしても一歩も引かない勇敢な存在だと信じていたはずなのにもかかわらず、その期待を安々と平気で裏切り、想うがままの行動を取ろうとする腐り落ちそうな根性を播磨は感じたのである。この知覚に従って、播磨は手を彼の胸倉から離す。彼は重力に従って、ぽすんと弱り切った調子でソファに座る。


「手前はそんな奴だったか? 手前が俺たちをここまで連れてきたんだから、手前が責任を取って俺らを精神的に導くんじゃねえのかよ?」


 播磨は髪をかき上げながら、失望の声を薊にぶつける。


「俺もずっとそのつもりだったさ。これまでを通して、そしてこれからも俺は少なくともこいつらだけは守ってやろうと、実力じゃどうにもこうにも出来ないけど、精神的には守ってやろうと思ってましたよ。けど、そいつは俺の手に余ることだったんですよ。俺の手には魔法が宿りましたよ。でも、力に選ばれた存在だとしても俺はただの人間です。心もただの人間なんですよ。羨望して、痛みに晒されるクソッタレな弱虫の一人でしかないんです」


 失望の声は珍しく薊の顔に自嘲的な笑みを浮かばせる。弱り切った彼の表情は、彼を見つめる者たちの心理に少なからず影響した。彼を見つめる誰もが、今まで彼に頼りすぎていたことを微かに悔やんだ。ただ、その他の感情としては、やはり彼には気丈に振舞っていて欲しく、自らの正義を振りかざし、自分たちの背中を支えてくれる存在であってほしいというある種の英雄視が含まれているのであった。

 このため、薊の感情は播磨とのやり取りに欠如しており、他人が望んだ姿を見せることに疲れを訴える彼に非難が降りかかるのであった。


「いいや、違うね。手前は弱虫なんかじゃねえよ。手前は強い野郎だ。実力がねえ癖に、正義感だけをもって手前の信じるモノを守ろうとここまで来てるんだからな。だから、手前は手前のことを卑下するんじゃねえよ」


「卑下? 違いまっせ。そいつは違います。俺はもとからこういう人間ですよ。それはあくまでも、自分の口でいうのも恥ずかしいんですけど、作られた俺です。本来の俺は部屋の中に籠って、下らない自尊心を育てる人間ですよ」

 したがって、薊は本来の自分の頬を人差し指で掻きながら、彼らが自分に抱く英雄像を撤回するようにゆったりと言葉を紡いだ。これは彼の本心であり、自分が望まれた自分であることに疲れた人間が吐露した弱音でもあった。彼の声音はかつてないほど弱々しく、自らが勝手に犯したと思い込んでいる枷によって生じた外的な自分に対する皮肉を紡いでいたのであった。その姿は、かつての彼の像からしたら考えられないことであり、酷く彼の印象を変えることでもあった。


「違うぜ。お前は絶対に違う。例え、本当に手前が手前のことを内気で内向的な人間だと思ってたとしても、俺らは手前がそういう人間であることを許さねえ。だから、手前は内向的な人間なんかじゃねえ。人を惹きつける魅力を持った特別な人間だよ」


 ただ、薊の告白を真っ向から播磨は否定する。この個人的な主張を排した播磨の言葉に、誰もよりも自由を欲していたはずの人間が発する全体主義的な言葉に、彼は目を見開く。


「だから、お前もそう思ってくれや。それがお前の責任だし、お前がこれから一生かけて背負っていかなきゃならなねえ業みてえなもんだよ」


「畜生道に落ちた方がマシですね……」


「安心しろ。ここは既に畜生道だよ。そんで。涅槃を目指して俺たちは頑張ってんだ。もっとも、そこが本当に浄土なのかは分からねえけどな。だからよ、手前は目覚めた人で居てくれよ。いや、居なきゃいけねえんだ。例え、お前の自由が制限されても、お前はお前を捨てて尊敬される存在で居なきゃならねえんだよ」


ご覧いただきありがとうございます。

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