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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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起き抜けに

昨日、投稿できずに申し訳ありません。


 二人が一人の少女の殺人に合意したとき、瑞雲の心の内には非常に重い空気が漂った。それは二重の殺人に対して自らが抱くプレッシャーであり、今の八千代と出会ったあの施設ですら鬼となり人を殺すことの出来なかった自分の甘さへの叱責でもあった。殺すという覚悟を決めているのにもかかわらず、手は震えて動かず、最も尊敬する友人の言葉が頭をよぎる現状が瑞雲に重くのしかかったのである。

 しかしながら、やらなければやられるのは自明の理である。このため、瑞雲は氷花の言葉に代表されるように五篇杏璃という名前しか知らない少女を殺すことを含め、作戦を構築するために瞼を閉じて、熟考に入り始める。ただし、瞼を閉じたところで余計な感情は瑞雲を刺激するのであった。ひとえに残虐性と冷酷さを持ち合わせ、これを合理的に運用できるような人間でないが故の苦悩とトラウマ染みた殺意への恐怖心が瑞雲の頭をめぐるのだった。

 懊悩に瑞雲が悩まされている間、ずっと安息の眠りに入っていた少年は遂に目を覚ます。薊は乾いた唸り声を上げると、鼻頭をぽりぽりと掻いて、大きなあくびを上げながら目を覚ます。未だに眠たげな少年の音声は殺伐とした冷たい空気で満ちる空間に微かな孔をあける。

 ちっぽけな変化でしかなかった。けれども、この小さな変化は空気が変容し、言いたいことも硬く冷たくなり、満足に口からモノを言えなくなってしまった敏感な少年少女たちの感性を刺激した。結果として薊の声は、鬨の声となり得た。もう自らの読みたかったモノが無いと悟っていながらも、そうしなければならないと思い込んで一緒券面に本棚を漁っていた喜多も、彼の傍らで彼の起床を待ち望んで彼の顔を凝視していた八千代も、緊張した表情を弛緩させ、和やかな雰囲気を纏ったのである。

 空気の変遷ついて、薊は何も知らなかった。というよりも、凍り付いた空気を寝ながら無意識に感じ得て、これに則した反応を見せるということ自体無理なのことである。加えて彼は空気を悟ることが上手いが、これを表面上に示すことを少々恥ずかしがるため、この点においても彼が突発的に物事を悟ることは出来ないのである。


「……おはよう。というか、顔が近いぜ、八千代」


 まどろみの中で微笑む少年の顔は、瑞雲や喜多に敵うことは無いがそれなりに美しい雰囲気を持っていた。いわゆる美少年とでも言えば良いだろうか、雰囲気だけであるが仮初の美を彼はこの瞬間だけ妹に見せたのである。

 寝起きの彼の笑みに、八千代は少々顔を赤らめる。共に暮らしていれば度々見るはずの笑みであるはずなのに、彼女の初心な心はまだ形式的な兄の微笑になれていないのである。この微笑ましい家族関係は、先ほどまでの冷たい空気とは相反していたため、冷たさになれていた三人の心をにわかに溶かした。


「……なんかあったのか?」


「ええ、なんかしかありませんでしたよ。しかも、兄者にとって滅茶苦茶重いことです。まあ、私にしても重いことなんですがね」


「朝っぱらから、そんなこと聞きたくねえんだけど」


「でも、兄者には聞く義務がありますよ。いろんな人を片っ端から巻き込んできた兄者が負うべき責任ですよ」

 物騒な内容を柔らかい言葉と表情で伝える八千代に、薊は眉間に皴を寄せて、怠そうな溜息を吐き出す。けれども、彼の口から洩れる溜息には、彼女の口が自らに伝えてくれた面倒ごとをしかと聞く覚悟が含まれていた。彼の本音としては聞きたくないと思っていただろうが、それでも立場から、もっともその立場すら現在は中枢から外れた立場にあるのだが、とかく彼は自らが首を突っ込んだことの義務を履行しようとするのである。


「おはよう、寝坊助野郎」


「うるさいですね。こっちだって昨日の諸々とかで色々と疲れてるんですよ。ゆっくりできる時くらい、ゆっくりさせてくださいよ」


「それにしてもだぜ。もう、お天道様は空のてっぺんに上っちまいそうだ。まあ、まだ隣の野郎が眠ってやがるからセーフではあるかもしれねえな」


 寝起きの薊をわざとらしく播磨はいびりはじめる。播磨の標的となった彼は苦笑いとうっとおしさを浮かべながら、苦笑いを播磨に向ける。同時にまだ寝ている秋等に対するあほらしい優越感を微かに覚えるのであった。


「それで、何か俺に伝えたいんですか?」


 しかし、このわざとらしい身振りも薊は演技であることが分かっていたため、虚を突くように播磨に尋ねた。


「意外と冗談の通じる野郎だな。まあ、お前に伝えることは一つだけだ」


「一つ?」


「けど、お前みたいに正義感の強い最も純粋な人間にとっちゃ無遠慮なことだよ。まあ、落ち着いて聞いてくれよ。簡単な話だからよ」


「もったいぶらないで早く教えてくださいよ」


「そうか、じゃあ仕方ねえ、教えてやるよ。標的が増えた。ぶっ殺す対象に五篇杏璃っていう聖使徒様が追加されたんだよ」


 これに薊は明らかな嫌悪感とそうしなければならない現状に対する絶望感を瞳に宿した。


ご覧いただきありがとうございます。

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