表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

897/1366

参戦の動機

 兄に対する絶対的な信頼を寄せていることを八千代は、堂々と、ためらわずに紡いで見せた。その表情や態度は凛としており、か弱さは一切感じられなかった。ただ、本心から兄たちがこれからぶつかって行く難題に対し、兄たちと同等の覚悟をもって、立ち向かわんとする正々堂々とした態度を彼女は保っていた。これはつまるところ、彼女も兄たちと同じように絶対的な実力差のある敵対者に対し、自らも敵対することを宣言したということであった。氷花は彼女の覚悟が揺るぎないモノであり、思考によって研鑽されたモノであるということを理解していた。しかし、氷花は十死零生のぶれない覚悟を抱いた彼女の参戦に納得することは出来なかった。それは氷花の私情が大きく関与していたし、未だ目覚めない兄の思考を想像し、その光景が自らの脳裏に浮かび上がったことにも関与していた。

 前者に関しては言うまでもない。氷花は瑞雲という人間を本気で想っている。かけがえのないたった一人の無償の愛を注げる存在としてずっと想っている。しかし、氷花と瑞雲との間に、氷花が抱く想いが両方向性を持っているかと言えば異なる。確かに氷花は瑞雲に対して愛を向けているが、瑞雲から氷花に対して愛は向いていない。いや、愛は向いているが、その愛というモノは恋に発展するモノではなく、重大な困難を乗り越えた時、共に培ってきた友愛でしかない。その代わり、八千代に対して瑞雲は氷花が瑞雲に対して向けているモノと同等のモノを向けている。もちろん、この愛は、すなわち恋に発展する愛は、過去において勝手に設定されたモノである。けれども、氷花は過去において紫雲龍鳳が瑞雲に仕組んだモノだとは知らない。氷花は純粋に瑞雲が、彼女に対して愛を向けていると思っているのだ。このため、氷花は想い人の愛のために、自分が傷つけてしまった少年が報われるようにと、彼女の参戦に対して拒絶を示しているのだ。

 後者も前者とほとんど同じ理由である。家族から見放されて技術都市にやってきた自分たちのような人間に、唯一残された家族的な繋がりが、どれだけ輝かしく手放したくないモノかは言うまでもない。つまり、この都市において何よりも貴い関係を薊と八千代は持っているのだ。そして、この貴い関係性は二人を知っている者であればだれもが肯定している。だからこそ、このあまりにも貴重な関係性を崩しかねない危険な行動に彼女を乗せたくないのである。

 したがって、氷花は八千代の覚悟を認めながらも、彼女の参戦に否定的な感情を抱いたのである。しかし、抱いたは良いものの今生を賭けて参戦の意思を訴えているような彼女の言葉に、安っぽい言葉で反抗することは出来ない。しかるべき研鑽を重ねた鋭い言葉でなければ、感情的で突発的な論理性の欠けるモノとなり、彼女に無礼を働いてしまうこととなる。そのため、氷花は突発的に彼女の意思に否定的になったモノの、瞬間的に彼女の言葉を否定することは出来なかった。

 自分の声明を聞いた瞬間、顎先に指を当て、美しい顔の眉間に皴を寄せ、唸る氷花に、爽やかで凛とした表情を保っていた八千代は首を傾げた。それもキョトンと、随分と可愛らしさを纏いながらである。


「つまり、八千代ちゃんは薊を信じるってことね。それと私たちに協力するってことよね」


「はい、そうです」


 再度確認することを目的に、氷花は八千代を見つめながら言葉を紡いだ。これに彼女は純粋に、真っすぐと頷きながら答えた。


「……そう。けど、その道がどれだけ難しいことなのか八千代ちゃんは分かっているの? もしかしたら死ぬのかもしれないのよ。私たちが貴女のことを守ってあげられる時間も範囲も今でさえ限られているし、もしも貴女が私たちと同じように能動的に動くとしたら私たちは貴方を守ってあげることが出来なくなるわ。ただでさえ危険だって言うのに、貴女はさらなる危険に出くわすことになるのよ。しかも、その問題は自分の実力で解決しなきゃならないのよ。それが分かっているのかしら?」


 そして、氷花は八千代に対して、少々高圧的な態度でもって口早に彼女が自らの選択のせいで、自らに被る危険性について説いた。氷花が紡いだ言葉には、もちろん一般的な注意ではなく、氷花自身の私情が含まれていた。氷花はこの危険性を示して、これを彼女に理解してもらって、自らの意思で自分たちの行動から離れて行って欲しかったのである。

 しかし、現実として氷花の意思がそのまま叶うことは無かった。むしろ、氷花の言葉は八千代の覚悟を強めてしまった。彼女は紅の瞳に、覚悟の光を灯して、ジッと氷花を見つめた。


「はい、分かってますよ。分かってるからこそ、やるんです。私だっていつまでも兄者たちに守られてばかりいる存在じゃないんです。良い加減、独立しなきゃいけないんです。そして、自分なりの自由を手に入れるんですよ。例え、兄者たちが私の意思に反対を示したとしてもです」




ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ