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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
胸いっぱいの憎悪を

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弱者の混乱

あけましておめでとうございます

そして一か月ほど更新ができず申し訳ありません;;

 震える脚の進みは酷く遅い。それでも進めば目的との距離は近づいていく。到達目標に対して精神と肉体とが乖離していたとしても、目標が物体である限りにおいてその事実は代えられない。したがって二人は思い出の殺人について吐き気を催し、接近に本能的な拒絶を抱いたとしても、そこへと歩み寄ってしまう。脚だけではなく手も震え、全身から急激に体温が失われ、呼吸は浅くなりひたすらの焦燥に浸されていたとしても、結局は背反する目的を成就させる地点に到達してしまうのであった。

 かくして二人はこねくり回した大義に則りながらも、精神的には承服しきれていない状態のうちで目的の場所へと到達したのであった。

 二人は縦長の四角形の壁を前に立ち尽くした。いや、二人の認知としてそれは壁ではなかった。機械仕掛けの神より抜き取られた情報は壁にしか見えないそれは扉であることが明示されていた。幾度となく出会ってきた壁、永遠に封鎖されていてほしい障壁は技術によって作り出された鍵により、何らか玄関戸と変わらない代物となった。それは二人の願いの成就には必要な認識であった。容易に突破し、容易に対象者を殺害できるのであれば、労力の一切合切は不必要となる。

 だが空想に対して抱いた覚悟は、行為を簡便にさせる技術とこれを提供した少年に対する憎悪によって覆された。

 二人の精神は大義に従い、裏切り者の排除を志向していた。自分たちで守らなければならなかった少女を敵対者の手に渡し、救出した才人さえも敵対者へと捧げた恩知らずを罰する必要に迫られていた。人類の倫理が定めてきた法のうち最も重い罪を被ってでも、火野を殺さなければ彼らの大義は成就し得ず、そのために二人は自らの情動の一切を理屈によって丸め込んだ。そうでなければより良い日常を——喜多が生存し、みなが分相応の階級の中で互いを憎しみ合いながらも互いを愛し合っていたあの時間を取り戻す犯罪行為を肯定できないのだから。

 紫雲も然り、新庄も然り、自らの罪を肯定して自らの道徳的物質的犠牲を払って自分たちの大義を成就させよとしている。なのにもかかわらず、それに敵対する自分たちが一切の犠牲を良しとせずに綺麗ごとだけで戦っていけるはずがない。

 この理屈の上の理屈、闘争における大前提を確かに二人は承服していた。それゆえに殺人を自らの価値観の上で肯定した。けれども、日常において非実践的な行為の理論的工程は空想の域を出ることはない。この地点において理屈は完全に瓦解した。そうして怒涛の如き感情の上下運動が行動決定の判断を飲み込んでしまった。

 理念の貫徹を成し得ない二人は自らを恥じた。震える手が、震える指先が、IDパスに表示された解錠のアイコンを押せない事実に喉を震わせた。その上で二人は決して顔を合せなかった。自らの青白く血色を失った顔色を相手に示したくなかったのだ。矮小な自尊心はいまだに自らの体裁を守ろうとするのであった。

 ただし忘れてはならないのは、薊と伊野の両者ともに、自らは弱者ではないという自認の下で惨めな根性を震わせたということである。現実認識として二人はただ開けられるはずの扉を前にして立ちすくんでいるだけである。その事実は二人が行為に対する勇気を持たない限り絶対に変わらない。しかしながら彼らは他者に責任を負わせようとしたわけではない。相手が、いつか、論理は不明瞭だがある一個の決定的な神経の混乱により、どうにかして、先達となってくれるだろうということを望んだわけではないのだ。

 二人はただ自らとの格闘に励んでいただけである。

 この一点において嘘偽りはない。

 だからこそ、自らを最も弱いと認識している薊はその震える手を神経の混乱において動かしたのである。なるほど、そこに理屈はない。彼はただひたすらに駆動する自己の認識に基づいて、自らの指を動かしたのだ。


ご覧いただきありがとうございます。

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