不呪王
ソウタ達が戦っている場所より後方にいったところ。回復職や魔法職の少し前に陣取るのは、王都騎士団。仮に前衛の戦士が全て敗れ魔物たちが攻めてきた時の最後の砦のようなものだ。
「前衛の戦士が討ち漏らした敵を許すな。徹底的に叩け」
後は、上手く戦士から抜けてきた魔物を処理するのも役目だ。抜けてきた魔物は次々に兵士たちに倒されていく。たとえ、魔物の攻撃により傷ついてもすぐに回復師が治療をする。
「そろそろ前衛の戦士たちの援護に行く。前線をあげるぞ」
レオの指示に従い、徐々に前線をあげていく。レオは少し顔を上げ戦士たちが戦闘を繰り広げている戦場の上を見上げた。
「何か嫌な予感がするな」
そう思ったレオの目には、黒く巨体な雲が写っていた。その景色は、ユーティリアやレインの目にも写っていた。そしてレオと同様に一抹の不安を感じていた。
レオ達が前線を押し上げている頃、前線部隊はかなりの数の魔物を狩っていた。
「もうひと踏ん張りだ。気合い入れろよ」
ソウタの近くにいた者がそう言った。
確かに、見渡す限り辺り一帯に広がる魔物の数は減っていた。だが、何か変だ。どの魔物も滅茶苦茶強いとも言えないレベルの魔物ばかりだった。ましてや、魔王には必ず1体魔王の幹部と呼ばれる程の強力な魔物がいるはず。姿どころかいる気配すらない。
「あの雲、何か変じゃないか ?」
1人の冒険者がふとそんな言葉を口にした。つられてソウタとカグヤも雲を見上げる。一瞬見ただけではわからなかったが、注意深く観察することでその正体に気が付いた。
「あれは雲なんかじゃない !魔物の群れだ !」
正体に気付いたソウタは、全力で叫んだ。全員魔物の群れを見上げる。
「カグヤ、俺はレオさんにこのことを伝えてくる。カグヤはこのまま魔物を倒していてくれ」
「でも1人で大丈夫なの ?」
「ああ、だからカグヤはここを頼む」
ソウタは勢いよく走り出した。その速さは今までで一番速いものだった。すぐにレオが見えるようになるが、ソウタに気付いたゴブリンやリアウルフが襲ってくる。
「邪魔だ」
ソウタは剣を目にも止まらぬ速さで振り払う。一瞬にして胴体から真っ二つに切れる。
「レオさん !」
「ソウタ君か、無事で良かった」
「それよりもあの雲を魔法で撃ち落とすことって出来ますか ?」
ソウタは雲のように見える魔物の群れを指さした。しかしレオは反応に困っていた。それはそうだ。誰でも雲を撃ち落とせるかなんて聞かれれば反応に困るのは当然だ。
「すみません、もう少し詳しく説明します。あの雲に見えるものは、魔物の群れなんです。だから、撃ち落とさないと王都が攻められます」
「だがな、あの高さまで魔法が届くかどうか」
「じゃあ、せめてレインを貸して下さい」
「レインって付与魔術師のあの子か。別にいいが、何をするつもりだ」
「いいから呼んで下さい」
「わ、わかった」
そう言ってレオはレインを探しにいった。ほどなくして、レインを連れて戻ってきた。
「あ、あの、なんですか ?」
「前にやったブーストを二重で合図したらかけてくれ」
「は、はい !」
ソウタは腰を落としゆっくり刀を構える。ふぅ~と息を吐く。目を閉じ意識を集中させる。
「今だ !」
「ダブルブースト !」
魔物とソウタの間に光の輪が2つ現れる。
「拡張居合い 天 !」
刀を振り払い斬撃を飛ばす。それもゴーレムの時とは別物と呼べるものだった。斬撃は勢いよく飛んでいき光の輪をくぐりさらに威力を増す。
やがて、魔物の群れを真っ二つに切り裂き雲の形が崩れる。少しすると空から大量の魔物が降ってきた。その容姿は様々だった。
最後に1体の他の魔物より一回り大きい魔物が地面に足をつけた。その魔物は黒いローブを纏いフードで顔が隠れているのか顔の部分は真っ黒で何も見えない。姿形は人間のようだった。だが、それよりも気になるところが1つあった。
「なんであいつの周りだけ草木が枯れてるんだ」
誰かがそう呟いた。その魔物の周りだけ何故か草木が枯れている。
「あいつが西の魔王、不呪王だ。気を付けろ、奴は他の魔物なんかと比べ物にならないぞ」
その場が一瞬で緊張に包まれた。
「あいつを倒せばこの防衛戦は終わりだ !今こそ冒険者の意地を見せるぞ、行けー !」
レオのかけ声で全員が武器を構え不呪王に向かって走り出す。それを見た不呪王は手をかざす。
「お前の攻撃なんか当たるもんか」
1人の戦士職の若者が1人で突撃していく。だが次の瞬間、体の上半身が消し飛んだ。上半身を無くしバランスを取れなくなった下半身は血を噴水のように噴き出しながら地面に倒れた。
それを見た全員はまさかの光景に凍りついた。
「あいつ、何をしたんだ」
恐怖を感じ始めたソウタ達を気にすることなく、不呪王はゆっくりと歩きだした。




