季常さんはビックリしています。
しばらく、道を進み、そして山道が開かれ、大きな町が開かれる。
「ここは?」
季常の問いかけに、均は、
「漢中。張魯の五斗米道……の本拠地。今回の目的地」
「はぁ‼えっと、益州成都方面に追いかけていたんじゃないの?」
「ダメに決まってるだろう⁉士元兄さんが、裏切り者だよ‼着いていったら斬首。家族も‼球琳殿や、甥や姪がどんな目に遭うか‼特に好色の関雲長なんて、球琳殿を……とか思ってるよ‼」
「姉上。そんな馬鹿には、半殺し……」
スコーン‼
頭上から手刀が叩き込まれ呻く。
「うぅぅぅ~‼いったぁぁい‼姉上は、そんなにバカじゃないよって言いたかったのに~‼」
「先に言え‼愚か者‼」
「でも、ここにどうして……」
馬が二頭近づいてくる。
一頭には、巨躯の金色の髪と青い瞳の青年。
もう一頭には、ホッソリとした金の髪と青い瞳の女性に、男の子が乗っている……。
「金剛‼」
馬に乗る金剛は、駆け出すと、
「うぉらぁぁぁ‼ふざけんな‼この親父め‼」
と、男の馬に飛び移り締め上げる。
「何でこうなったんだよ‼言いやがれ‼」
「待て待て……がぁぁ‼雲母に似て可愛いのに……怪力……」
「うっさい‼」
「ダメです‼」
もう一頭の馬から、広よりも幼い少年……。
「承‼」
「兄上‼しょうもお手伝いします‼一緒に‼お父さんを‼」
「承にまで‼」
がーん‼
衝撃を受ける孟起に、孔明と均は大爆笑である。
「頑張って!金剛。殺したら駄目だよ?」
「私が教えたギリギリまでだよ~‼」
「はい‼叔父さん」
「て、てめぇらぁぁ‼金剛を、どんな風に育てたんだ‼」
「見ての通り優しい子に‼」
「どこが見ての通りだ‼」
必死に逃げた孟起は、
「一回、てめぇ、殺る‼」
「あ、私怪我人です」
「はぁ?」
「ここに来る途中の谷で死にかかって、5日意識不明で、それから3日寝込みました」
手をあげる孔明。
「詳しい話は後で。すみません、雲母殿。お久しぶりです。申し訳ありませんが一般の民衆なのです。休憩できる場所とかはありませんか?」
「旅支度はできている。どこか平原でも構わない」
「令明お兄様‼」
雲母は馬から飛び降りると、駆け寄る。
「久しぶりだ。心配していた。亭主があれだからな」
「旦那様と、お母様と承が……金剛が時々便りもくれましたし……でも、こんなに大きく立派になって……」
微笑むと、
「私たちは城内ではなく、外に屋敷があるのです。馬もいますし、訓練もありますし、どうぞ」
呆然と見ていた季常が、隣の義兄の士元に問いかける。
「えっ?どうして知っているんでしょう?」
「赤壁の戦いの間、孔明は裏工作に駆け回ってて、江東から曹孟徳軍に寝返ったことにしてあれこれやっていたんだよ。そうしたら、今次期当主の曹子脩どのと知り合って、その息子の子文どのが暗殺者に襲われてな……で、毒消しを取りに行ったと聞いている。そうしたら、ほら、あの女性な?雲母どのと言ったか?あの人は元々馬岱と言う名前で戦場に立っていた。母親は生まれてすぐ亡くなり、母の姉である馬孟起将軍の母親の珊瑚さまに育てられた。あの美しさだ、周囲でも噂になったが、実の父親が馬寿成将軍の弟……再婚もしていて、邪魔な前妻の子を何処かの妾にと言い出し、それで大騒ぎになったらしい」
季常は呟く。
「はぁ……。美しいと言うのも大変なんですね。あ、そう言えば琉璃どのにも似ている……」
「琉璃の母親の姉が珊瑚さまと、雲母どのの母上だ」
「えぇぇぇ‼」
「然程勢力がない時に、連れ去られた。人さらいなんぞ当たり前だろうな。しかも、琉璃や雲母どののように美しいならな。探し回っていたが、と言うことだそうだ」
言葉を失う。
どんな目に遭ってきたのだろう……自分の視点の浅さに唇を噛む。
そして、その子供として生まれた琉璃がどんな思いだったのか……。
「……兄上……」
「何だ?」
「過去の自分を抹殺しに行きたいです……琉璃殿に対して吐いた暴言や失言、大言、全部叩きのめしたいです……。許されないとわかっていますが、帰ったら、琉璃殿に謝罪と、皆さんに……」
「まぁ、ちゃんとしておきたいのなら、しておくといい。それと、口先だけでは駄目だ。成長した自分を見せてやれ」
「はい‼家族の為にも、今までの自分を消し去り、新しい自分……身を慎んで人の意見を聞き、それに従うだけではなく、それをもう少し補助をできる人間になります」
季常は立ち上がり降りると、士元を支え手助けをする。
そこに趙子龍が現れる。
「日差しは強くはありませんが、ご注意を。それと、季常どのもその頬は……」
いかつい趙子龍が笑う。
「あ、もしかして、墨ですか?」
「そうですな」
子龍が拭くと、
「ありがとうございます。わぁぁ、良い年して恥ずかしい」
「今のうちですぞ?」
「そうですね。頑張ります」
「いやいや。これから全く休憩なしに、働かされるんじゃないかと思うのですよ」
「そんなことは……」
と思っていた季常が地獄を見る羽目に成る、一連のことの始まりだった。




