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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
季常さんが机上空論から実践に飛び出しました。
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劉備さんの心の動きです。

 士元(しげん)を置き去りにし、先を進む劉玄徳(りゅうげんとく)と関雲長(かんうんちょう)。

 最近の動きを、玄徳は不満と不信を覚えていた。




 もっともっと壊れていけ……そして、破滅すればいいのだ。


 大切なものであった存在の残滓(ざんし)は、言葉にも出せない程の酷い目に遭わされ、刻み、打ち捨てられた。


 元々、慈しんでいたのはその存在と子供……。

 そして、母と兄として慕う義兄弟達……。


 そして夢に描いたのはただ、大袈裟ではなく家族の幸せ……義兄弟と共に立ちあがり見た夢は壮大すぎて、何度も金策に失敗し、逆に愛する妻を差し出せばと言う男達に、嫌悪感を覚えたことが余計にささやかなものがいいと思えるようになっていった。


 それなのに、急に、あれ程妻を差し出せといってきていた男が態度を変えた。

 代わりに、娘を嫁に貰ってくれと言う。

 嫌悪する……軽蔑すら足りない。


「私には、妻がおりますので」


と切り捨てた。

 向こうは前はあんなにと思って、すり寄ることを望んでいたらしいがそれも余計に苛立たしかった。

 しかし、少しずつ集まってきていた資金援助が、突然打ち切られた。

 聞くと、その男からの命令だと言う。

 苛立った。

 もう結構だと別の町に移動しようとした時に、義弟の雲長が、


「兄者。折角集まってきていたのに、援助を諦めるのですか?」


そう言った。


「仕方あるまい。私は結婚している。妻と別れろと言うのか?」

「別れず、別れたふりをしては如何です?折角の援助ですよ?」

「ふりも嫌だ‼私に彼女を悲しませろと⁉」


 彼女は益徳(えきとく)と共に、何かを探している。

 ほっそりとした彼女と義弟は、まさしく美女と野獣である。


「ですから……」




 信じていた……この頃は、この義弟を……。

 だから、渋々頷いたのだ。

 あの女との結婚を……。


 だから信じられなかった……。


 妻を斬ったのはこの義弟で……穢したのも……。


 その上、正妻である自分に手を上げようとしたから殺したと言ってのけた女は、雲長と男女の関係があり……しかも、その関係は結婚してすぐからあったのだと……。


 赦せなかった……。

 長い間信頼していた、義弟の裏切り……。


 もう一人の弟は、裏切り等できないはっきりした人間だった為に尚更……。


 特に、自分を裏切ったと言うよりも、あの優しい愛らしい妻が信頼していたと言うのに、それを粉々に打ち砕き、それ以上に穢し踏みにじった。

 今更おくびにも出さないが、本心はこの男を憎んでいた。

 殺してやりたい程に……。


 それとこの隣の男と、あの女の間の息子の存在も嗤えたものである。

 あれは父親のふがいない姿を見せつけ、父親を殺させようと思っていたのだが目論見は外れた。


「あれだけは残念だったな……」

「何がです?」

「……いや」


 返事をされても、鬱陶しい。

 この男には倫理観もなく、ただの薄っぺらい自尊心しかないのだ。


 戦い、別れ、戦場で敵味方で再会……そして、再び共に放浪を続け、最後に荊州に移った。

 その間にも女との間に子供も何人か生まれたものの、女ばかり。


 あの女は残念がっていたが、こちらは喜んだ。

 自分の子供か解らぬ子供など、必要ないからだ。


 移動のおりに、娘達を置き去りにしてやったことすらある。

 殺されても良かったが、人質として何処かの家に嫁に行ったと聞いて、嘲笑ったものである。




 そして、あの女ももう死んだ。

 最後に生んだ子供はどこかに行き、多分死んでいる。

 本当ならば、あの女の目の前で、妻のように切り刻んでやっても良かったのだが、それだけは残念である。


「……阿斗(あと)は……もう7つか……」


 ふと呟く。


「そうですな……」

「あれは男ゆえ、嫁を選ばねばならん。お前には娘はおるのか?」


 わざと聞く。


「あ、いえ……わしには息子がおりますが、奪われ……関平も嫁ぎましたので、妻を探そうとは思っておるのですが……」

「そうか……お前に似合いの嫁がいればいいな」

「ありがとうございます。兄者」


 何が、『兄者』なのか……。

 こちらはもう、この男を弟とは思っていないのに……。


 雲長は、娘の関平(かんぺい)と共に浪費癖が噂になり、正式な三度目の妻が見つからない。

 その浪費癖を改めればよいのだが、それもできず、最近関平に理由を着けて無理矢理嫁がせ、その相手の家……馬季常(ばきじょう)の実家から金銀財宝を取り寄せては豪遊している。

 現在の着物も、そうして手にした物らしい。


 しかし玄徳は、季常からの書簡を読んでおり、季常にはすでに正式な妻がおり、その妻をつれて戻ると軍から離れている。

 死んでいたとしても生きていたことにして、この目の前の男にいい加減、自分の本分、身の丈を弁えろと誰か説教してやれと言いたくなる。

が、言っても聞かないのは分かりきったこと。


「では、阿斗にはどこの娘を妻に迎えよう?……そうだな。益徳の娘か公祐(こうゆう)の娘か……」


 わざと、雲長と仲の悪い名前を出す。


「いや、それは‼では、娘婿の季常の弟、幼常(ようじょう)に娘がおるとか……如何でしょう?」

「いや、それとも龐士元(ほうしげん)に、娘が二人おるな……」

「あ、兄者‼その者は裏切り者ですぞ‼あれ程、あの時に抵抗したではありませんか‼」

「士元は死んだのであろう?嫁に裏切りを咎めぬと言い、代わりに娘を差し出すようにすればよい。もしくは、あの嫁は男勝りだが中々の女。お前の嫁にすればよかろう?」

「そ、それは……そうですなぁ……」


 好色男め‼


 歪む表情を見て、心の中で吐き捨てる。

 こんな男の子供など、あの阿斗に近づけるものか……。

 あれは生まれ変わった妻……私のものなのだ……。

 この戦を終えて戻れば、取り戻し、妻であった頃の記憶を取り戻すようにさせねばならんのだ……。




 50も半ば……長年の戦場暮らしに、裏切り、喪失等で周囲を信じられなくなっていったかつての好青年は、歪み狂った夢を見る為に、今日も戦場へと進んでいくのだった。

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