孔明さんは金剛ちゃんと梅花ちゃんをつれて行くことになりました。
孔明は、厩から愛馬の月光を引き出し、出仕している息子の金剛を引っつかんで、子仲の屋敷に向かう。
今日は休みだった子仲はニコニコと迎え入れる。
「お休みの所失礼致します。子仲どの」
「構わないよ。それよりも金剛は……」
「子仲どの。お願いがございます」
孔明は拝礼をする。
「先程、滄珠と空を見ていた所、『西に向かっている鳥が、命が絶たれる……裏切りにより、成鳥は堕ちる』と……」
「『鳥』!!」
子仲はその比喩に息を飲む。
それに当たる人物は一人しかいない。
『鳳雛』……。
孔明の別名である、『臥竜』『伏竜』の対なる存在。
その彼に危険が迫っているのか?
孔明は、
「お願い致します。まだ正式に六礼を終わっておりませんが、お嬢さんをお連れしても構いませんでしょうか?」
「何か……あるのかな?」
「滄珠は、『囲碁を教えて欲しいとわがままを言っている。戻ってきて下さい』と伝えて下さいと言っていましたが、それよりももっと先に続けて何かがあります。ですので……」
子仲に耳を寄せて、囁く。
「……」
厳しい眼差しになった子仲は、金剛を見る。
「……出来るかな?」
「やるしかありません。お願い致します!!」
「……そうだね。では……」
子仲は、部屋の隅にいた侍女に、
「美梅と梅花を連れて来なさい。急ぎなさい」
「かしこまりました。馬車の準備は必要でございますか?」
「途中で伝えよ。そして、準備していた荷物の中で最も軽い荷物と、儀礼用の一式を運び込みなさい。それと旅の準備を。いいね?」
頷き頭を下げて下がり……しばらくして、美梅と梅花が姿を見せる。
「どうなさいました?貴方?あ、まぁ、失礼致しました。孔明さま、金剛さんもようこそ」
「お久しぶりです。美梅さま。そして梅花さんもこんにちは」
「こ、こんにちは。孔明さま。金剛お兄様」
年は喬と同じ年、つまり二つ下である。
「こんにちは、梅花どの」
子仲は梅花に、
「梅花。緊急にお前は二人について行きなさい。馬には乗れないだろうが、孔明どのが先行し、金剛と向かうんだ、いいね?」
「馬?馬に乗って良いんですか!?わぁぁ!!」
目を輝かせて、
「孔明さまのですか?金剛お兄様のですか?」
「止めなさい。破滅的な馬の乗り方をしないように。馬車に乗りなさい」
子仲が言い聞かせる横で、孔明が、
「金剛。士元に危険が迫っている。私が先導して向かう。お前は、梅花どのを守りながら後を来なさい。いいね?」
「ど、どうしてですか!?急に……」
「時間がないんだ。では、子仲どの。美梅さま先に向かいますので、金剛をよろしくお願い致します!!では」
頭を下げ立ち去る。
金剛は一瞬驚くが、すぐに頭を下げる。
「申し訳ありません。私は内容を良く聞いていないのですが、子仲さま、父が何と?」
「金剛」
席に案内した子仲は、お茶を入れようとしたら、美梅が茶器をとり、準備を始める。
「ごめんね」
妻から茶器を受けとると、
「孔明どのが、滄珠姫と空を見上げると凶兆が現れたそうだよ」
「えっ……凶兆が!!では先程の『鳥が堕ちる』と言うのは比喩ですか?」
「そうだね、西に殿は出掛けていった。西に鳥が堕ちる……危険が及ぶと見たのだよ」
「『西』に『鳥』が……あれ?」
キョトンとする金剛に、
「どうしたのかな?」
「いえ、確か、私の実母が一度教えてくれたのですが……ここから成都に向かう道には、崖に囲まれた狭い道があるのだとか」
「狭い道?」
子仲は目を見開く。
「はい、両側にきり立った崖があり、細い道を進みます。上から連弩や強弓で一斉に攻撃されれば!!士元叔父が、無事だといいのですが……」
「それを防ぐ為に、孔明どのが向かわれたのだよ」
「私が、もっと強ければ……」
父の片腕として戦場に立つのに……。
唇を噛む金剛に、
「まだ戦場に立つのは早すぎる。金剛。お前のような優しい子が立つのは酷だ」
「解っています……私がもっと強くなりたいです。力ではなく、心も強く……!!」
「では、金剛。梅花を頼むよ」
「……は?はぁ……?」
突然の言葉に、金剛は首を傾げるが、
「孔明どのが言っていたよ。君の実の父親に会いに行かなければいけない。その為に、梅花を連れていっても良いでしょうか?とね」
「何で、梅花どのが……漢中ですよ?長く険しい道ですよ?」
「わぁぁ……!!楽しみです!!お出掛けです!!」
喜ぶ梅花に、顔をひきつらせる。
「あの、梅花どの?危険な所ですよ?喜んでどうするんです?ね?もう少し考えましょう」
「わぁーい。お出掛けです!!お父様、お土産いりますか?」
「う~ん、そうだね。西には何か珍しい獣がいるそうだよ。黒と白の大きな獣らしい」
「わぁぁ!!じゃぁ、連れて帰ってきます!!楽しみです!!」
両親の話もずれている。
溜め息を付きかけ、美梅が苦笑する。
「ごめんなさいね。旦那さまも、梅花も珍しいものが大好きなのよ」
「そ、そうなんですね。じゃぁ、向こうでのお土産に、何か素敵なものをお送りしますね」
「そんなのはいいのよ。それよりも、気を付けて行ってきなさいね?娘も大事だけれど、私にとって金剛どのは息子ですからね」
優しい言葉に、
「ありがとうございます!!無事に戻ってくることを考えます」
しばらくして、広が届けてくれた愛馬に乗り、馬車を守りながら、
「梅花どのもよろしくお願い致します。私も頑張りますので」
「あ、俺も!!」
やんちゃ坊主の一言に、
「何で、お前がついてくるんだ?」
「だって、喬兄ちゃん体調悪いし、兄ちゃんは滄珠の守役で喬兄ちゃんいないと動かないし、循兄ちゃんは実践無理だよ」
ガックリする。
その言葉通りで情けない……。
「じゃぁ、皆、行こうよ!!何か面白いもの探せるよ!!」
広の言葉が響いたのだった。




