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第4話 ダンジョン攻略!


翌朝、俺たちは冒険者ギルドへ向かっていた。

 隣を歩くのは、銀色の髪をなびかせた美少女だ。整った顔立ちに、どこか神々しさすら感じさせるその少女の姿は、道行く人々の視線を集めていた。


「なあ、お前。とりあえず冒険者になるんだろ?」


「いきなりどうしたんだ!」


「名前をつけようと思ってな。スライムだから……スーでいいか?」


「スー! いいじゃん、それ! オレは、スー! 今日からスーだ!」


 スーは満面の笑みを浮かべた。

 名前をつけただけなのに、ここまで喜んでもらえるとは思わなかった。


「そんなに気に入ったのか?」


「うん! 名前があるっていいな!」


 そう言って、スーはうれしそうに俺の腕に抱きついてきた。

 見た目だけなら、どこぞのお嬢様と仲良く歩いているように見えるだろう。

 中身が魔物だと知っている俺としては、なんとも不思議な気分だった。


「それよりケンイチ! 今日の朝飯は?」


「……まずは仕事だ。金がないと飯も食えないからな」


「ええーっ! 先に飯にしようよ!」


「その飯代を稼ぎに行くんだよ! 馬鹿野郎!」


 そんなやり取りをしながら、俺たちは冒険者ギルドへ入った。

 受付には、初日に対応してくれた女性がいた。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「こいつの冒険者登録をお願いします。」


「こちらの方の冒険者登録をご希望ですね!」


「うん! オレ冒険者になる!」


 スーは元気よく返事をした。

 受付嬢は少し驚いたようだったが、すぐに笑顔に戻った。


「かしこまりました。それでは、お名前をお願いします」


「スー! オレはスー!」


「スー様ですね。承りました」


 受付嬢は書類に名前を書き込んでいく。

 どうやら、見た目だけでなく受け答えも普通の人間にしか見えないらしい。

 俺以外に正体を知っている人間はいないのだから、当然といえば当然か。


「それでは、こちらが冒険者証です。依頼を受ける際は、こちらを提示してください」


 スーは渡された冒険者証を受け取り、俺はさっそく依頼掲示板へ向かった。

 並んでいる依頼書には、魔物の討伐や荷物運び、薬草採取など、さまざまな仕事が書かれている。

 問題は報酬だ。

 薬草採取は安全そうだが、稼ぎは少ない。荷物運びも悪くないが、今すぐまとまった金が欲しい。

 そこで俺の目に留まったのは、ダンジョンの攻略依頼だった。

 報酬は銀貨5枚。

 今の俺にとっては、かなり魅力的な金額だ。


「よし、これにしよう」


「おっ! いっぱいお金もらえるのか?」


「そうだ。これを成功させれば、しばらく飯には困らないはずだ」


「やったー! じゃあ、早く行こうぜ!」


 スーはすっかり乗り気だった。

 俺も勢いよく依頼書を手に取ったが、受付へ持っていく途中で、ふと足が止まる。


 (スーってどれくらい戦えるんだ?)


「なあ、スー。お前、戦えるんだよな?」


「ん? 戦えるぞ!!! 俺は最強だからな!」


「本当に最強なのか? 俺以外のやつと戦った経験は?」


「……ないぞ! でも俺は最強だ!!」


「………」


 勢いで依頼を選んだことを、早くも後悔し始めていた。

 しかし、今さら引き返すわけにもいかない。金を稼がなければ、今日の飯すら危ういのだ。

 俺は覚悟を決め、受付へ依頼書を提出した。


   ◇ ◇ ◇


 ダンジョンの入口は、街から少し離れた岩山の麓にあった。

 周囲には武装した冒険者たちの姿もあった。剣や槍を持ち、仲間同士で作戦を確認している。


「ケンイチ、あそこ暗いぞ!」


「見ればわかる。ダンジョンだからな」


「お化けとか出るかな?」


(スライムでもお化けとか知ってるんだな……)


「魔物は出るんじゃない?」


「おおっ! 楽しみだな!」


 こいつ、本当に緊張感がない。

 俺はため息をつきながら、スマートフォンを取り出した。

 依頼書に書かれていた情報を、もう一度読み直す。


「よし、行くぞ! 無理だと思ったらすぐ逃げるからな」


「無理? 何言ってんだ!俺たち最強コンビだろ!!」


「……」


 俺たちはダンジョンへ足を踏み入れた。


 洞窟の中は薄暗く、壁には淡い光を放つ鉱石が埋まっていた。

 しばらく歩いたところで、前方から物音が聞こえた。

 俺は足を止め、スーにも静かにするよう合図を送る。


手には木の棍棒を持ち、腰には粗末な布を巻いている。黄色い目で俺たちを見比べると、ゴブリンは警戒するように棍棒を構えた。


「なんだ! お前らは!!」


「ゴブリンも喋るのか……」


「ゴブリンだって言葉くらいしゃべるだろ! お前、そんなことも知らないのか!」


 スーが少しニヤけながら俺のことを煽ってくる。なんかこいつウザいな


「うるさい! 俺はこの世界に来てまだ間もないんだよ!」


 スーが一歩前に出た。

 ゴブリンは俺たちを見て、鼻で笑った。


「二人だけか? しかも片方は武器も持っていないじゃないか。それで俺を倒すつもりかよ、ずいぶんと舐められたもんだな」


「俺には武器があるだろ!」


 俺は腰の短剣を抜いて見せた。

 ゴブリンはそれを一瞥し、さらに笑った。


「そんな小さな刃物で何ができる!」


「……おっしゃるとおりです」


 思わず本音が漏れた。

 だが、今さら引き返すわけにもいかない。


「スー、任せた!」


「おう! 任せろ!」


 スーは拳を握りしめ、ゴブリンに突っ込んだ。


「くらえーっ!」


 勢いよく繰り出された拳を、ゴブリンは軽く身をひねってかわし。


「遅い!」


 次の瞬間、棍棒がスーの頭に振り下ろされた。


「いてっ!」


 スーは頭を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。


「おい! 大丈夫か!」


「い、痛い……! こいつ、思ったより強いぞ!」


「いや、お前が弱いんじゃないのか!?」


所詮はスライムだ、スライムがゴブリンに勝てないと言われたら当然っちゃ当然か。


「なんだとー!」


 言い合っている場合ではない。

 ゴブリンは再び棍棒を構え、今度は俺に向かって走ってきた。


「うわああっ!」


 俺は慌てて短剣を構えた。

 ゴブリンが棍棒を振り下ろす。俺はとっさに横へ飛び退いたが、足元の石につまずき、派手に転んでしまった。


「ぐっ……!」


 起き上がろうとした瞬間、目の前にゴブリンの棍棒が迫った。

 俺は短剣を両手で握り、どうにか攻撃を受け止めようとした。


「うおっ!?」


 短剣が弾かれ、手から落ちそうになる。

 力が違いすぎる。

 そもそも俺は、剣の扱い方すらまともに知らないのだ。


「ケンイチ、危ない!」


 スーがゴブリンに飛びつき、俺から引き離した。


「今のうちに逃げろ!」


「お、お前はどうするんだよ!」


「あとで追いつく!」


 その言葉を信じていいのかはわからなかったが、俺は立ち上がった。


「お前それ死亡フラグだからな! これからは2度と言うなよ!!!」


「なんだ! 死亡フラグって!!!」


 俺は落としかけた短剣を拾い、来た道へ走り出した。

 背後からスーの叫び声が聞こえたが、立ち止まる余裕などない。


 しばらく走ると、スーも追いついてきた。


「ケンイチ! 逃げるぞ!」


「言われなくても逃げてる!」


 俺たちは必死にダンジョンの入口まで走り抜けた。

 ようやく外へ出ると、その場にへたり込んだ。


「はあっ……はあっ……死ぬかと思った……」


「オレも……もう戦いたくない……アイツ強すぎるよ……」


 スーは頭を押さえている。

 結局、ゴブリンを一匹も倒せず、依頼は失敗。報酬はゼロだ。

 おまけに、ダンジョンの魔物が思った以上に強いことまでわかってしまった。


「……帰るか」


「飯は?」


「金がないから、安いのにする」


「ええーっ!ヤダヤダヤダ!!!」


スーの悲鳴を聞きながら、俺たちは街へ戻った。

 冒険者になれば、少しは生活が楽になると思っていた。


 だが、現実は甘くない。

 俺には戦う力も、技術も、才能もない。この世界で生きていくには、もっと頭とそれを上手く使える力がいるようだ。

    

続く

 

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