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第三話 スライム、女神になる


 とりあえずスライムを街に入れ、飯を食わせるため俺たちは作戦会議をする。だがしかし、結局は手詰まりになってしまった。


「うーん……どうしよう。スライムのままじゃお店にも入れないしな……」


 俺が頭を抱えていると、隣にいたスライムが突然顔を上げた。



「あっ! そうだ、俺! 擬態能力持ってたんだった!」


 このスライムには擬態能力があるみたいだ。なんかファンタジーというより、いかがわしい本で見たことあるような展開だな……


「擬態能力!? お前そんな能力持ってたのか?」


(なんで忘れてんだこいつ)


 流石にこの展開は俺でもビビる。

 だが……擬態能力の話が本当なら、俺の異世界生活が楽になるかもしれない、単純に人手が増えるわけだ。金稼ぎが楽になるかもしれない


「まあ、戦闘であんまり使わないからな! 俺も存在自体忘れてたよ! まあ、とりあえずお前の姿に擬態すれば街に入れるんだな!!」


 スライムは嬉しそうに飛び跳ねたあと、俺の姿をじっと見つめた。そして、少し考え込んでから擬態を始めようとする。


「いや無理だろ、あんま人間様舐めんなよ」


「じゃあどうやって街に入ればいいんだよ! 俺腹減って死にそうだぞ!!」


(あ、そういえば1人だけ行けそうなやついるじゃん!)


 スライムの話を聞いた俺はポケットからスマートフォンを取り出し、女神アリアにビデオ通話をかける。

 

「それ! さっきのやつだよな! 何してんだ!」


「まあ、見てればわかるって」

 

 と、そんなことを言っている間に通話が繋がり、アリアの声が聞こえる。


 「もしもし、アリアです! どうしたんですかいきなりビデオ通話なんて、もしかして私の顔を見たくなっちゃいましたか?」


 アリアは画面の向こうで嬉しそうに笑っている。相変わらず、自分に都合のいい解釈をする女だ。

 俺は返事をせず、スマートフォンをスライムに向けた。


「なあ、こいつの姿に擬態できるか?」


 できないとなると、かなり面倒なことになる。道端の人に擬態させる手もあるが、それはさすがに人としてどうなんだろうか……


「おっ、人間か! やってみる!」


 スライムは画面に映るアリアの顔をじっと見つめた。


「あれ? ケンイチさん、聞いてます? もしかして照れてるんですか? ふふっ、仕方ありませんね! 美しい女神を前にしたら、言葉も出なくなりますよね!」


 俺の反応がないことなど気にも留めず、アリアは勝手に話を続けている。

 その間に、スライムの体が変化し始めた。丸くて半透明だった体が人間の輪郭を形作り、髪や顔、服まで整っていく。そして数秒後、俺の目の前には画面の中にいるアリアとそっくりな姿の女の子が立っていた。


「おお……本当に化けた」


「どうだ! そっくりだろ!」


 スライムは自分の姿を確認するように両手を広げ、得意げに笑った。声までは再現できていないようだが、見た目だけなら十分すぎる出来だった。


「……え?」


 画面の向こうでアリアが固まった。自分と同じ姿の存在が俺の隣に立っているのだから、驚くのも無理はない。


「ええっ!? ななな、なんですか、その子!? なんで私と同じ姿をしてるんですか!?」


「オレ、擬態能力があるんだ!」


 スライムが元気よく答えると、アリアはさらに目を見開いた。


「ス、スライム!? しかも、私の姿に擬態してる!?」


 アリアは俺とスライムを交互に見たあと、何かを思いついたように顔を赤くした。


「なんで私に擬態!? まさかケンイチさん、私の姿をしたスライムと……破廉恥ですっ!!!」


「うるせえ! 気分で適当にダーツ投げて俺を異世界に飛ばした女に、そんなことするわけねえだろ!」


「ひどくないですか!?」


 アリアが画面の向こうで抗議しているが、俺は相手にせず、普通に通話を切り、スマートフォンをポケットにしまった。


「はあ……あいつと喋ってるとちょっと疲れる……」


 スライムの擬態能力は、使い方次第で役に立ちそうだ。町でアリアの姿に化けてもらえば、周囲に魔物だと気づかれずに行動できるかもしれない。


「なあ、スライム。これからはできるだけ人間の姿でいてくれないか?」


「人間の姿? ああ、この姿のことだな!」


「そうだ。まあ……できれば、普通の人間の姿の方がいいんだけどな」


「あいわかった! 任せとけ!」


 スライムは元気よく返事をした。どこまで理解しているのかは少々怪しいが、ひとまず頼んでおこう。

 それよりも、俺にはもっと差し迫った問題があった。


「取りあえず、お前、腹減ってるんだろ? 街まで行くか?」


「行く! 街にはうまいものがいっぱいあるんだろ?」


「さあな。俺もそんなにあの街にいてないからあんまりわからん」


 もっとも、俺だって腹は減っているし、金も稼がなければならない。まずは街へ行って食事を確保し、仕事を探す。それから今後の生活について考えればいい。

 俺たちは街へ続く道を歩き始めた。

 とりあえず、異世界での生活は、まだ始まったばかりだ。頼りになるのかどうかもわからないスライムと一緒に、まずは目の前の問題を片づけよう。


 しばらく歩くと、街を囲む外壁が見えてきた。

 とりあえず、俺は門をくぐると、まず食事ができる店を探した。仕事を探すにしても、腹が減っていては頭も回らない。何より、隣を歩くスライムがさっきから食べ物の話ばかりしている。

 通りを歩いていると、肉を焼く香ばしい匂いが漂ってきた。匂いにつられるようにして近くの食堂へ入り、空いている席に腰を下ろす。


「好きなものを頼んでいいぞ」


「本当か!?」


 スライムは目を輝かせた。


「ただし、俺が払える範囲でな、」


(銅貨3枚だけだけど……)


「なんだ、それ!」


 スライムは不満そうに声を上げたが、すぐにメニューを覗き込んだ。俺も手持ちの金を確認しながら、値段の安い料理を探すことにした。

 結局、俺はサラダとスープを頼み、スライムには肉料理をひとつ注文した。ロボットにより料理が運ばれてくると、スライムは待ちきれない様子で食べ始めた。


「うまい! これ、すっげえうまいぞ!」


「そりゃよかった」


 俺も料理を口に運んだ。

そして腹が満たされると、ようやく少し落ち着いて考えられるようになった。


 さて、これからどうするか。


 この世界で生きていくなら、安定した収入が必要だ。町で仕事を探すのもいいが、せっかく異世界に来たのだから、冒険者という仕事も気になる。魔物を倒したり、依頼をこなしたりして金を稼ぐ仕事だと昨日聞いたし。

 もっとも、俺は戦闘が得意なわけではない。さっきのスライムとの戦いだって、力で勝ったわけではなく、周囲にあった道具を使って何とか切り抜けただけだ。

 正直、一人で冒険者をやっていくのは不安だった。

 俺は向かいで夢中になって肉を食べているスライムを見た。


「なあ、お前」


「ん? なんだ?」


「俺と一緒に冒険者のパーティーを組まないか?」


「ぱーてぃー?」


 スライムは口を動かしたままきょとんとした顔をした


「ああ。これから魔物を倒したり、依頼を受けたりして生活していこうと思うんだ。でも、俺一人だと心細いからな。お前も一緒に来てくれると助かる」


「オレも一緒に冒険するのか?」


「そういうことだ。もちろん、嫌なら無理にとは言わない」


 召喚できるからといって、何でも俺の言うとおりにさせたいわけではない。こいつにも意思があるし、やりたいことだってあるだろう。

 スライムは少し考えるように黙り込んだあと、手元の肉を見た。


「冒険者になったら、うまいものいっぱい食えるのか?」


「依頼をこなして金を稼げればな」


「じゃあ、やる!」


 返事が早かった。


「本当にいいのか?」


「おう! ケンイチと一緒に行くぞ!」


俺は思わず笑ってしまった。

 一人より二人。単純な理屈だが、誰かが一緒にいてくれるだけでも心強い。俺には強さも金も足りないが、知恵を絞って工夫することならできる。スライムの擬態能力だって、使い方次第では大きな助けになるはずだ。

 もちろん、これから先、うまくいくことばかりではないだろう。それでも一人で抱え込むよりはいい。


「よし、決まりだな。これからよろしく頼むぞ」


「おう! よろしくな、ケンイチ!」


 こうして俺は、美少女の姿をしたスライムとこの世界で初めてのパーティーを組み一緒に冒険することになった。


(ってか、2日目長くね?)


続く


この世界の通貨は下から順に

鉄貨→銅貨→銀貨→金貨の順になる


 鉄貨が100円、銅貨が1000円、銀貨が10,000円

そして金貨が10万円というふうになっている。

 らしい。


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