第二話 なんでダーツで転移者決めてんだよ
先行きは不安だ。だからといって、いつまでも悩んでいるわけにもいかない。まずは仕事を見つけて、飯を食う金を稼がなければ。
取り敢えず俺はスマートフォンを取り出し、女神アリアに通話をかけた。どうしても聞いておきたいことがあったのだ。
「もしもし! アリアです!」
「あのアリア様、そもそも、どうして俺をこの世界に呼んだんですか?」
「そういえばその話してませんでしたね! あなたをこの世界に呼んだのは、ダークドラゴンを倒してもらうためですよ!」
「ダークドラゴン?」
聞き覚えのない名前に、俺は首をかしげた。
「この世界を滅ぼすほどの力を持った恐ろしいドラゴンです。実は最近、その封印が解けてしまったんですよ!」
「いや、そんな大事な話、初耳なんですけど!?」
「今、説明しましたからね!」
「そういう問題じゃない!」
世界を滅ぼすドラゴンを倒すために、俺は異世界へ呼ばれたらしい。
だが、俺のステータスは攻撃力も魔力もほぼゼロ。おまけに昨日はスライム一匹にも勝てず、逃げ帰ったばかりだ。
「だったら、なんで転移者をダーツで選んだんですか!? もっとまともな選び方とか無かったんですか?」
「……気分?」
「お前やばいって……」
俺は頭を抱えた。世界の命運がかかっているというのに、選ばれた理由が気分、しかも、能力を与えてくれるわけでもない。
「せめて、戦える能力くらい与えてください
よ!」
「え? 一応スマホにたくさんのアプリ入れてあげましたよね? あれでなんとか頑張ってください!!」
「はあ……」
「まあ、私これから用事があるのであとは1人で頑張ってくださいね!」
「ちょ、待て! まだ話は――」
通話が切れる。
「………」
いや、一旦文句を言うのは後回しだ。今は自分の生活をどうにかしなければならない。俺は仕事を探すため、街の広場へ向かった。
そこで見つけたのは、荷物を積んだ運搬ロボットと、求人の札を掲げる男性だった。
「運搬ロボットの護衛をしてくれる人はいないか! 街の外を通るから、魔物が出ることもある。荷物を守ってくれれば報酬を出すぞ!」
俺はすぐに声をかけた。戦闘経験はほとんどないが、何もしないよりはいい。
「剣は持っているか?」
「持っていません」
「そうか。無理に戦わなくてもいい。周囲を警戒して、危険があればロボに知らせてくれ」
「分かりました!」
こうして俺は、運搬ロボットの護衛をすることになった。
ロボットの名前はハコ丸、見た目は人間の腰ほどの高さしかない、小型の運搬ロボットだ。
四角い胴体の下には車輪が取り付けられ、短いアームが左右に一本ずつ伸びている。頭に当たる部分には横長のディスプレイがあり、そこに目や口の代わりとなる簡単な表示が浮かんでいた。全体的に角ばった無骨な造りで、装飾らしいものはほとんどない。
胴体の後ろには荷物を載せるための台があり、そこには木箱や麻袋が崩れないよう固定されていた。小さな車体に対して荷物はかなりの量だったが、ロボットは重さを気にする様子もなく、一定の速度で進んでいる。
「こいつが、今回の護衛対象か……」
「……無口なやつだな」
もちろん返事はない。
俺たちは街を出て、倉庫へ続く道を歩き始めた。ハコ丸は一定の速度で荷物を運び、俺はその隣で周囲を警戒する。しばらくは何事もなく、楽な仕事だと思い始めた頃だった。
「おっ、うまそうな匂いがするぞ!」
草むらから緑色のスライムが現れた。昨日、俺が討伐に失敗した相手だ。
「またスライムかよ……」
「おい、そこのロボット! 荷物をよこせ!」
ハコ丸は反応しない。表示板には《運搬任務継続》と出ている。
「無視するな! 力ずくで奪ってやるっ!!」
スライムが体を縮め、ハコ丸へ飛びかかった。俺は慌てて叫んだが、ロボットは止まらない。スライムはコンテナに取りつき、荷物を狙って体を伸ばした。
「おい! それは仕事の荷物だぞ!」
「腹が減ってんだ! 早く食べさせろ!」
スライムは今度、俺に向かって飛びかかってきた。俺は横へ避けたが、まともに戦えば勝ち目はない。剣もないし、素手で殴っても効果は薄いだろう。
逃げるか、それとも、何か方法を考えるか。
俺はスライムの動きを観察した。
攻撃する前には必ず体を縮める。そして、飛び出したあとは方向を変えにくい。
(なら、そこを利用できないか?)
周囲を見回すと、道端に空の木箱が置かれていた。さらに、ハコ丸のコンテナには荷物を固定するためのベルトがある
(……これ、使えるかも?)
俺は木箱を持ち上げ、スライムから少し離れた場所に置いた。
「おーい! 俺を捕まえられたら、食料全部くれてやるぞ!!!」
「本当か!? 絶対捕まえてやる!」
スライムが飛びかかる。俺は直前で横へ避けた。勢いを止められなかったスライムは、そのまま木箱の中へ飛び込んだ。
(よし! かかった!)
すぐに蓋をかぶせ、ハコ丸のコンテナから外した固定ベルトで箱を縛る。さらに重い荷物を上に載せ、蓋が開かないようにした。
「おい! 早く出せっ!」
「うるさい! 黙れバカ」
俺はハコ丸の道具袋を探り、荷物の梱包に使う先の尖った留め具を見つけた。これなら、箱の隙間から核を狙えるかもしれない。
木箱の小さな隙間をのぞき込み、スライムの動きを待つ。しかし、核は体の奥を移動しており、簡単には狙えなかった。
「くそっ……焦るな」
俺は留め具を構えたまま、スライムの動きをじっと見つめた。やがてスライムが逃げようともがき、体を大きく動かした瞬間、核が隙間の近くまで移動する。
「今だ!」
留め具を突き入れる。すると、スライムの動きが止まった。緑色の体が徐々に崩れ、やがて動かなくなる。
「……倒せた」
俺はその場に座り込み、大きく息を吐いた。昨日は逃げるしかなかった相手を、自分の頭で考えて倒せたのだ。
少しだけ、この世界で生きていく自信が湧いてきた。
それと同時にハコ丸の表示板が切り替わった。
《運搬任務継続。荷物の損傷なし》
「……最後まで仕事優先かよ」
ハコ丸は何事もなかったかのように歩き始めた。俺は慌てて立ち上がり、その後を追いかける。
それから俺たちは、魔物に遭遇することなく倉庫へ到着した。荷物に損傷がなかったこともあり、依頼主は約束どおり報酬を支払ってくれた。
受け取ったのは数枚の銅貨。大金とは程遠いが、所持金ゼロだった俺にとっては大きな一歩だ。
俺はスマートフォンを取り出し、アプリの一覧から『魔物図鑑』を開いた。
この世界のスマートフォンには、魔物の情報を記録するためのアプリが入っている。魔物の名前や特徴を調べられるだけでなく、倒した魔物を登録すれば、仲間として召喚できるらしい。
「ええと、これでいいのか?」
《魔物の登録が完了しました》
《対象:スライム》
《召喚可能になりました》
「おお……本当にできた」
これで、こいつを仲間として召喚できるらしい。
魔物を倒して終わりではなく、登録すれば仲間にできる。どうやら、この世界では魔物との付き合い方も、俺が知っているゲームとは少し違うようだ。
そして、画面を操作すると、目の前に緑色のスライムが現れた。
「えっ、ここどこ!? 何でオレ、ここにいるんだよ! 」
「いや、俺も詳しいことは分からないんだけ
ど……どうやら、倒した敵モンスターに図鑑に登録したら、魔物を召喚できるみたいなんだ……」
「どういうことだよ!」
「こっちが聞きたいわ!」
自分で呼び出しておいて何だが、いきなり文句を言われても困る。
しかも、目の前のスライムは、先ほど倒した個体のようだ。これが召喚というものなのだろうか? そして、俺はスマートフォンの画面を見つめた。魔物を倒せば、こうして召喚できるようになる。これを使えば今後の戦闘や生活でも役に立つな。
「まあ……とりあえず、飯でも食べるか」
「飯!? オレも食べたい!」
「お前、絶対に街に入れないだろ……」
「あ」
スライムは自分の体を見下ろした。どうやら、そこまでは考えていなかったらしい。
異世界生活二日目。俺は初めて魔物を倒し、仕事の報酬を手に入れた。女神がダーツで選んだという、ふざけた理由で始まった異世界生活だが、文句を言っているだけでは何も変わらない。
まずは金を稼ぎ、飯を食い、明日も生き延びる。
今の俺にできることは、それくらいだ。
「……先が思いやられるな」
「なあ、飯はまだか?」
「お前は少し黙ってろ!」
こうして俺の異世界生活2日目は騒がしいスライムとともに終わろうとしていた。
続く




