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第二十二話 遠征同行権

 食事を終え、俺たちは円卓の間へ移動した。

 ゲーム時代、ギルドメンバーで作戦会議をするために作った部屋。

 実際には雑談やどうでもいい話の方が多かったが、今は本当に会議らしいことをすることになる。

 俺が一番奥の席へ座る。

 左右にマイン、サラ、エル、夏。

 マジカは椅子には座れないので、少し後ろで伏せている。

 そのさらに後ろには、さっき名前をつけた五体。

「じゃあ」

 全員を見る。

「これからどうする?」

 沈黙。

 最初に口を開いたのはマインだった。

「あるじ様がお望みになる世界を作るべきかと存じます」

「……世界?」

 いきなり規模が大きい。

「我々の力をもってすれば、あるじ様の障害となる勢力を排除することは難しくないでしょう」

「ちょっと待って」

「はい」

「俺、世界征服したいとは言ってないよね?」

「無論でございます」

「よかった」

「力による征服のみを望んでおられるとは、私も考えておりません」

「……ん?」

 安心するのが早かった気がする。

「先日のゴブリンたちへの御対応で理解いたしました」

 マインが続ける。

「あるじ様は、力ある者にはその力が生み出した結果を背負う責務があるとお考えになっている」

 サラたちも頷いている。

「そして、御自ら庇護を求めた者を見捨てることもなさらない」

「いや、それは……」

「ゆえに、ただ世界を屈服させれば良いというものではない」

 マインの瞳が輝く。

「世界の方から、あるじ様へ従うことを望むよう導くべきなのですね」

「違うと思う」

 即答した。

 マインが少し固まった。

「俺は別に世界が欲しいわけじゃない」

「では……」

「見たいんだよ」

 窓の向こうへ視線を向ける。

 知らない世界。

 ガルディアだけでも、ゲームでは見たことのないものばかりだった。

「この世界を見て回りたい」

 知らない街。

 知らない国。

 知らない種族。

 見たことのない料理や魔法。

「せっかく異世界に来たんだからさ。遠くにも行ってみたい」

「お供いたします」

 マインが即答した。

「当然、私も」

 サラ。

「私もですわ」

 エル。

「参ります」

 夏。

「御供いたします」

 マジカ。

「いや、全員は無理だよ」

 空気が止まった。

「……あるじ様」

 マインの声が少し低くなる。

「今、何と?」

「全員では行かないって」

「何故でしょう」

「何故って」

 俺は周囲を見る。

 ギルドハウス。

 森。

 ゴブリン。

 そして、新しく召喚した五体。

「ここを誰が見るの?」

 五人が黙った。

「ガルディアとの関係もある。森もまだ何がいるか全部分からない。ゴブリンたちだって加わったばかりだろ」

「……」

「六人全員で何週間も遠征するのは無理だよ」

 それに。

「冒険者登録もしてるんだから、時々は六人で普通に依頼も受けたい」

「六人で?」

「うん」

 登録したパーティーなのに一度も全員で活動しないのは変だ。

 何より俺自身、五人全員で依頼へ行くのも楽しそうだと思っている。

「表向きは冒険者パーティーなんだし、たまには全員で活動しよう」

 女性陣の表情が少し明るくなった。

 マジカも耳を動かした。

「ただ、長い遠征は別」

 再び真剣な顔になる。

「だから役割を決めよう」

 俺は指を折る。

「マインは全体の管理」

「はい」

「サラは偵察と情報収集」

「御意」

「エルは街とか、人と関わる仕事。情報収集や交渉」

「お任せくださいませ」

「夏はギルドハウスの防衛と魔法関係」

「はい」

「マジカは森側の防衛。ゴブリンたちのことも頼む」

「承知いたしました」

「で」

 全員を見る。

「自分がいなくても担当の仕事が回るようになったら、遠征についてきてもいいよ」

 静かになった。

 さっきより長い。

「……あるじ様」

 マインが慎重に確認する。

「それは、我々が担当する業務を他者へ任せられる状態にすれば、あるじ様への同行をお許しいただけるということでしょうか」

「そういうこと」

 召喚獣たちを見る。

「ちょうど補佐もできたし」

 ネネ。

 ガル。

 ミム。

 フユ。

 ゴウ。

「この五体やゴブリンたちを育てれば、みんなも動きやすくなるだろ?」

「……なるほど」

 マインが静かに頷く。

 次の瞬間。

「ネネ」

「はい」

「本日より、私の業務を全て覚えていただきます」

「承知いたしました」

「早くない?」

「善は急げと申します」

 サラも立ち上がった。

「ガル」

 ガーゴイルが振り向く。

「森周辺の監視経路を構築します。飛行可能なゴブリン、もしくは代替となる魔物も探します」

 ガルが深く頷く。

「サラ?」

「あるじ様より賜りました条件を満たすためでございます」

「条件ってほど大袈裟じゃないよ」

「私にとっては重要でございます」

 サラの頬が僅かに紅潮している。

「あるじ様の御傍へ同行する権利を、必ず得てみせます」

「権利……」

 何か競技みたいになってない?

「ミム」

 エルがスライムを抱き上げる。

「私たちも忙しくなりますね」

「ミム!」

「商人、宿、酒場、冒険者。私が直接行かなくても情報が集まる仕組みを作りましょう」

「エルまで」

「当然ですわ」

 エルが妖艶に笑う。

「だって、あるじ様との長旅ですもの」

「旅行だけどね」

「ええ。私にとっては、それで十分です」

 夏はフユを見ている。

「フユ」

「ハイ」

「防衛設備を全て覚えて」

「全テ?」

「全部」

 フユが固まる。

「無理させないでね」

「大丈夫です」

「フユの顔が大丈夫じゃないけど」

「ゴーレムに表情はありません」

「そういう問題かな」

 そしてマジカ。

「ゴウ」

「ハッ!」

「行くぞ」

「ドチラヘ?」

「ゴブリンの里だ」

「今カラ!?」

「一週間」

「ハ?」

「一週間で、私が不在でも森を守れる部隊を作る」

「……ハッ!」

 ゴウの返事に一瞬だけ迷いがあった。

「みんなさ」

 俺は思わず笑った。

「別に明日遠征するわけじゃないよ?」

 五人がこちらを見る。

「承知しております」

 マインが代表して答える。

「ですが、あるじ様」

「何?」

「機会をいただいてから備えるようでは遅いのです」

「……確かに」

 正論だ。

 それ以上何も言えなかった。

 ただ。

 どうして全員がそこまで必死なのか。

 俺はまだ、あまり深く考えていなかった。

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