第二十一話 五人と五体
「……喋った」
俺の前に跪く五体の召喚獣を見ながら、思わず呟いた。
「あるじ様?」
マインが首を傾げる。
「いや、ゲームの時は喋らなかったんだよ」
召喚獣。
ゲームでは戦闘や採取の補助に使う、いわゆるペットに近い存在だった。
呼び出せば命令には従う。敵がいれば戦うし、設定された能力も使う。
でも、それだけ。
NPCのように会話したり、細かい設定を書き込んだりする存在ではなかった。
だから――。
「名前、ないんだよな」
「名が?」
マインの表情が変わった。
「うん。ゲームだと『アラクネ召喚獣』とか『ガーゴイル召喚獣』みたいな表示だったから」
俺としては、それで困らなかった。
使う時だけ呼び出して、終われば戻す。
名前をつけようと思ったことすらない。
しかし今は違う。
五体とも明らかにこちらを見ている。
俺の言葉を理解している。
そして、自分で考えているように見える。
「このまま『おい、アラクネ』とか呼ぶのもな……」
アラクネの女性が僅かに顔を上げた。
何となく期待されている気がする。
「じゃあ、今つけるか」
その瞬間。
五体の空気が変わった。
「あるじ様御自ら、名を?」
マインまで少し驚いている。
「そんな大したこと?」
「……いえ」
絶対、大したことだと思ってる顔だ。
まずはアラクネ。
女性型の上半身と、巨大な蜘蛛の下半身。複数の腕を持ち、見るからに器用そうだ。
「うーん……ネネ」
深い意味はない。
蜘蛛の巣を張るから、何となく語感で決めただけだ。
「ネネ……」
アラクネが自分の名前を確かめるように繰り返す。
そして深く頭を下げた。
「この身に名を賜りましたこと、生涯の誉れといたします」
「そんな重く受け取らなくていいから」
次。
ガーゴイル。
石の身体と翼。
無口そうというか、実際さっきから一言も喋っていない。
「ガル」
短くて呼びやすい。
ガーゴイルは片膝をつき、拳を胸へ当てた。
「……」
「気に入った?」
力強く頷いた。
「ならよし」
三体目。
半透明の小さなスライム。
ぷるぷる揺れている。
「ミム」
擬態能力があったはずだから、ミミックのミム。
分かりやすい。
「ミム?」
小さな声がした。
「喋れるんだ?」
「ミム」
ぷるん。
どうやら語彙は少ないらしい。
「よろしく、ミム」
「ミム!」
少し跳ねた。
四体目。
アイスゴーレム。
「……」
「……」
大きい。
そして氷。
横を見る。
夏がいる。
雪女。
名前は夏。
「フユ」
ゴーレムが動きを止めた。
「夏と冬でちょうどいいじゃん」
「……」
夏も黙った。
「嫌?」
「いいえ」
夏がフユを見る。
「非常に良い名だと思います」
「本当に?」
「はい」
フユが大きな身体を屈めた。
「我ガ名、フユ。感謝、スル」
「おお、喋った」
最後。
オーク・ウォーロード。
二メートルを超える巨体に巨大な斧。
いかにも武人という感じだ。
「ゴウ」
「ゴウ!」
「うん」
「我ガ名、ゴウ! 主ヨ、感謝スル!」
「声でかいな」
「ハッ!」
こいつは分かりやすい。
五体を見る。
ネネ。
ガル。
ミム。
フユ。
ゴウ。
ゲーム時代には名前すらなかった召喚獣たち。
でも今は。
名前を呼ぶと、それぞれ違う反応をする。
(……本当に生きてるんだな)
NPCたちの時ほどの衝撃ではない。
でも、少し不思議な気分になった。
「あるじ様」
マインが静かに口を開く。
「何?」
「彼らに御名を授けられた以上、我らと同じく《ミステイク》に連なる者として扱ってよろしいでしょうか」
「もちろん」
即答した。
「呼び出した以上、仲間みたいなものだろ」
五体が一斉に頭を下げた。
また重く受け取られた気がする。
「で」
俺は五人と五体を見比べた。
「ちょうどいいな」
「何がでしょう?」
「五人に五体」
指を差していく。
「一人一体、補佐につければいいんじゃない?」
マインが瞬きをした。
「私どもの、補佐に?」
「うん。能力的にも合いそうだし」
まずネネ。
「マインは全体を見ることになるだろ? ネネは手も多いし、物資管理とか書類整理とか得意そう」
「なるほど」
マインがネネを見る。
「ではネネ。今後、私の補佐をお願いします」
「命に代えましても」
「命には代えなくていいから」
次。
「サラにはガル。二人とも飛べるし、偵察向き」
サラがガルを見る。
「よろしくお願いします」
ガルが頷く。
「エルにはミム」
「あら」
エルがミムを持ち上げる。
ぷるん。
「可愛らしいですね」
「擬態と記憶系の能力があったはず。街で情報を集めるなら便利だと思う」
「では私と一緒に、人間社会について学びましょうね」
「ミム!」
「相性良さそうだな」
そして夏。
「フユ」
「はい」
「こいつ、氷属性だよね」
「そのようです」
「夏、火魔法ばっかりだけど大丈夫?」
フユが僅かに後ずさった。
「大丈夫です」
夏が言う。
フユがさらに一歩下がった。
「本人は大丈夫じゃなさそうだけど」
「慣れます」
「何に?」
「私に」
ちょっと怖い。
最後。
「マジカにはゴウ」
「承知しました」
「マジカは森側の防衛を担当してもらう予定だから、ゴブリンたちの訓練とか指揮をゴウに覚えさせたらいいんじゃない?」
マジカがゴウを見る。
「戦えるか」
「無論!」
「では後ほど確認する」
「ハッ!」
何かもう始まっている。
「まあ、その辺は任せるよ」
俺は手を叩く。
「その前に飯。その後、会議」
「承知いたしました」
五人が頭を下げる。
その後ろで、名前を得たばかりの五体も同じように頭を下げた。
その時の俺は、単に便利だから割り振っただけだった。
まさか。
この五体が後に《ミステイク》の各部門を支える副官として、森の内外に名を知られる存在になるなど。
当然、知るはずもなかった。




